CESで見た「スマートグラスの可能性」を考える西田宗千佳の「世界を変えるVRビジネス」(1/2 ページ)

» 2019年01月30日 16時38分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

 1月8日から11日まで、米ラスベガスでは、テクノロジー関連イベント「CES 2019」が開催された。VR・AR関連の発表がかなり多かったのだが、特に筆者の印象に残ったのは、「ARグラス」「スマートグラス」に関する出展の多さである。今回は、こうした製品が特に法人市場にどう影響を与えるかを考えてみたい。

まるで「メガネ」 デバイスの進化でデザインが大きく変わる

 2019年のCESでは「ARグラス」「スマートグラス」の出展が目立った。どんなものかは、現地で撮影してきた写真を見ていただいた方が話が早い。

 以下の写真は、North開発したスマートグラス「Focals」だ。FocalsはiPhoneやAndroidとBluetoothで連動し、アプリからの情報やメッセージの通知などを「視界の中に」表示する。

Northのスマートグラス「Focals」。iOSとAndroidに対応しており、音声アシスタントのAlexaも使える。カナダ・アメリカの2カ所の直営店で限定販売中。999ドル

 単独で動作するわけではなく、スマートウォッチと同じように、スマートフォンのコンパニオンディスプレイとして作られている。だから「スマートグラス」、というわけだ。価格は999ドル。

 既にカナダ・トロントとアメリカ・ブルックリンにある直営店で販売が始まっている。ただし、現状直営店のみでの販売で、日本で売る予定はないという(この点については後ほど解説する)。

 こうした製品は、2012年にGoogleが発表した「Google Glass」によって世に知られることになったわけだが、当時はメガネからは懸け離れたデザインであること、処理の中心となるスマートフォンの性能も通信速度も遅かったことなどから、明確な価値を生めないまま開発が縮小された経緯がある。

 別の言い方をすれば、当時は「早すぎた」のだ。2019年のCESで出たスマートグラスは、Focalsはもちろん、他の製品もかなり「メガネに近づいて」いる。

 次の写真は、業務用スマートグラスでは老舗ともえるVuzixの「Blade」。Focalsに比べると少しごついが、こちらはスマホ連携だけでなく、単体でアプリケーションも動くようになっている。日本でも、技適を通した上で開発版を販売(12万円を予定)する計画なので、Focalsよりも手を出しやすい。

Vuzixのスマートグラス「Blade」。日本でも開発者向けの販売が予定されている。スマホを使わず本体のみでARアプリが動作するのがポイント。

 スマートグラスより一段階進んだ製品もある。「Nreal Light」は、HoloLensやMagic Leap Oneと同じく「ポジショントラッキング」を備えた製品で、単純な情報表示以上の機能を持つ。こちらも一見「派手なサングラス」というくらいのサイズ感だが、有線接続された手のひら大の端末に入ったCPU(QualcommのSnapdragon 845)を使い、比較的高度な処理が可能になるという。

Nrealの「Nreal Light」。ちょっと派手なサングラスというイメージだが、画像ベースのポジショントラッキング機能も内蔵。ケーブルで接続された本体と連動して動作する。2019年第3四半期に発売を予定

 筆者が試した範囲でいえば、HoloLensやMagic Leap Oneなどのライバルほどポジショントラッキングの精度は高くなかった。また、アプリケーションストアの展開やUIの実装状況など、どうにもまだ評価がしづらい部分がある。説明員によれば「2019年の第3四半期に、ハイエンドiPhoneと同じくらいの価格」で販売される予定だという。ということは、これもだいたい1000ドル前後、というような価格帯と想像できる。

まずは「情報表示」から始まるスマートグラス

 過去に比べれば手を出しやすい……とはいえ、これらのスマートグラスは10万円を超えるような、高価なものだ。いきなり消費者が争って買い求めるヒット商品になることは考えづらい。まずはB to Bを中心とした市場および、将来の個人市場を見据えたリサーチ用、ということになるだろう。

 では、どういう可能性があるのか?

 まずは「分からないこと、今知りたいことを表示するデバイス」としての価値がある。画像は、North Focalsのデモ映像より抜粋したものだ。非常にシンプルなものだが、実際、デモを体験した筆者にも同じように見えた。スマートウォッチのキラーアプリケーションの1つが「通知」であるように、スマートグラスも「通知」が重要な機能であることは疑いない。何かをしながら情報を見られる、ということは、特にB to B分野では大きな要素かと思う。相手に知られることなく情報を参照できるので、接客などにも使えるだろう。

North Focalsの公式ページより。画面にシンプルな情報を表示して利用する
実際デモでも、これに近い見え方になっていた

 Google Glassの時代との違いは、音声アシスタントが大きく進化していることだ。North Focalsの場合、CESに同社独自のブースがあったわけではない。Amazonが音声アシスタント「Alexa」のブースを設けており、そこに「Alexaを使った先進的な機器の例」として展示されていた。

 Alexaは(もちろんまだ不完全だが)個人のアシスタントのように働く。ARなどではタッチパネルもマウスもつかえない。かといって、腕を使ったUIを日常的に多用するのは疲れる。現実的な路線としては、こうした音声アシスタント連携が必須になるだろう。

 特にAlexaの場合、業務用に自社専用のデータを生かし、PC向けの業務システムとの連携を想定した「Alexa for Business」があり、個人向け以外にも幅広く使えるところがポイントだ。

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