新「iPad Pro」はどこまでパソコンに近づいたのか 2020年モデルをいち早く試した本田雅一のクロスオーバーデジタル(2/4 ページ)

» 2020年03月24日 21時30分 公開
[本田雅一ITmedia]

まだ謎の多い「A12Z Bionic」の実力

 まず実機で確認したのは新モデルに搭載されるプロセッサ「A12Z Bionic」と、旧モデルの「A12X Bionic」における実力差だ。

 両者は同じ世代のプロセッサコア、「Neural Engine」にImage Signal Processor(ISP)、そしてGPUを内蔵しているが、GPUのコアだけが7個から8個へと増量されている。それ以外は動作クロック周波数を含めてスペックは同一だ。

 言い換えれば「iPhone 11」シリーズが搭載する「A13」世代のプロセッサコアやNeural Engine、ISPではないということでもある。例えばiPhone 11シリーズのカメラが持つ「Deep Fusion」や「ナイトモード」といった撮影機能は、iPad Proでは利用できない。これらは「A13 Bionic」の機能を用いたものだからだ。

 このことからも分かる通り、新旧iPad Proのプロセッサは極めて近いパフォーマンスで動作する。クロスプラットフォームのベンチマークテストである「Geekbench 5」を動かしてみると、両者の動作周波数は2.4GHzで全く同じ。スコアもシングルコア、マルチコアともに同等レベル(それぞれ1150、4500前後)であることが分かった。

ipad proipad pro Geekbench 5のCPU(シングルコア、マルチコア)テスト結果(左が新モデル、右が旧モデル)

 この数字はシングルコアでいえばIntelの第10世代Core(開発コード名:Ice Lake)より少し上、マルチコアでもやはりやや上だ。同時発売されたMacBook Airはマルチコアの成績が抑え気味で、2500〜2600程度だったことを考えればかなりの好成績だろう。

 何しろiPad Proは完全ファンレスの超薄型・軽量設計である。約1年半前から変わらないとはいえ、いまだに同クラスではトップの実力を持つ。

 これはGPUパフォーマンスにも当てはまり、A12X Bionicでさえ9350前後のスコアを叩き出す。A12Z Bionicではさらに、1個のコアが追加されたことで10%ほど向上し、GPUの演算スコアは10300程度まで高まっていた。

ipad proipad pro Geekbench 5のGPU(Metal)テスト結果(左が新モデル、右が旧モデル)

 新型MacBook AirのCore i5モデルでGPUのスコアが8500ぐらいだったことを考えると、薄型ノートPCと比較しても新旧両iPad Proともに、こちらもiPad Proのパフォーマンスが一線級であることを示している。

 しかし、この序列はGeekBench 5を用いたときの場合で、別のベンチマークテスト「AnTuTu Benchmark」を用いると少し様子が変化してくる。CPU、GPUともに新モデルの方が明らかによい値が出るのだ。

ipad proipad pro AnTuTu Benchmarkのテスト結果(左が新モデル、右が旧モデル)

熱設計とパフォーマンスコントローラーを最適化

 これだけの高性能を薄く軽量なボディーに収めているのだから、そこで重要になってくるのは性能を引き出したときの熱の処理だ。A12Z Bionicの内蔵GPUが1つ増えているのは、どうやら熱設計の最適化を図ったことで追加できた、ということのようだが、実は各部のパフォーマンスをバランスさせながら、動作状況に応じてパフォーマンスを最適化するコントローラーもアップデートされている。

 画面ショットを見て分かる通り、AnTuTu Benchmarkでは優位に新型iPad Proの方が高い性能を出している。何度計測しても同様なので、AnTuTu Benchmarkで動かすプログラムの動作条件では、同じスペックのCPUコアでもA12Z Bionicの方が高速に動作していることになる。GPUもコアの増分(+14%)よりも少し上の性能が出ている。

 一方、Adobe Systemsのビデオ編集ソフト「Premiere Rush」で動画プロジェクトのレンダリングを行ってみたところ、こちらは両者にほとんど違いはなく、わずかにA12X Bionicの方が高速という意外な結果が出た(5分の処理時間で5秒ほどの差が出る程度なので、有意といえるほどの違いではない)。

 この辺りは、今後さらにバランスが詰められていくのか、それとも動作環境(室温など)や組み合わせるコンパイラの最適化で変化していくのか、まだ謎な部分が多い。

 ほぼ同様のパフォーマンスではあるが、動作環境への最適化実装が少し変わっている、程度に捉えておくといいだろう。

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