世界最大級のモバイル関連イベント「Mobile World Congress 2011」にさきがけて新製品を発表し、会期中に米Akamai Technologiesとの戦略的提携を発表した通信インフラ大手のEricsson。ホールを借り切って下り最大168Mbpsを実現するHSPA+や最新の小型無線ユニット、AR(Augmented Reality:拡張現実)サービスなどのデモを展開し、大きな存在感を示していた。
プレス向けの発表会で講演した同社CEOのハンス・ヴェストベリ氏は、今後10年の業界予測を交えながらEricssonの方向性と取り組みを紹介。今後20年は、これまで20年かけて張り巡らせてきたネットワークを使うネットワーク社会になると述べ、コンシューマーから企業や政府、ヘルスケア、教育などの幅広い分野で使われ始めるモバイルブロードバンドが、社会全体にインパクトを与えると予言した。このネットワーク社会を推進する要素としてヴェストベリ氏が挙げるのは、モビリティ、ブロードバンド、クラウドの3つだ。
音声通話からはじまったモバイルサービスはめざましい進化を遂げ、モバイルマネーなどの新たな用途も生まれている。モバイルの普及がもたらす経済効果を実証する数々のデータもあり、「政府は交通などの既存のインフラに加え、モバイルブロードバンドを重要なインフラと見ている」とヴェストベリ氏は説明する。実際、2010年末時点で6億に達したモバイルブロードバンドの契約数は、2011年には10億、2016年には50億に達するとみられ、同じ2016年には、モバイルのデータトラフィックがPCと肩を並べるとヴェストベリ氏は予測する。
Ericssonはこうしたモバイルブロードバンド時代に対応すべく、Mobile World Congressの開幕前に新製品として「AIR」(Antenna Integrated Radio)と「SSR」(Smart Service Router)を発表した。AIRはアンテナと無線ユニットを一体化したもので、消費電力を42%削減でき、設置時間を3分の1に短縮できるという。3GとLTEに対応し、LTEの導入や周波数帯の対応をスムーズに行えるとのことだ。同じコンセプトの製品は、仏Alcatel−Lucentからも発表されている(提供時期は明らかになっていない)。Ericssonのブースの説明員によると、AIRの商用出荷は9月を予定しているという。
SSRはモバイルパケットコアネットワークの土台となるもので、小型ながら高度な処理能力を備え、大規模なデータトラフィックに対応できるという。Ericssonは2011年を通じてIPネットワーク製品のポートフォリオを拡充する計画で、SSRはその第1弾となる。
無線技術については、2月にシンガポールの通信キャリアSingtelと共同で行ったマルチキャリアHSPAのデモで、下り168Mbpsの通信速度を実現。商用機器上の最高記録を達成した。同社はMWCのブースでも同じデモンストレーションを展開。HSPA+モジュールを搭載したノートPCと小型基地局という環境を構築し、ノートPC側で16の異なる動画を再生しながら1Gバイトの動画ファイルをダウンロードし始めたところ、168Mbpsに近い速度を記録した。
下り168Mbpsという通信速度は、マルチキャリア(4波)と64QAM、もしくはマルチキャリア(2波)とMIMOと64QAMで実現できる。実演していたデモ環境はマルチキャリア(4波)と64QAMだが、MIMOを使うことも可能としている。ただ、MIMOはハードウェアをアップグレードする必要があることから、導入している通信キャリアは少ないという。
現在、HSPAの商用サービスは下り最大42Mbpsが最速で、15の通信キャリアが提供している。今後のロードマップについてヴェストベリ氏は、2012年に下り最大84Mbpsのサービスに対応するデータ通信端末が登場し、168Mbpsはその1年以上後に登場するとみる。スウェーデンでスタートし、米国や日本でも商用サービスが始まったLTEについては、11カ国16の商用LTEネットワークの契約をEricssonが獲得しているという。
ヴェストベリ氏が最後に取り上げたのが、クラウドへの取り組みだ。「Ericsson自身が変わる必要がある」とヴェストベリ氏は述べ、Akamai Technologiesとの独占提携により、モバイル市場のクラウド化を加速するソリューションを共同で提供することを明らかにした。
この提携により、Akamaiが固定網で提供するキャッシュ技術による高速化をモバイルでも実現。固定網ではISP内にAkamaiのキャッシュサーバが設置されているが、モバイルではこれをオペレータ内に置くことで、モバイル端末からのコンテンツへのアクセスを快適にする。「コンテンツ配信のリーダーとモバイルブロードバンドのリーダーが手を組み、モバイルでのコンテンツ配信を高速化する」とヴェストベリ氏は自信を見せた。
Akamaiの社長兼CEO、デビッド・ケニー氏は、「今日のモバイルは、1995年当時のインターネットと同じ。今後どのようなことが可能になるのか想像もできない。(モバイルブロードバンドでの)今後のイノベーションに期待している」と語った。
両社はすでに共同の取り組みをスタートしており、今後6カ月でオペレーター側のテストを始め、2012年に一般向けに提供できるソリューションに仕上げる計画だ。
なお、展示会場では拡張現実サービスのデモも展開。カメラやGPSなどの端末機能を利用して、カメラ越しの風景にデジタル情報を重ね合わせて表示するサービスの活用事例を紹介していた。
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