MWCにみるモバイル業界NFC最前線――世界サービス共通化は近いか?Mobile World Congress 2011(1/2 ページ)

» 2011年03月08日 09時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),ITmedia]

 今年2011年に開催されたMobile World Congress(MWC)におけるテーマの1つに、NFC(Near Field Communications)があった。NFCとは、わずか数センチメートルの距離でデバイス同士が無線による非接触通信を行うための通信規格。世界標準の規格として、今後さまざまな分野での応用が期待されている。特にクレジットカード情報や電子マネー情報を載せて使う「モバイルペイメント」分野での利用が想定され、モバイルデバイスにおける主流技術の1つになることが見込まれるものだ。日本では「おサイフケータイ」などの名称でモバイル決済サービスは広く利用されているが、世界的にはどうなっていくのか。MWCで紹介されていたNFCに関するいくつかの取り組みを見てみよう。

Visaが提供するモバイルペイメント実験サービス

 NFCによるモバイルペイメントは、すでに一部地域では商用サービスがスタートしている。また、世界的にもさまざまなサービス事業者やベンダーが実証実験を開始しているところだ。MWCの展示から、まずはVisaのサービスを見てみよう。Visa Europeでは先日、カナダのWireless Dynamicsとの提携でiPhoneを使ったモバイルペイメントサービスの開始をアナウンスしている。

photo iPhoneにVisaクレジットカードのセキュリティチップ搭載ケースを組み合わせたモバイルペイメントシステム。すでに一部地域でサービスがスタートしている

 このサービスは、Visaのクレジットカード情報が収められたNFCのセキュリティチップを「iCarte」と呼ばれるWireless DynamicsのiPhone向けドングルに内蔵し、これをiPhoneアプリと組み合わせてカード認証を行う仕組みだ。アプリを起動した状態で端末を専用カードリーダーに近付けると、認証が開始され、決済が完了する。説明によれば、ロンドンをはじめとしてすでに欧州6拠点で試験的にサービスが開始されているという。

photo NFCインタフェースを搭載したNexus Sでは、セキュリティ情報を搭載したUICC(USIM)と組み合わせることで電子決済が可能になる

 iPhoneの場合、現状では標準でNFCを実装していないため、外付け機器を装着した状態でないと利用できない。だが、Androidでは昨年2010年末に発表されたAndroid 2.3(Gingerbread)でNFCのインタフェースがサポートされ、すでにNexus Sなどの対応端末が市場に投入されている。Visaのブースではこれを利用した実験システムも紹介されていた。コーヒーメーカー横のタッチパネルで注文内容を指定し、最後の確認画面で金額が表示された状態で、NFCの専用リーダーにNexus Sを近付けると決済が行われるというものだ。


photophoto コーヒーメーカーとモバイルペイメントを組み合わせたシステム。注文を選んで金額を確定し、Nexus Sで決済アプリを起動状態にして専用リーダーに近付けると……(写真=左)。Visaの提供するpayWaveサービスの専用リーダーの一種。これとICカードまたはスマートフォン上のアプリを組み合わせて決済する(写真=右)

 Nexus Sの場合はすでにNFCの通信インタフェースが端末内に実装されているので、あとはクレジットカード情報を入れたセキュリティチップを組み合わせるだけでいい。今回の場合、携帯電話のSIMカードにカード情報を搭載したUICC(Universal Integrated Circuit Card)というセキュリティチップを使って、認証を行っている。iPhoneと違い端末の外観は何も変わらず、シンプルに利用できる。

 お気付きかもしれないが、このVisaの決済サービスの仕組みはいわゆる「おサイフケータイ」の仕組みとはかなり異なる部分がある。おサイフケータイでEdyやSuicaなどを使う際には、携帯電話に内蔵されたセキュリティチップ内に現金情報が記録される。端的にいうと、いわゆる「電子マネー」を携帯電話と一緒に持ち歩いている状態だ。だがVisaの場合、携帯電話のセキュリティチップには認証に必要なクレジットカード情報しか記録されておらず、電子マネーの実体は存在しない。あくまでバックエンドのシステムで、携帯電話からの認証リクエストがあった場合にトランザクションが走り出す仕組みとなっている。

韓国とNFCサービス

 1月19日、NTTドコモが中国のChina Mobile(中国移動)と韓国KTとの戦略提携を発表し(ニュースリリース)、さらにKTとはAndroidを利用したNFC相互サービス乗り入れについて具体的なプランを2月9日に発表した(ニュースリリース)。韓国では2002年からポストペイド型の非接触型ICカード交通システムを導入しており、今後はおサイフケータイおよび韓国のモバイルペイメントサービスの上位規格にあたるNFCを使って、相互運用を進めていこうという試みだ。両社によれば、2012年末までにサービスを開始する予定という。

 KTが韓国で提供しているモバイルペイメントサービスの内容については、同社エグゼクティブバイスプレジデント(EVP)で顧客戦略部門担当チーフストラテジーオフィサーのHyunmi Yang氏が、MWCのカンファレンスで説明している。

photophoto 韓国KTのHyunmi Yang氏が各国のNFC対応状況を報告

 同氏によれば、KTは2002年の交通システム分野への参入を機に、2004年には携帯電話に内蔵したICチップ経由でのモバイルペイメントやモバイルバンキングサービスを開始しており、さらに2007年にはUSIMを使ったIDサービスの提供など、順次サービス領域を拡大しているという。そして昨年2010年には「Olleh Touch」のブランド名で統一的なNFCベースの通信プラットフォームをスタートしており、銀行などとの提携で全国規模での展開を進めている。

 韓国の携帯電話普及率は2010年第3四半期時点で103.9%、そのうちモバイルバンキング利用者は1300万人で全人口の26%、モバイル交通システムは1000万人で1割強であるという。韓国ではスマートフォンへの移行がまさに進んでいる状況にあり、USIMとNFCを組み合わせたシステムの本格普及はこれからということになる。

photophotophoto 韓国でのモバイルペイメントサービスや交通機関向けシステム、NFCの導入状況を報告。銀行やリテーラーらの協力で利用範囲を広げている。なお同氏は、AppleがiPhone 5でNFCをサポートすることで、さらに利用範囲が広がると説明していた(もちろん、Apple自身は次期モデルに関する情報を発表していない)

 Olleh Touchの端末パートナーの1社であるSamsungのMWC展示ブースでは、同プラットフォームに対応した製品が紹介されていた。Android 2.3が初めて搭載されたNexus SをOEM提供しているSamsungでは、そのベースとなったGalaxy Sをさらに進化させた「GALAXY S II」をMWCで発表している。このGALAXY S IIはNFCを標準サポートしており、前述のようにUSIMとの組み合わせでNFCベースの各種非接触通信サービスが利用できるようになる。展示ブースではGALAXY S IIを利用した乗り換えシステムの実演のほか(筆者が見たときにはうまく動作していなかった)、アプリを起動した状態で専用リーダーに触れるとVisa PayWaveやMastercardのPayPassを使ったモバイルペイメントが可能になるシステムが展示されていた。

photophoto SamsungブースでのNFC関連展示。B Passと呼ばれるトランジットシステムをNFC端末で使うデモのほか、Visa PayWaveやMastercard PayPassによる決済認証デモを実演。筆者の取材時にはVisaアプリの動作しか確認できなかった

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