“何が起こっているかを理解して対応する”トラフィック対策を――NSNの「Liquid Net」構想Mobile World Congress 2012

» 2012年03月16日 21時18分 公開
[末岡洋子,ITmedia]
Photo LTE無線アクセス事業を率いるトミー・ウイット氏

 LTEの商用サービスが続々と始まる中、通信インフラベンダーには高速通信への対応だけでなく、トラフィック対策を講じるためのソリューションも求められている。

 インフラベンダー大手のNokia Siemens Networks(NSN)は、どんなトラフィック対策を提案しているのか――。LTE無線アクセス事業を率いるトミー・ウイット(Tommi Uitto)氏に聞いた。

スマートデバイスがLTEの普及を後押し

―― 世界の通信業界の動向について教えてください。

ウイット氏 LTEは米国、日本、韓国、北欧の4地域が先行しています。加入者は順調に伸びており、通信キャリアの多くが百万単位の加入者を獲得している状況です。Verizon Wirelessでは、LTE加入者が700万人に達しています。

 LTEの導入はスムーズで、10年前のWCDMA(3G)よりもスピーディに移行しています。3GPPが仕様の策定を終えてから端末が登場するまでの期間は、3GもLTEも約1年半かかりましたが、LTEは端末のポートフォリオが急拡大しました。LTEを提供する通信キャリアが、今もUSB端末やデータ通信カードしか提供していなかったら、これほどのペースでは伸びなかったと思います。つまり、スマートフォンやタブレット端末の人気がLTEが普及する大きな要因になっているわけです。3GとLTEをあわせたモバイルブロードバンドのトラフィックは、毎年60〜100%程度増加しています。

 NSNは、日本ではNTTドコモとKDDI、韓国ではSK-TelecomやKT、北欧では主要通信キャリアすべてに、そして北米ではVerizonにLTE製品を納入しています。

―― TD-LTEについてはどう見ていますか?

ウイット氏 TD-LTEは世界全体で実装され、標準的なものになると考えています。中国、日本、インド、ロシア、米国などがTD-LTEの大きな市場になると見ており、数年後にはLTE市場全体の4分の1程度を占めると予想しています。

 NSNはLTE市場のトップを目指しており、そのためにはTD-LTEでもナンバー1になる必要があります。製品としては、LTEとTD-LTEの両方式に対応する無線基地局「Flexi Multiradio Base Station」を持っており、世界的にプロモーションしていく計画です。

“何が起こっているかを理解して対応する”トラフィック対策を

―― LTE市場でトップ企業になるための戦略を教えてください。NSNの強みはどこになるのでしょうか。

ウイット氏 1つはトラフィック対策です。3G向けサービスを展開する中で、スマートフォンが増えると制御信号のシグナルトラフィックが急増することが分かりました。これは、従来は起こっていなかった新しい要件といえます。NSNはスマートフォンに最適化した3Gネットワークを提供した実績があり、ここは強みになります。NSNのネットワーク上での端末のバッテリーの持ちは最長で、シグナルキャパシティのボトルネックもほとんどありません。

 このようなネットワークを提供できたのは、世界5カ所に設置したスマートフォンラボのおかげです。このラボに端末メーカーやアプリ開発者を招き、さまざまな端末をテストしてもらっています。基本的な相互運用性テストよりもはるかに深いレベルの検証を行うことで、アプリや端末、ネットワークといった構成要素の全体を最適化できるのです。

 個々の技術についても効率化を図っており、例えば待機状態と通信状態の中間にCell-PCHという層を設けています。接続を維持しつつ、呼び出しなどをモニタリングすることで、通信状態に移行するときは半分のシグナルトラフィックですむようになっています。

 このように、3Gのネットワーク構築で得たノウハウや知識をLTEでも実装し、LTE市場でのトップを目指します。ユーザーがスマートフォンを最大限に使えるようなネットワークを提供するつもりです。

―― 急増するトラフィックについては、素早く柔軟な対応が必要といわれています。この点についてNSNはどのような提案をするのでしょうか。

ウイット氏 動きが激しいこの業界で、新たな端末やアプリ、トラフィックなどについて将来を予測することは不可能――というのが私たちの結論です。これまでのように、エンジニアが計算して将来を予測するようなアプローチではなく、“何が起こっているのかを理解して対応する”ことが大切になるでしょう。

 そこで私たちが発表したのが「Liquid Net」構想です。無線アクセスインフラをまとめる「Liquid Radio」、コアネットワークの「Liquid Core」、データの伝送を担う「Liquid Transport」で構成され、仮想的にキャパシティを集めて流動性のあるネットワークを実現します。基地局、コアネットワークなどに分散しているリソースを集めてプールし、キャパシティが必要とされているところに流すイメージです。

 Liquid Net構想はハードウェア、ソフトウェアなどの具体的な製品で実現していきます。その1つがアクティブアンテナ技術「Flexi Multiradio Antenna System」で、アンテナと無線送受信(RF)部分の結合による電力の効率化、ビームフォーミングによるキャパシティ改善などのメリットがあります。

 また、ベースバンドプールソリューションでは、複数の基地局で行っていたデジタル信号処理キャパシティを1カ所に集めてプールすることで、キャパシティを柔軟に割り当てられます。MWCの会期中には、基地局の運用や設定を最適化するSON(Self Organizing Network)をコアネットワークにも拡大する「SON for Core」も発表しています。

Photo アンテナ「Flexi Multiradio ActiveAntenna」(画面=左)。複数の基地局が連携して効率化を図るLTE-Advancedの技術「CoMP(Corporative Multi Path)」やビームフォーミングなどの技術を利用し、柔軟にリソースを配分する。右はMWCの会期中に発表したアクセスポイント「Flexi Zone」(画面=右)。スタジアムやビルなど密度の高い場所でエリアを構築する。100セル相当が可能で、コントローラーで集約することで1つの基地局として動作するという

―― トラフィック対策以外の通信キャリアの課題については、どう見ていますか。

ウイット氏 通信キャリアは、モバイルブロードバンドをいかに収益に変えていくかが重要になるでしょう。ネットワークを利用する側の企業に、全ての価値を奪われないようにしていく必要があります。

―― ネットワークインフラ分野では、Huawei TechnologiesやZTEといった中国ベンダーがシェアを伸ばしています。新興ベンダーに対するNSNの強みは。

ウイット氏 世界でもトップクラスの無線ネットワークの専門家を抱えていることです。GSM、W-CDMAで培ってきた専門技術と知識があり、これはLTE時代にも大きなメリットになります。また、高いネットワーク技術を持っているだけでなく、通信キャリアのネットワークの運用についても理解しており、管理サービスなどのポートフォリオも幅広くそろえています。通信キャリアは、ネットワークの構築や設定だけでなく、運用管理まで任せられます。

 私たちの戦略は、モバイルブロードバンドサービスにフォーカスしています。固定とモバイルの双方をカバーする時代は終わったと考えており、今後、しっかりと的を絞ることで、価値あるサービスを提供していく計画です。

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