太陽光発電の事業化が加速、10年で採算がとれる解説/再生可能エネルギーの固定価格買取制度(4)

7月からスタートした固定価格買取制度で最大の注目点は、太陽光発電の買取価格が1kWhあたり42円と高めに設定されたことだ。10年以上にわたって買取が保証されており、太陽光発電事業への参入が相次いでいる。設置・運用コストと売電収入を計算すると、通常は10年かければ利益が出る。

» 2012年08月29日 10時22分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]
図1 7月1日に発電を開始した「ソフトバンク榛東ソーラーパーク」(群馬県榛東村)

 ソフトバンク、京セラ、JA、大林組...。この春以降に明らかになった太陽光発電所の建設計画は数え切れないほどある(図1)。

 積水ハウスのように自社工場の敷地を活用して太陽光発電に取り組むケースもあれば、大東建託のように全国にある賃貸住宅の屋根に太陽光パネルを設置して数10MW(メガワット)の電力を生み出すプロジェクトも始まっている。

 7月1日に再生可能エネルギーの固定価格買取制度が開始されて以来、企業のみならず一般家庭でも太陽光発電システムの設置件数が急速に増えている。7月の1か月間に買取制度の対象として認定された太陽光発電システムは全国で3万件以上にのぼる勢いだ。

 これほど太陽光発電が有望視されている要因は主に3つある。第1に電力の需要が最も大きい夏の昼間に効率的に電力を生み出せること。需要と供給の観点から理にかなっている。第2に設置工事が簡単で運用の手間もほとんどかからない。そして第3の要因として買取価格が高めに設定された点が挙げられる。

土地代が不要ならば確実に利益が出る

 太陽光発電の最大のメリットは火力や原子力に依存しない安全な電力供給源になることだが、当然ながらコスト対効果が良くなければ拡大は見込めない。その点で買取価格が1kWhあたり42円と高く設定されたことは大きな意味がある。具体的に検証してみよう。

 まず太陽光発電システムのコストだが、資源エネルギー庁が買取価格を決めるにあたって想定した建設費は住宅用の小規模な場合(10kW未満)で46万6000円/kW、非住宅用の場合(10kW以上)で32万5000円/kWである(図2)。実際に家電量販店などでも、この住宅用の価格水準で販売されている。設置後の運転維持費は住宅用が年間に4700円/kW、非住宅用が1万円/kWになる。

図2 発電方法別に定められた固定買取価格。出典:資源エネルギー庁

 ここでは企業や自治体が太陽光発電による電力をすべて買取制度によって電気事業者に売る場合を想定する。例えば100kWの発電能力をもつ太陽光発電システムを導入すると、建設費が3250万円、年間の運転維持費が100万円になる。10年間の合計で4250万円のコストがかかる。

 これに対して発電できる電力量は天候や地域によって変動するが、通常は1kWの発電能力のシステムで年間に1300kWh程度の電力を生み出せる。100kWのシステムだと13万kWhになり、10年間で130万kWhの電力を供給することが可能だ。買取価格は消費税を抜くと1kWhあたり40円に設定されているため、10年間で5200万円の収入が見込める。

 つまり10年間で5200万円マイナス4250万円になり、1000万円近い利益が出る。買取期間は20年間にわたって保証されており、発電システムに問題が生じない限り、11年目以降も毎年利益を積み上げることができる。最近は20年間の保証をつけた太陽光発電システムも販売されるようになってきた。

 ただし以上の計算に土地代は含まれていない。企業が自社で所有する遊休地や工場などの既存施設を活用する場合には考慮しなくてもよいが、土地や施設を借用する場合には追加のコストになる。

“固定”の買取価格は年々下がっていく

 太陽光発電の買取価格が42円に設定されたことに対して、高すぎるのではないか、との批判の声も少なくない。この高めの価格設定は太陽光発電に取り組む企業や家庭を早急に増やすことが目的であり、今のところ大きな効果を上げている。

 しかし一方で企業や家庭の電気料金を上昇させる要因にもなる。電力会社をはじめ電気事業者が42円で買い取った電力は、通常の火力などによる電力よりもコストが大幅に高く(天然ガスによる火力発電の場合は10円程度)、その差額は電気料金に上乗せされることになっている。

 しかも買取契約を結んだ時点の価格が契約期間中は継続されるため、42円の買取価格は20年間(住宅用の場合は10年間)にわたって固定される。これが固定価格と呼ばれる理由だ。

 この買取価格の設定は毎年度に見直されるので、2013年度以降に買取契約を結ぶ場合には必ずしも42円は保証されない。今後は太陽光発電システムの設置コストが下がっていくと予想されており、それに合わせて買取価格も安くなる見込みである(図3)。 

図3 太陽光発電設備の導入コスト(左)と買取価格(右)の予測。出典:環境省

 特に制度開始から3年間は買取価格を高めに設定する方針がとられていることから、4年目以降は確実に買取価格が下がる。3年目の2014年度までに発電を開始して買取契約を結ぶほうが有利と言える。

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連載(1):「日本のエネルギー市場を変革する、新制度がスタート」

連載(2):「電力を高く売るための条件、少しでも安く使う方法」

連載(3):「買取拒否と接続拒否ができる、新制度に残る運用上の問題」

連載(5):「風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも」

連載(6):「水力発電に再び脚光、工場や農地で「小水力発電」」

連載(7):「地熱発電の巨大な潜在力、新たに「温泉発電」も広がる」

連載(8):「バイオマスは電力源の宝庫、木材からゴミまで多種多様」

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