App Storeの開発者は勝つことで負けるのだろうか? これはAppleのApp Storeが10億ダウンロードに近づいている今、問うべき質問だ。App Storeはハリウッドの映画のセットの家――後ろに何もない書き割りのようなものだ。
どうか誤解しないでほしい。App StoreはおそらくiPhoneの中で一番いい部分だ。わたしはこのストアを、次世代コンピューティングプラットフォームとなるもののキラーアプリだとうたってきた。だからと言って、熱意のあまり現実が見えなくなっているわけではない。市場シェア0.9%のiPhoneは、App Storeを支える極めて小さな土台だということだ。
問題は、あまりに多くのモバイル開発者――少なくともシリコンバレーの――がApp Storeに固執し、もっともっと多くの顧客にリーチできるモバイルアプリストアに目を向けていないということだ。4月11日のVenture Beatの記事「iPhone devotion blinds Silicon Valley app developers(iPhoneに盲目的献身を捧げるシリコンバレーのアプリ開発者)」では、App Storeブームがいかに誤った方向に進んでいるかを示すぞっとするような実態を見せている。クリスティーン・ゴンザレスは、4月6日のAdMob後援のイベントに参加した「英国のモバイル起業家でブロガーのイワン・マクレオド」について、次のように書いている。
マクレオド氏はパネリストの開発者たちに、2010年末までに4億台の携帯電話にリーチする見込みの(Nokiaの)Ovi Storeに力を入れているかと尋ねた(これに対してAppleはiPhoneとiPod touchを合わせて3000万台。米国でのユーザー基盤は1500万人と推定される)。反応はどうだったかというと、夜中に鳴くコオロギのようだった。マクレオド氏が「ロックスター」と表現する4人のiPhoneアプリ開発者のうち、Zyngaのアラン・ウェルズ氏だけが、Ovi Store向け製品の開発を「検討している」と答えた。
2008年にNokiaは4億7200万台の携帯電話、6100万台のスマートフォンを販売し、市場シェアは38.6%だった(Gartner調べ)。かたやAppleは1140万台のiPhoneを販売し、シェアは0.9%。Nokia、Samsung、LGの携帯電話、そしてNokiaとResearch In Motion(RIM)のスマートフォンが支配する市場で、iPhoneは非常に小さなプレイヤーだ。
だがApp Storeを取り巻く熱狂からは、そうした事実は分からないだろう。この熱気は一部は(大部分かもしれないが)Appleのマーケティングによるものと言える。Appleは印刷物やテレビで積極的にApp Storeを宣伝している。
AdMobのイベントに関するイワンの4月10日のブログは、わたしのように世界の携帯電話市場の動向を追う者にとっては面白い読み物だ。彼はこう書いている。
なんてことだ。iPhone、iPhone、iPhone。明らかにiPhone開発者の会合だった――だがわたしは、ここシリコンバレーに完全iPhone主義の島国的な開発コミュニティーがあることを知って興味をかき立てられた。(NokiaのOvi Storeについて何人かの開発者に聞いたところ)返ってきた答えは「ノォォォキィィィアァァァァ?」だった。彼らはキャリアのショップに展示されている29.99ドルの貧相な端末を思い浮かべたに違いない。がらくたみたいな端末――目覚ましアラーム完備の見せかけだけの端末を。
わたしは彼らに決定的な統計データを示してみた。「iPhoneは世界中に1700万台。Nokiaは2010年末までに4億台の端末がOvi Storeに対応すると考えている」と(実際の言い方は違ったが、大体そんなことを言った)。皆ぽかんとしていた。誰も気にしていなかった。こういう開発者の中を歩くのは面白い体験だ。彼らは選び抜かれた精鋭だ。スタンフォード大学のドロップアウト組だ。「でかいことを考えろ」というシリコンバレーのメンタリティに条件付けられているのだ。
どうやら彼らは十分にでかいことを考えていないようだ。イワンはこう続けている。「パネルディスカッションの後で話した聴衆や開発者の反応から考えると、NokiaのOvi Store――それからほかのメーカーのストア――への相反する感情はシリコンバレー中に漂っているようだ」。Oviだけではない。イワンはAndroid、BlackBerry、Windows Mobileのストアに関心を持っている開発者もほとんどいないことに気付いた。
確かにシリコンバレー以外にもたくさん開発者はいる。だがシリコンバレーで見られたApp Storeへの固執についてのイワンの指摘は、十分に多くのことを物語っている。開発者はお金を稼ぎたい。そうだろう? 成功しているプラットフォームには次のような共通の特徴がある。
多くの開発者がiPhoneに夢中になっているのは、マルチタッチ、モーションセンサー、ディスプレイサイズなど、エキサイティングなアプリ作りに生かせる面白い特徴がたくさんあるからだろう。だが、ただ働きをするわけにはいかない。お金をもうける必要がある。iPhone 3.0で追加されるアプリケーション内購入機能で収益を上げるのは簡単になりそうだ。
とは言っても、iPhoneにはもう1つ、重要なプラットフォームの特徴が欠けている。それは導入基盤だ。新しいプラットフォームにとって鶏と卵の問題はつきものだ――デバイスやプラットフォームの売り上げとアプリケーションはどちらが先だろうか? 普通、開発者はユーザーのいないアプリケーションを開発したがらない。同様に、アプリケーションのないプラットフォームは人気が出ない。iPhoneは、アプリケーション開発がプラットフォームとデバイスの普及をはるかに超えているという点で、この一般原則から少々外れている。
普及は十分なペースでは進んでいない。Barclays Capitalのアナリスト、ベン・レイツェスは、2009年のiPhone出荷台数予測を1740万台に引き上げた。Nokiaは四半期だけで1億台以上を出荷している。
もっと多くの開発者が、モバイル開発リソースをどこに割くかをより慎重に考えるべきだ。米国では、BlackBerryは少なくとも、iPhone以上とはいかなくても、iPhoneと同じくらい重要なはずだ。BlackBerryの販売台数はiPhoneを大きく上回っており、RIMが複数の米国キャリアと提携し、Appleが1社だけと契約している限りはその状況は変わらないだろう。米国外では、OviはApp Storeよりもはるかにリーチが広い。Nokiaに目を向けていない開発者は、国外でのチャンスを見逃している。Nokiaは米国ではそれほどのリーチを持っていない。
ところで、eWEEKの同僚アンドリュー・ガルシアが4月9日にBlackBerry App Worldの短いレビューを書いている。
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