雇用なき時代のあるべき社会とは――『ベーシック・インカム入門』藤沢烈の3秒で読めるブックレビュー

ベーシック・インカムは国民全員に対して、1人当たり数万円を支給する社会制度。雇用ではなく、最低限の生活保障を重視した制度で、普通の人でも職につけない現代社会ではますます注目されている。

» 2010年02月26日 15時22分 公開
[藤沢烈,Business Media 誠]
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 注目されているベーシック・インカムとは、収入や立場に関わらず無条件で月5〜7万程度を支給する社会制度のこと。その概要と、意外に古くて深い歴史的経緯を教えてくれるのが『ベーシック・インカム入門』経済学者の山森亮氏だ。

限界がきつつある従来の社会システム

 霞(かすみ)を食べては生きていけない。経済成長を背景として全ての人が雇用されることを目指して、近代社会は作られた。病気や障害を理由に雇用されない人々へは、失業保険・生活保護などのセーフティネットによって支えられてきた。

 しかし生産性の高まり、世界のフラット化に伴って日本でも職につけない人は急増。住む場所もなく、命の危機に瀕(ひん)する人は増え続ける。

 生活保護を受給可能な人々のうち、受けているのは5人に1人だけ。「働きたくとも働けない」証明が必要になるから、普通の人でも職がない現代では機能しにくい。今後雇用が減り続ける日本において、文字通り生存できない人が増える可能性は大きい。

生存・生活ありきの社会へ

 ベーシック・インカムは国民全員に対して、1人当たり数万円を支給する。1人7万円とすれば、母親と子供2人の家庭なら月21万となる。雇用ではなく、最低限の生活保障を重視した制度だ。

 支給を受けた上で企業に勤務してもいい。経済的な付加価値をつけられる人は追加の高収入を手にできるだろう。NPOでボランティアしたり、ある時期は子育てに専念してもよい。お金は入らないが別の喜びを手にする選択ができる。最低限の生活が担保されているからだ。

 ベーシック・インカムはテクニカルな議論ではない。すぐそこに迫る新しい社会を構想するための方法論なのである。

著者紹介 藤沢烈(ふじさわ・れつ)

 RCF代表取締役。一橋大学卒業後、バー経営、マッキンゼーを経て独立。「100年続く事業を創る」をテーマに講演・コンサルティング活動に従事。創業前の若者に1億円投資するスキームを企画運営し、話題を呼ぶ。「雇われ経営参謀」として500人以上の経営・企業相談を受けてきた。ブログに毎日書評を掲載し、現在1200冊超。


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