なぜ、フレームワークが使えないのか?最強フレームワーカーへの道

「フレームワークはたくさんあるのですが、実際の仕事になかなか使えなくて……」。そんな話をよく聞きます。便利なフレームワークがなぜ使えないのか、少し考察してみましょう。

» 2010年05月17日 12時09分 公開
[永田豊志,Business Media 誠]

『最強フレームワーク100』は、たくさんフレームワークが載っていて便利なんですが、なかなか実際の仕事に使えなくて……。どうすればよいですか?」

 勉強会などで聴講者の方から、こんな質問をよく聞きます。

 フレームワークに興味を持ち、勉強する人が増えている中、実生活やビジネスシーンではうまく使えない人が多いようです。わざわざMBA留学した人でも、同じような傾向があります。これは、何が原因なのでしょうか? 多くの場合は、次のような3つの要因によるものです。

フレームワークを覚えても使えない人の原因

  1. フレームワークを使う意義やメリットが正しく理解できていない
  2. TPOに合わせて、どんなフレームワークを選択すればよいのか分からない
  3. 解決すべき課題の全体像が分かっていない

そもそも、フレームワークを使う意義やメリットが理解できていない

 フレームワークとは、「戦略、分析、構想のための思考の枠組み」という意味ですが、もっとくだけて言ってしまえば「頭の整理箱」です。整理箱ですから、使い方は、アイデアがまとまらないときに、箱に入れて整理することで、自然と「モレ」「ダブリ」「矛盾」を回避できるというわけです。

 論理的思考の基本といえば、「MECE(ミッシー)」です。これは、まさに「モレ」「ダブリ」のない分類を行うベースとなる考え方ですが、フレームワークを活用することで、自然とMECE的なアプローチができます。

フレームワークの定番中の定番3C分析。自社、競合、市場という3つのCから現状分析や戦略策定を行う。図は、音楽ダウンロード業界における一例。3Cだけでなく、実際には、自社の保有しない商品やサービスで自社商品を補完してくれる「補完者」の存在や、仕入れ先である「供給者」との力関係も影響してくる。シンプルだが、奥の深いフレームワークだ

 フレームワークを使い、論理的に物事を分析し、判断できるようになれば、従来よりも非常に短時間で、成果を出すことができます。フレームワークは、それ自体を使うことが目標でなく、それを使うことで知的生産性を高めることが目的です。あくまでツールであって、それを使う人しだいです。だから、最終的には同じフレームワークを使えば、同じ答えが出る、ということではなく、その人なりのオリジナリティを出す必要があるのです。

 拙著の『最強フレームワーク』の中では100個、『発想フレームワーク』の中では55個のフレームワークを紹介しています。しかし、フレームワークは明確な線引きがあるわけでなく、自分が「考え方のテンプレートとして有効だな」と感じれば、それがフレームワークです。

 そのため、すべてのフレームワークを覚える必要はなく、自分で使えそうなものを絞り込んで、徹底的に使ったほうがよいです。人は「知った」だけでは使えません。実際にノートに何度もフレームワークを「書き込む」経験を積まないと、有効なツールとして働きません。

どのようなTPOで、どんなフレームワークを選択すればよいのか分からない

 また、各フレームワークは、それが生きてくる用途があります。マーケティングであれば、「マーケティングプロセス」「セグメンテーション」「ターゲティング」「マーケティングミックスの4P」「プロモーションミックス」など、さまざまですが、自分がどのような課題に対処するのかに応じて、適切なフレームワークを選びぶべきです。

 例えば、「自社の商品を知ってもらう効果的な組み合わせを考えること=プロモーションミックス」という具合です。わたしの『最強フレームワーク』やそのiPhoneアプリ版(iTunesが開きます)もすべて目的や利用シーンに応じて逆引きで分類しています。

 このフレームワークで何ができるのか、と考えだすと収拾がつきませんから、こんなシーンで使えるフレームワークは何? という目的別の視点で、フレームワークを習得していきましょう。

全体像が分かっていない

 実は、フレームワークを使いこなしている人はすでに分かっていることですが、フレームワークは単独では使えません。なぜなら、1つのフレームワークを完成させるときには、ほかのフレームワークが関係してくるからです。

 例えば、「SWOT分析」は2×2マトリックスに配置した「強み」「弱み」「機会」「脅威」の組み合わせから、最適な戦略を検討するものですが、「強み」とは何か?「弱み」とは?どのような「機会」があるか? 事業を揺るがすような「脅威」は?を検討するためには、別のフレームワークも組み合わせて使います。

 例えば、企業の強みを評価するフレームワークだけでも、「VRIO分析」や「コアコンピタンス分析」があり、市場機会を評価するために「PEST分析」や「5F分析」「コトラーの競争地位分類」などがあります。つまり、各フレームワークはある1つの目的のために作られた整理箱ですが、ほかの整理箱と共用することで、統合的な戦略策定や現状分析ができる――というわけです。

SWOT分析。強みや弱み、機会や脅威を整理する場合にも、関連するフレームワークを使ったほうが効率が良い。こうしたフレームワークの組み合わせは、現状分析や事業戦略をより論理的で精度の高いものにしていく

フレームワークは答えを教えてはくれない

 前述したとおり、フレームワークは考えを整理するための箱にすぎません。箱に整理することができたからといって、答えが見つかるわけではないのです。

 しかし箱を使わないと、アイデアや提案は思いつきに頼ってしまい、拡散してしまいます。頭の中が散らかったままだと、もやもやするばかりで、前向きなアイデアが出にくいものです。

 ですから、とりあえず、課題について考えるときには、いろんなデータ、事実をフレームワークという名の箱にしまいこむのです。適切な引き出しがない場合は、とりあえず排除し、箱が空なら、そこに入るべきものを考えます。そうして、箱の引き出しがすべて埋まった状態から、アイデアを練っていくのです。

付加価値の高い活動へのシフトするために必須の知識

 フレームワークを体得するメリットは非常に大きいものがあります。よりスピーディに頭の中をスッキリし、「付加価値」のための思考に時間を費やすことができるのは、こうしたフレームワークを使って、情報を整理する時間が短くて済むからです。物事を整理するのに、大半の時間を費やすと、肝心の戦略やアイデアを考える時間がなくなってしまいます。

 またプレゼンや報告、論文作成など、聞き手にとって分かりやすく、理論的で、説得力のあるコミュニケーションができるのもフレームワークを学ぶ効果として上げられます。プレゼンや論文作成が苦手な人は、フレームワークに素づいて原状の課題を整理するだけで、内容が充実し、成果が高まること間違いナシです。

フレームワークを覚えることは、スポーツでいえば理想的フォームを知ること。

 フレームワークを実際に使ってみることは、何度も素振りやキャッチボールをすることにほかなりません。そして、ここ一番という大事な場面でフレームワークを活用し、プレゼンや提案書作成に用いることは、バッターボックスに立って、思い切りバットを振ってみることと言えるでしょう。

 最強フレームワーカーを目指すあなたの打球がホームランになることを祈ってます。

著者紹介 永田豊志(ながた・とよし)

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 知的生産研究家、新規事業プロデューサー。ショーケース・ティービー取締役COO。

 リクルートで新規事業開発を担当し、グループ会社のメディアファクトリーでは漫画やアニメ関連のコンテンツビジネスを立ち上げる。その後、デジタル業界に興味を持ち、デスクトップパブリッシングやコンピュータグラフィックスの専門誌創刊や、CGキャラクターの版権管理ビジネスなどを構築。2005年より企業のeマーケティング改善事業に特化した新会社、ショーケース・ティービーを共同設立。現在は、取締役最高執行責任者として新しいWebサービスの開発や経営に携わっている。

 近著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』『革新的なアイデアがザクザク生まれる発想フレームワーク55』(いずれもソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)がある。

連絡先: nagata@showcase-tv.com

Webサイト: www.showcase-tv.com

Twitterアカウント:@nagatameister


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