Evernoteっぽい会社に使ってほしい――CEOが話すBusiness版の狙い

企業向けの「Evernote Business」リリースから約3カ月。フィル・リービンCEOが来日し、ユーザー企業向けにBusiness版開発の意図を話した。

» 2013年04月18日 18時50分 公開
[上口翔子,Business Media 誠]

 Evernoteが2012年12月に投入した「Evernote Business」は、300人以下の中小企業での利用を想定した企業向けの情報共有ツールだ。個人が保有する「個人のノートブック」と会社が保有する「ビジネスノートブック」からなり、1ユーザー当たり月額900円で各ノートブックに月2Gバイト(1ユーザー合計4Gバイト)までのデータをアップロードできる。

 文書、音声、画像などさまざななデータをオンライン上に保管、共有することで、個人の生産性向上とチームのコラボレーション強化が期待できるツール。ただ企業向けとはいっても、あくまで個人の業務効率化を優先して設計しており、業務用ツールにありがちなアクセス制限や厳格な利用基準を設けたようなツールとは少し異なる点が特徴だ。

「Evernote Business」のイメージ。個人のノートブックには、これまで個人で使っていたEvernoteアカウントデータをそのまま引き継ぐことも可能。1つのセキュアな環境の中で個人と企業のデータを保管できる形だ。各ユーザーがアップロードしたデータは会社の資産としてユーザーが退職後も保管される

Evernoteっぽい会社に使ってほしい

 Evernote Businessのリリースから約3カ月。導入企業が世界5000社(※)を超え、日本でもau損保やコクヨS&Tなど数社の事例が出てきた。4月18日に都内で開催したユーザー企業向けのセミナーでフィル・リービンCEOはEvernote Businessの狙いを次のように話している。

(※)初出時、3000社としていましたが、正しくは5000社でした。お詫びして訂正いたします(2013年4月19日9:25)

Evernoteのフィル・リービンCEO。「Evernote Businessを自由に使って自由に発想してほしい」と話す

 「Evernoteはもともと、自分たちがほしいツールを目指して開発してきた。そして約5年がたち、個人ユースだったものを徐々に仕事にも役立てられないかと考えてきた。そこで生まれたのがEvernote Businessだ。既存ユーザーの約3分の2は、Evernoteを仕事に使っている。ユーザーが大切にしている仕事の部分でさらに貢献できる、そんなツールにしたい」(リービンCEO)

 Evernote Businessを開発する上でも「自分たちがほしいものを作る」という根底は変わっていない。よってEvernote Businessをどんな企業に使ってほしいかを尋ねられれば「Evernoteっぽい会社」(リービンCEO)だという。つまり従業員規模は300人以下で、チーム間でコラボレーションしながら知的生産を行うような企業に向いているとする。

 リービンCEOは、企業理念にも関係していて、かつEvernote Businessの目的でもある4項目を挙げた。

(1)従業員への信頼

(2)ビジネスにも美しいデザインを

(3)個人に使いやすいツール

(4)コラボレーションは自然に、スマートに

 まず(1)従業員への信頼について。Evernote Businessは個人用のノートブックと仕事用のノートブックとの間で自由にデータ移行ができる。例えば悪意をもった従業員がいれば、退職前に機密情報を持ち出す危険もあるわけだ。しかしEvernote Businessではあらかじめアクセス制限をかけたりはしない。「〜できない」項目をあえて少なくすることで、各ユーザーが自由に使え、アイデアを発想できるものとしている。

 (2)ビジネスにも美しいデザインとは、ユーザーインタフェースのことを示す。「例えば業務ツールであっても、ユーザーが使っていて我慢するようなものではいけない。プライベートで使うツールで自分が好きなデザインを選ぶように、仕事のものだからダサくていいとあきらめずに“使いたいと思えるもの”を開発することを心掛けてる」。リービンCEOは航空機で例えると「ビジネスクラス」のようなイメージでEvernote Businessを使ってほしいという。

Evernote Businessの画面。ブラウンが個人用ノートブックでグレーがビジネスノートブック

 (3)個人に使いやすいツールとは、リービンCEO自らの実体験から必要性を感じたことだ。ここ2カ月仕事が忙しかったとき、ふと気がつくとよく使っていたのはTwitterやYammerなどのソーシャルツールではなく、直接業務に役立つものだった。「Evernote Businessが自身の仕事を効率化してくれた」(リービン氏)今後はさらに各個人の仕事がしやすくなる機能を優先して実装していく。

 (4)は、チーム間の共有をより自動化できるようにすることを目的としている。業務に役立つかの優先順位を付けることで、各自が能動的に探しにいかなくても必要なデータが参照できるようにするという。例としてリービンCEOは「関連ノート」の機能を挙げる。これはEvernote Businessに保存しているデータを検索した場合、他の従業員が以前アップロードしたデータから関連するものをリコメンドのような形で教えてくれるものだ。


 Evernoteでは今年、同社の連携製品、開発を支援する施策の1つとして「Evernote Accelerator」と名付けた1カ月の集中指導プログラムを実施する。対象者はEvernoteのエンジニアによる指導を直接受けられる。今年後半にはEvernote BusinessのAPIも拡充し、パートナー企業との連携も強化していく方針だ。

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