原発再稼働の判断、権限は国か地方か――マイケル・サンデル教授の「民主主義の逆襲」:5000人が白熱した特別講義(6/6 ページ)
米ハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏の特別講義「ここから、はじまる。民主主義の逆襲」。第2部では震災がれきや原発など、現在日本が抱える問題について議論した。
お金を払って原発を受け入れてもらうやり方
サンデル お金を払うと同意を得られるかもしれない。でもそれは理想的ではないのはなぜでしょう? なぜ理想的ではないんでしょう?
コウイチロウ 私は福島で育ちました。福島で起こった地震、津波、そして原発の事故によって、私の友人も含むあまりにも多くの人が苦しんでいます。ですから私個人としては受け入れられません。お金で原発への同意を買おうと、危険なものへの動機付けにお金を使うのは反対です。
サンデル お名前は? コウイチロウですね。では、再稼働よしと擁護する人の意見を聞きたいと思います。コウイチロウなどに対する反論として、他の反論意見に対しても、意見を聞きたいと思います。
男性D 私は、基本的には原発再稼働に賛成のスタンスでいます。というよりも、使える資源を使えるだけ使った方がいいと思っています。なぜかと言うと、例えば明日ものすごくいい資源が出てくるとか、新しい電気の手段が出てくるのであれば絶対に原発を使わなくてもいいと思います。
でもない以上、ある程度安全という情報を出してもらっているのであれば、やはり使えるものは1年でもいいから使った方がいいかなと思います。そして、その1年の間にきちんと考えて、この方向に行くというのを国としてかちっと決めて、多く犠牲を払ったとしても、失ったものがあったとしても、それを進めないといけないのかなと思っています。
サンデル 分かりました。ではこれまでの議論を整理すると、2種類の論議が聞かれました。まず原発の再稼働を良しとするか、しないのか。非常に単純に経済合理性、経済的な面からという議論もありました。それから犠牲という話も出ました。例えば計画停電や電力不足とか、産業も被害を被るだろうという話が聞かれました。
そして2番目の主張。これも純粋な経済的論理とは違って、自給率という話が出ました。さらには全く別の種類の議論が見られました。同じようにこの議論をしているときに、誰が判断すべきかという別の議論が聞かれました。
一部の人は、国民を代表している国が決めるべきだとしました。しかし他の人たちは、それでは十分ではない、地元自治体にも同意する権利が与えられるべきであると言いました。そして中には、地方自治体がまず決めるべきだ、そして承認を得るために保証金を払うべきかという議論もありました。そしてそれはあまりよくないという意見も出ました。
原発問題を議論をする中で、経済性、安全、信頼、さまざまな要素が定義されました。そして民主主義という議論で誰が決めるべきか、という議論も出ました。答えは出ていません。われわれは答えを見いだしていくための議論の枠だけがはっきりしてきました。参加して頂いた皆さん、全員に感謝いたします(次回に続く)。
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