隷書とは約1900年前の後漢時代に使われていた字体だ。隷書での「令」は3画目が横棒、5画目は縦棒になっている。一方、南北朝時代から隋時代への移行期には3画目が少し斜めになっている。最後に唐時代以降の楷書体では先述したように3、5画目がともに〈丶〉と書かれている。
「唐の時代にいわゆる楷書が確立しました。当時の日本は奈良時代だったわけですから、ここから日本の書道がスタートしたということです。ところがその後、『古いほど正しい』という考え方が広まった時期があり、隷書の書体を取り入れながら明朝体がデザインされてしまいました。その明朝体が、日本ではこの150年の間に出版物で使われています。書物の文字をよく見ている人は、この明朝体の「令」が正しいと思う人が多いのかもしれませんね。
手で文字を書くことが少なくなってきたこの20年間は、なおさら明朝体こそが正しい書き方だと思われてきた節がありますが、実はどちらでもいいんですよ」
関連記事「難病と生きる『孤高の書道家』」でも触れたが、文化庁は16年に手書きに関する指針である「常用漢字表の字体・字形に関する指針」を出した。その指針では「手書き文字と印刷文字の表し方には、習慣の違いがあり、一方だけが正しいのではない」「字の細部に違いがあっても、その漢字の骨組みが同じであれば、誤っているとはみなされない」と明記されている。つまり「令」を手で書く場合も、明朝体でも楷書体でもどちらも正しいということは、文化庁によって「お墨付き」を与えられているのだ。
財前さんは文化庁が指針を出す前から、どんな書き方でも正しいと主張していた。17年には「手書き文字と印刷文字における許容と誤りについての提言」をした3冊の書籍の功績が認められ、白川静漢字教育賞『特別賞』を受賞した。
「『令』の5画目を〈丶〉で書く方が、手書きでは、よりスピーディーに書けますよね? 手書きで書きやすいように書体が発展をしてきたわけです。余程の事情があるときは、隷書や移行期の書体のような書き方をしますが、一般的には楷書で書きます。それが千数百年経った今でも続いているのです。新元号を機に、印刷文字と手書き文字との違いを、多くの方が理解する機会になってくれるといいですね。新天皇陛下の時代が<令>うるわしく、<和>なごやかな時代になるように願っています」
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