近年、ユニークな事業展開を次々と繰り広げるため、春華堂には他の企業や行政などから「何か面白いアイデアはないか?」といった相談が増えているという。
「この10年くらいどんどん面白いことをやっているので、周囲の期待感が高まっているみたいです。ただ、われわれは菓子屋。企画屋ではないです(笑)。だから、これはできる、できないははっきり伝えています」
あくまでも菓子屋という、山崎社長の言葉の意味は大きい。だからこそ、菓子に求める理想も高い。春華堂にとって菓子とは「笑顔」を届けるものなのだ。
「スイーツバンクにやって来た人たちが、家に帰って家族団らんのときに『こんなところで、こんなお菓子を買ったんだよ。あれすごいよね、あれ面白いよね、あの店員さん面白かったよね』と言いながら食べてもらうのがお菓子の役目なのです。そうしたシーンを作るのが自分たちの仕事だと思います」
ただ単にお菓子を作って売るだけではない。家族団らんの中心にお菓子があって、笑いながら食べるお菓子のほうが絶対に美味(おい)しい。山崎社長はそう信じて疑わない。だからこそ、家族の会話の話題に上るよう、スイーツバンクのリアリティーにもこだわったのだ。
「うなぎパイが大事にしている家族団らんというコンセプトが想像できる施設がいいよねというのが最初にありました。いろいろなアイデアを出してもらう中で、巨大な机と椅子が出てきた。本当にこれがあったら面白いよね、見て笑えるよね、驚いてくれるよね、記憶に残ってくれるよねと、メンバー皆同じ気持ちになりました」
記憶に残る場所で買ったお菓子は、特に子どもたちにとって、「あの机と椅子のところで買ったうなぎパイは美味しかったよね」となり、もう一度、あの場所に行きたいという動機付けにもなるという。
お菓子を通じて人々を笑顔にさせる。これが商売にとっての原理原則であることを、スイーツバンクは示しているのだ。
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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