――デビュー後、BABYMETALはCool Japan(クールジャパン政策)の象徴の一つでもあったように思うのですが、当時から世界戦略があったのですか?
面白いことに、BABYMETALはCool Japanとは真逆のロック・メタルフィールドの方に刺さったんですよね。海外のロックフェスに呼んでいただいてから本格的な海外展開がスタートしたのですが、当時のCool Japanプロジェクトはどちらかというとアニメやファッション、食文化の方に力を入れていた印象があって、BABYMETALはそちらの方とは縁遠かったのでCool Japanプロジェクトから直接サポートをいただいて海外へ進出したわけではないんですよね。
メタルに関していうと、世界中にいろんなジャンルのメタルがあることを知っていました。トラディショナルなメタルだけでなく、サブジャンルでいえばスラッシュメタルやブラックメタル、地域別にいえばLAメタルや北欧メタル、国別にみれば日本(ジャパニーズメタル)はもちろん、ブラジルとかインドネシアとか。アフリカには、ちょっとトライバル的(民族的)なものもあります。村祭りを巡るように、一年中いろんなメタルフェスを回るメタルバンドがあったりします。
これだけ世界中にいろんなバリエーションが点在しているジャンルは、メタル以外にあまりないなって思ったんです。
――ある程度、世界的に潜在的な市場、ニーズがあったのですね。その市場に対してBABYMETALは何がどう刺さったと思いますか?
ニッチかもしれませんが、世界中に潜在的な市場、ニーズはあると思っていました。
ただ、正直、ライブに関していうと、世界各国がどのような状況かは、データとしてはあるけれど、行ってみないと分からないと思っていました。欧州の国々、米国の田舎町など、実際のお客さんの反応は行ってみないと分からない。
ある米国の田舎町のライブでは、Gジャンにパッチをつけたガチメタラー達、BABYMETALの衣装のコスプレをした女の子達、ビールを片手にしたおじさん達、地元の黒人の親子ファミリー、どうやってこんなにタイプの違う人たちが同じ場所に集まってきたのか? って感じるくらいに、ちょっとしたカオスでした。
コロナ禍以降、リアルなワールドツアーは形を変えるのかもしれませんが、いろいろな国々、地域に行ってみて、市場のリアリティーを見てきた感じです。
それぞれの方に、何がどう刺さったかは、受け取った方がどう感じたかで、こちらが決めることではないかもしれません。音楽的な部分なのか、キャラクターなのか、ファッションなのか、ダンスなのか。はたまたBABYMETALという世界観なのか、いろいろな要素だったと思います。
日本でも世界でも同様で、間口が広く、いろいろな要素がBABYMETALのファンの多様性につながっているのだと思います。これは、他のメタルバンド、アニメ系、アイドルとは客層が違う特徴かもしれませんね。特に海外ではバラエティーに富んでいます。
――BABYMETALの楽曲の多くの歌詞が日本語ですよね。海外の方にとっては外国語。こんなこともプロデュースで意識されたのですか?
そうですね。別に、英語の曲を否定するわけではないんです。実際BABYMETALでも英語バージョンの楽曲もいくつかあります。感覚的にハマれば良いんじゃないかなと、すべてはバランスなので。
また食べ物の話になっちゃうんですが、大幅に味が変わると、ちょっとビックリしてしまうのかなと考えまして。
例えば、海外の方が、日本に旅行に来ておいしいラーメンを食べて、その店が海外出店して、「そのラーメンが地元で食べられる」と話題になって実際に行ったら、すごいローカライズされて全然味が違ってがっかりみたいなことを想像したんです。
BABYMETALに限らず、最近のK-POPやヒスパニック系のアーティストなど、自分たちのアイデンティティーを示す上でも、どこかに韓国語やスペイン語のフレーズを入れたりすることもあります。BABYMETALの歌詞が日本語で、海外でも同じものをリリースするには、そんな意図もあります。
以上がKOBAMETALさんへのインタビュー内容だ。インタビュー中のキーワードの1つに多様性(ダイバーシティー)があった。現在、ダイバーシティー&インクルージョン(受容)は、ビジネスの在り方を考える上で、必要不可避な概念となっている。日本では働き方改革推進などで知られるようになり、商品、サービスを普及させるための顧客ターゲティングにおいても、重要な視点となった。
BABYMETALが世界進出に成功したポイントの1つには、顧客のダイバーシティー&インクルージョン(受容)に立脚した考え方があると思われる。世界中にあるメタルの市場に刺さったのはそのためだろう。一方で、多様性の対義語には画一性がある。KOBAMETALさんによるBABYMETAL世界進出には、多様性だけでなく、同時にその対極にある、それぞれが熱中する対象への向き合い方という画一性の視点も根底にあったのではないだろうか。
後編では、自身も熱烈なメタルファンであったKOBAMETAL氏が、BABYMETALをプロデュースする上での姿勢、仕事に対する哲学について聞く。(一部、敬称略)
柳澤 昭浩(やなぎさわ あきひろ)
18年間の外資系製薬会社勤務後、2007年1月より10期10年間に渡りNPO法人キャンサーネットジャパン理事(事務局長は8期)を務める。科学的根拠に基づくがん医療、がん疾患啓発に取り組む。2015年4月からは、メディカル・モバイル・コミュニケーションズ合同会社の代表社員として、がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャーなど多くの企業、学会などのアドバイザーなど、がん医療に関わる様々なステークホルダーと連携プログラムを進める。「エンタメ×がん医療啓発」を目的とする樋口宗孝がん研究基金、Remember Girl’s Power !! などの代表。
BABYMETALのプロデューサー「KOBAMETAL」に聞くライブエンタメビジネスの展望
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