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事故現場の状況をAIが自動作図 MS&AD副社長に聞く「新時代の保険ビジネス」シリコンバレーに社員を派遣(1/5 ページ)

» 2022年02月22日 12時18分 公開
[中西享ITmedia]

 多様化、甚大化する事故や災害、限界に近づく地球環境など社会を取り巻く新たなリスクへの対応を求められる保険会社。

MS&ADインシュアランスグループの概要

 その中で三井、住友、日本生命、トヨタ自動車などいくつもの企業グループと親密な関係を持つ強みを生かして、世界トップ水準の保険・金融グループの実現を目指そうとしているのがMS&ADホールディングスだ。同社の樋口哲司副社長にDXを核にした経営方針を聞いた。

樋口哲司(ひぐち・てつじ)1984年に住友海上火災保険(現三井住友海上火災保険)に入社、2014年に執行役員東京本部長、15年執行役員経営企画部長、16年取締役常務執行役員、18年取締役専務執行役員、20年にMS&ADインシュアランスグループホールディングス代表取締役専務執行役員、21年から代表取締役副社長執行役員。60歳。埼玉県出身

シリコンバレーに社員を派遣

――DXを進めるうえで、最も重視した点は何ですか。

 MS&ADは持ち株会社で、グループの下に損害保険会社3社、生命保険会社2社が入っています。

 これまではグループ内の企業がデジタル化をバラバラに進めてきていました。例えば「空飛ぶ自動車」のプロジェクトに、グループ内の三井住友海上と、あいおいニッセイ同和がそれぞれ違う会社に出資していたりして、グループとしての一体感がありませんでした。

 そこでグループ内にデジタライゼーション委員会を立ち上げました。グループ全体としてDXを進めるのが大事だと考えています。2021年10月には「デジタルイノベーション部」を新設して、グループ全体としてデジタルイノベーションを商品化につなげようと取り組んでいます。

――IT関連の先進技術を生かそうとシリコンバレーに社員を派遣していますね。その狙いは。

 保険会社ということもあり、多様なスタートアップ企業とのアライアンスができていませんでした。4年ほど前にシリコンバレーに社員を投げ込んで、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)投資を始めました。

 日本企業の多くがCVCを作っても、投資するかどうかを本社サイドとやりとりすると、結果的に投資できないケースが多くありました。その中で、わが社はこの3年間で60社に投資をしています。このCVCの2人のトップは、毎年選出される世界のコーポ−レートベンチャーキャピタルに関する著名な賞の「トップ100」に20年と21年の2年連続で選ばれています。スタートアップの最新技術を取り込むことで、いろいろなことができています。

MS&ADベンチャーズ Managing PartnerのJon Soberg(最前右)、同 Managing Partner 佐藤 貴史(最前左)

――シリコンバレーの先端技術が、商品に生かされた事例はありますか。

 例えばドライブレコーダー付き自動車保険で使われています。事故が起きた時に、当事者のどっちが赤信号だったかもめるケースが少なくありません。わが社のドラレコ付き保険は、事故が起きると両方の車の動きを3Dセンサー技術により、事故現場の状況をAIが自動的に作図してくれます。

 事故の瞬間に信号が赤だったかどうかも明示してくれて、これが(保険金を支払う際の)証拠画像になるので、当事者間でもめることはありません。このほかにもシリコンバレーの先進技術がいくつもの商品に使われ、事故後のサービス対応も迅速にできるようになっています。

 また、CVC以外では、お客さまの持っているビッグデータとわれわれのデータを掛け合わせることで、企業の抱える課題を解決する新サービス「RisTech(リステック)」の提供を19年から始めて、少しずつサービスを利用されるお客さまも出てきています。

事故現場の状況をAIが自動的に作図してくれる
RisTech(リステック)のイメージ
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