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ライオン、生成AIで社内データを継承 開発の狙いは?生成AI 動き始めた企業たち(1/2 ページ)

» 2024年03月25日 07時00分 公開
[濱川太一ITmedia]

連載:生成AI 動き始めた企業たち

 生成AIがビジネスを大きく変えようとしている。従来のルールを覆す「ゲームチェンジャー」となり得る新技術に、企業はどう向き合うのか。生成AIの独自開発・活用に名乗りを上げた企業に構想を聞く。

これまでの掲載

日本IBMサイバーエージェント日立製作所富士通NECパナソニック コネクト

NTTデータ情報通信研究機構(NICT)三菱電機村田製作所JR西日本

アサヒビール九州電力住友生命保険住友化学名古屋鉄道

今後の掲載予定

  • ライオン(本記事)
  • メルカリ
  • 旭化成   ※順不同、今後も追加予定

 連載「生成AI 動き始めた企業たち」第17回は、オーラルケア商品やせっけんなど日用品を幅広く手掛けるライオンを紹介する。同社は2023年5月、自社開発した生成AI「LION AI Chat Powered by ChatGPT API」を国内従業員約5000人に公開。資料整理やメール対応などの業務効率化に役立てているという。

 現在は、生成AIと検索サービスを組み合わせた「知識伝承のAI化」ツールの自社開発に取り組んでいる。同社が蓄積してきた技術的知見や実験データを、対話形式で効率的に取得できるようにするツールで、24年6月の導入を目指している。

 検証では、従来の情報検索では文書の取得に5〜10分かかっていたが、ツールを用いると2分以下と最大約5分の1に短縮できるなどの効果を得られたという。同社が描く、生成AIの活用戦略とは――。デジタル戦略部データサイエンスグループの百合祐樹氏に聞いた。

ビジネスへの影響 自社の強み 競争優位性 リスクと対処法 ルール整備
情報通信研究機構(NICT) 人材不足など日本社会の重要課題で生成AI活用が進むと期待 大量の高品質な日本語学習データを蓄積済み これまでの研究知見を民間企業に提供し日本の産業の底上げを狙う 生成AIの副作用の抑制に柔軟に対応できる体制、技術の整備が重要 規定の手続きに則り研究者らが申請を行って承認を得て研究開発や利活用
三菱電機 専門知識がなくてもAIと対話しながら機器を操作できるようになる さまざまな分野の現場データや機器の知見を生かしたAI技術を保有 コンパクトな言語モデルで生成AIを活用する際の実用性と安全性を高める 機密漏えい、権利侵害、輸出管理違反、虚偽情報などを対処 自社の生成AI利用環境やガイドラインを整備済み
村田製作所 ルーティン業務の自動化でアウトプットに集中できる データの活用におけるAI利用に強み 過去からのAI活用に関するノウハウ蓄積が競争力に 「守り」「攻め」の2つのリスクを見る必要がある 利用規則で制限を設けている
JR西日本 さらなる生産性向上に期待 通話要約の業務で18〜54%の効率化を実現 人と生成AI両輪で事業を展開 個人データを機械学習に利用しないことが必須 ルールブックを作成し対応者全員に研修
アサヒビール 人がより創造的な活動に従事できる 文量の多い技術資料を要約できる 早期の試行で生成AIの適応範囲を理解 政府や業界の動向に注視が必要 グループ会社で注意点などを共有
九州電力 業務の品質維持や高度化でより低廉で安定した電気を届けられる これまで自社設備の保守・維持管理でAIを積極活用 自社にとっての最適ツール・活用法を検討 情報セキュリティ対策の徹底が必要 生成AI利用のガイドラインや解説動画を作成
住友生命保険 自身では思いつかないアイデアを得られる 顧客から得たデータを価値に換え還元する「顧客価値増大モデル」に強み ウェルビーイングサービス領域でトップを目指す 国の方針も踏まえ社内規定を見直しリスク抑制を図る ガイドラインの作成・運用や勉強会による啓蒙活動も実施
住友化学 従来の暗黙知を共有知化し新しいビジネス価値を創出 独自生成AI「ChatSCC」を導入し最大50%以上の効率化を確認 独自のコア技術を活用したビジネス展開や競争力の確保を目指す 社内データを情報源として回答生成する仕組みを設けハルシネーション低減を検討 独自のプロンプト集や指示文書作成テクニックの動画を社員に公開
名古屋鉄道 生成AIを第2の自分として使うヒトが評価される社会に AI画像解析で踏切事故の未然防止を推進 鉄道現業部門や顧客向けサービスでも生成AI活用を検討 セキュリティ教育、リスク対策を継続して実施 「入力情報」と「生成物」の2点をポイントにガイドラインを整備
ライオン ビジネス効率化や従業員のスキルアップに貢献 「知識伝承のAI化」ツールが技術の属人化を解消 先端技術の積極的活用と人材育成 適切な利用範囲を明確にしたガイドライン発行などが必要 生成AIの適切な活用を支援するコミュニティ運営などを実施
各社の回答(要約)

Q. 生成AIはビジネスと社会にどんな変化をもたらすか

 生成系AIの導入は、ビジネスの効率化やスキルの幅を広げることにつながると考えています。実際にLION AI Chatの導入によって、各従業員が生成系AIを活用して資料整理やメール対応、コーディング(ソースコードを書く作業)といった業務の効率化を実現しています。また、プログラミング経験のない従業員が、生成系AIに問いかけながら業務の自動化にチャレンジするなど、スキルアップにつなげることでビジネス活動の質を向上させています。

生成AIの導入でビジネスの効率化や従業員のスキルアップにつながると考えている(ライオン提供、以下同)

Q. 自社のAI技術の強みは何か

 自社開発を進めるAI技術は、当社が長年培ってきた技術や専門知識を活用することで、業務の深い理解に基づくサポートを従業員に提供することや、当社ならではの価値をお客さまへ届けることを目指します。

 特に「知識伝承のAI化」ツールについては、まずは研究開発部門の従業員を対象に、これまで蓄積してきた研究データに基づいて生成系AIが若手技術者の知識習得をサポートする役割を担います。これによって知識や技術の属人化を解消し、従業員が素早く専門知識を活用できる体制を実現したいと考えています。

「知識伝承のAI化」ツールのイメージ。利用者は対話のような自然な表現で検索文章を入力すると、膨大な情報の中から見つけたい文書を短時間で取得。生成AIが抽出された文書から中身を分析・評価し、質問に沿った簡潔な表現でまとめた結果を表示する
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