予測分析でIBMが見る情報活用の近未来IBM Information On Demand 2009 Report

企業の情報活用をテーマにした「IBM Information On Demand 2009」の基調講演が、米国時間の10月26日にラスベガスで行われた。同イベントでは「情報分析が求められている」というメッセージが繰り返された。

» 2009年10月27日 14時38分 公開
[藤村能光,ITmedia]

 米IBMは現地時間の10月25日から、ネバダ州のラスベガスで「IBM Information On Demand 2009」を開催している。同イベントでは「Information On Demand」と呼ぶIBMの情報活用戦略を進化させ、情報分析の有効性を強調した。7月末に発表したSPSSの買収にも触れ、同社の中核をなす「予測分析」技術がIBMのソフトウェア戦略と親和性が高いことにも言及した。

 企業では、部門や組織ごとに情報システムが乱立し、サイロ(塊)化した各部門のデータが散在している。企業の往年の悩みは、データをデータウェアハウスやデータマートにため込むばかりで、それを経営にうまく生かしきれないことである。これまでのInformation On Demandでは、「種々のアプリケーションからデータを解き放ち、洞察を加えることで、ビジネスに勝つ」というテーマに軸足を置き、Information On Demandの有効性を呼び掛ける発表が目立った。

 データ分析の一角をなすのがビジネスインテリジェンスだ。IBMはカナダのCognosを2007年に買収し、同社のソフトウェアやハードウェアと親和性のあるビジネスインテリジェンスの導入を進めてきた。データウェアハウスに蓄積した情報を経営層や現場の利用者が自在に使えるビジネスインテリジェンスの拡充により、同社のソフトウェア戦略に一層の厚みを持たせた。

アンブッシュ・ゴヤール氏 SPSSは今回のイベントのダイヤモンドスポンサーだ、少しお金を出して買ったのだが。ちなみにその前(のスポンサー)はCognosやFileNetだった」と話したゴヤール氏。SPSSの動向に注目が集まる会場の空気をなごませるとともに、IODの実現に向けたIBMの買収戦略が良好であることを物語った

 だが、ここに来て、企業は新たな問題に直面する。10月26日の基調講演に登壇したSoftware Groupのアンブッシュ・ゴヤールゼネラルマネジャーは「市場の急速な変化、そして利用者の需要の劇的な変化が起きている」と話す。過去のデータを単に分析するだけではなく、システムにリアルタイムに反映されるデータまでを分析し、経営者や現場の担当者がビジネスに生かすことが必要とされている。

 今年の発表はそんな「データ分析」の色をより濃くした。「情報処理のトランザクションは最適化した。経営とITを結び付けるアプローチを探している」。その理由をゴヤール氏は1万5000を超えるパートナー企業の声を代弁し、データ分析の重要性を強調した。

 新たな可能性を秘めたトピックが、買収で手中に収めるSPSSの存在だ。SPSSは「経営判断に基づく(近未来の)結果の予測」を担う。ゴヤール氏は、予測分析を柱とした製品を提供するSPSSのノウハウをInformation On Demandに取り入れていくと説明。だがSPSSとの統合は「世界、日本のいずれも数週間前に顔合わせが終わった」(日本IBM)段階であり、Information On DemandにSPSSのどのサービスや製品群が組み込まれるか、Cognosとの分析機能のすみ分けなどは「未定」(同)としている。

 基調講演でもSPSSが予測分析の担い手であるという紹介にとどめたが、IBMは過去、現在に加え、近未来までを分析できる包括的な情報活用をアピールしていくのは明白だ。

これまで以上に、情報の分析が求められる

フランク・カーン氏 カーン氏はニューヨーク市警のデータ活用に言及。IBMのDWHを使って市民の入れ墨などの情報を管理し、犯罪者の判別に利用しているという

 続いて基調講演に登壇したGlobal Business Servicesのフランク・カーン上級副社長は、IBMが世界規模で実施した調査データを紹介した。これによると、調査対象となった企業の従業員の「3人に1人が信頼できない情報に基づいた意志決定をしている」「2人に1人が求めている情報を得られていない」のが現状だ。企業が直面している課題を「リアルタイム性や可用性がない情報を経営や戦略に使っており、それが盲点になっている」と語る。

 「分析はこれまで以上に高速に、かつ正しいものでないといけない」とカーン氏は続ける。逆に、分析を基にした情報活用が実現すれば、正確な意志決定や総コストの削減にもつなげられるとする。「競争における勝ち負けは情報をどう戦略的に使うか」(カーン氏)という視点こそが、市場の縮小にも打ち勝つ企業に成長できるか否かの明暗を分ける。

 IBMは、今年に入り「Business Analystics & Optimization」と呼ぶ情報分析の専門組織を設立。4000人規模のコンサルティング体制を築き、顧客にサービスを売り込む土台を整えている。その背景を「世界はフラットになり、早くなり、相互接続されるようになってきた」とカーン氏は説明。こうした環境の中で、企業は情報を的確に分析する体制をいち早く築く必要があるとする。世界規模でビジネスを展開するIBMはそこに新たなビジネスの萌芽を見いだし、大型投資を繰り広げている。

 基調講演の登壇者は「予測分析の重要性」について口をそろえた。ゴヤール氏はリアルタイムな情報分析やそこから未来を予測する姿勢が「今後10年のビジネスの核になる」と位置付けた。

image Business Analystics & Optimizationが扱うサービス群。SPSS、Cognosに加え、ビジネスプロセス管理の最適化ができるILOGが新たにラインアップに加わった。「ILOGの追加はワールドワイドでも初の発表」(日本IBM)としている

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