失敗なしに“よいリーダー”は生まれないそのひとことを言う前に(2/2 ページ)

» 2015年07月09日 08時00分 公開
[岩淺こまきITmedia]
前のページへ 1|2       

人が成長するための「学習のサイクル」

 アドバイスをもとに試すことができたら、次は振り返りを行います。実際に行動に移すことは素晴らしいことですが、やりっぱなしというのもよくないことです。

 人は単に経験を積めば、物事が上手になるわけではありません。回数をこなすだけで成長できるという単純な話ではないのです。教育・心理学者のデービッド・コルブが提唱した「学習のサイクル」という理論があります。人が得た気付きや経験を効果的に、人の成長や状況の改善につなげるための方法論です。これは「分かる」を「できる」へと近づけるフレームワークといえるでしょう。

 学習のサイクルは「経験→観察→考察→応用」の4段階で構成されます。“経験”はまず「やってみること」。「どうすればよいのか」考えた手段を試す段階です。

 “観察”は経験したことを具体的に分析するフェーズです。漠然とOK/NGを判断するのではなく、理由を深堀りして具体化し、なぜOKと思ったか、なぜNGと思ったかを分析します。例えば「今回はOKだった。チームに異変が起こったタイミングで、言葉を選んで声をかけたからだ」など状況を細かくみていくのです。

 分析した結果を一般化し、ルールを作ります。これが次の“考察”のフェーズとなります。上記の例でいえば、“違和感が見られたら見過ごさず、言葉を選んで声をかけるとよい”がルールとなります。そして考察の結果得たルールを、再度試してみようという“応用”のフェーズへと進み、また一段階高いレベルの経験へと戻っていきます。

 このサイクルを回していく中で、新たな経験から得た気付きを、強化したり、自分のスタイルや状況に合わないということで排除したりしながら、自分なりの「できる」に昇華していくのです。

photo デービッド・コルブが提唱した「学習のサイクル」

失敗することもまた成長、考えすぎないことが大事

 学習のサイクルにも気を付けるべき点があります。「観察」「考察」を得意とするいわゆる“頭のよい人”はそこに時間をかけ過ぎる傾向があるのです。人間の脳は知らず知らずのうちに自身の行為を肯定するようにはたらきます。「もう少し考えたらいいことあるかも……」と、取り組んできたことを肯定して、長く時間をかけてしまいがちです。

 今回のテーマはまずはやってみること。サイクルの循環をよくするために、考える時間を決めて取り掛かかるのがおすすめです。時間を決めて「観察」と「考察」を行い、その時間を過ぎたら次のフェーズへと進むように心掛けましょう。さっさと次の「経験」を積む方が、いい結果を生みます。

 物事を試して得た経験は、学習のサイクルを回すことで、必ず何らかの気付きが得られます。それがたとえ失敗であったとしても、失敗と分かること自体が成長なのです。多かれ少なかれ、状況(自分や周囲の反応)は変化するでしょう。もっとも恐れるべきは“何の変化も起こせないこと”であるのは、先に述べた通り。はっきり言ってしまえば、失敗なしによいリーダーやよいプロマネになれることはありません。

 試行錯誤する中で、以前よりよい状況になったり、自分自身の成長が実感できたりといったことがあるはず。そのときに初めて「分かる」が「できる」になったことを実感するでしょう。面倒くさがらず、恐れず、ぜひ行動を起こしてみてください。

 約1年にわたって続けてきた本連載は今回で終了となります。この連載を通じ、読者の皆さんが効果的なコミュニケーションをとることで、チームとして成果が出せるようになれば幸いです。

今回のまとめ

Q:今までの連載から「なぜダメなのか」「どうしたらよいのか」は理解しましたが、それができるようになるために、気を付けるべきポイントはありますか?

A:行動を起こさなければ何も変わりません。何よりまずはチャレンジです。自分の状況に当てはめて考えると、自分ごとになって行動に移しやすくなります。行動を起こしたあとは、成長のフレームに沿って振り返りを行いましょう。失敗を恐れずにこれを繰り返すことで、必ず結果は出るでしょう。失敗することもまた成長です。失敗なしに、よいリーダーやよいプロマネになれることはないのです。


著者プロフィール:岩淺こまき

Photo

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/ヒューマン・スキル講師

 大手システム販売会社にて販売促進、大手IT系人材紹介会社にて人材育成、通信キャリアでの障害対応、メーカーでのマーケティングに従事。さまざまな立場でさまざまな人と仕事をし、「ヒューマン・スキルに長けている人間は得をする」と気付く。提供する側にまわりたいと、2007年より現職。IT業界を中心に、コミュニケーション・ファシリテーション・リーダーシップ、フォロワーシップ、OJT、講師養成など、年間100日以上の登壇及び、コース開発を行っている。日経BP「ITpro」で、マナーに関するクイズ形式のコラムを連載中。


「そのひとことを言う前に」バックナンバー
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ