中堅・中小企業のデジタル変革にもSAPを――営業体制とパートナーを大幅強化

SAPジャパンが、中堅・中小企業をターゲットに、クラウドベースのソリューションを拡販する。小規模な企業にもSAPのERPが有用であることを説き、パートナー企業と共に企業のデジタル化をサポートする。

» 2017年04月04日 19時00分 公開
[園部修ITmedia]

 SAPジャパンが4月4日、中堅・中小企業向けにもSAPのソリューションの展開を強力に推進していく方針を打ち出し、説明会を開催した。SAPというと、大企業向けにERPを提供するイメージが強いが、決して顧客は大手ばかりではない。中小企業やベンチャーなどにも、SAPのビジネスソフトウェアを利用する企業は増えており、中堅・中小企業のデジタル化にも、同社の「S/4HANA Cloud」や「Business ByDesign」のようなクラウドを活用するソリューションが役立つという。

中堅・中小企業のサポートに力を入れるSAP

SAPジャパン バイスプレジデント ゼネラルビジネス統括本部 統括本部長 牛田勉氏 SAPジャパン バイスプレジデント ゼネラルビジネス統括本部 統括本部長の牛田勉氏

 SAPジャパン バイスプレジデント ゼネラルビジネス統括本部 統括本部長 牛田勉氏によると、IDCのグローバルの調査では「5社中4社が、デジタル変革を進めた結果として、具体的なメリットがあったと回答している」。具体的には、アンケートに回答した従業員1000人未満の企業のうち、46.5%が「今後3年から5年の間にデジタルエコノミーへの積極的な参加が不可欠」と答えており、従業員が100人未満の企業でも、38.2%が同様の回答をしているという。

 興味深いのは、ビジネスのデジタル化に伴う改革が、クラウドサービスを活用することで容易になっているという点だ。上述のアンケートに回答した小企業のうち5分の2で、「最初のソリューションの導入は予想よりも容易だった、あるいは余分な手間がかからなかった」としており、「デジタルアプリケーションを導入した企業の73%が、テクノロジー投資について期待通りか期待以上の成果を得られた」というのだ。

IDC 中堅・中小企業向け調査 IDCが実施した、中堅・中小企業におけるデジタル変革への取り組みに関する調査結果

 もちろん、これは日本だけを対象にした調査ではないので、国内の事情はあまり反映されていないが、中小企業であっても、デジタル変革(デジタルトランスフォーメーション)への意識は高まっており、具体的に導入に動いている様子が見て取れる。

 SAPでも近年、中堅・中小企業向けのビジネスは成長中だ。34万5000社の顧客のうち、80%以上が中堅・中小企業であり、2016年にERPスイートのS/4HANAを使い始めた新規顧客の60%以上が中堅・中小企業だという。しかも、もともと直販営業が強かったSAPながら、新規顧客は85%以上が販売パートナー経由で獲得できており、中堅・中小企業向けにサービスを提供するシステムインテグレータのようなパートナー企業の存在感が増しているようだ。

 こうした状況に合わせて、SAPでは2017年1月付で組織を大きく変更、新たに年商規模で区分けし、中堅・中小企業に特化した営業組織を設立した。組織の人員も30人前後だったものを70人以上へ増強。別組織だった営業部門とパートナー部門も再編成し、パートナービジネスを展開するのに適した形へと作り替えた。中堅・中小企業は年商1000億円以下の企業と分類し、その中でも年商250億円以下の企業に対して、クラウドソリューションを積極的に展開する。

 「現状、SAPの顧客の中でも、年商500億円以下の企業はほとんどないので、非常にチャレンジングだと思っている。中堅・中小企業のお客様には、財務会計や管理会計だけでなく、エンドツーエンドのソリューションを要望されることが多い。特定の領域だけシステムを導入し、部分最適を目指すよりも、SAPの世界で競争できる仕組みを全体で導入した方がいいはず。企業のデジタル変革をサポートしていく」(牛田氏)

 今回の取り組みをスタートするにあたり、中堅・中小企業向けのWebサイト「それ、SAPの出番かも」も開設した。

それ、SAPの出番かも 中堅・中堅・中小企業向けWebサイト「それ、SAPの出番かも」を新たに開設した
SAPの中堅・中小企業向け施策 SAPの中堅・中小企業向け施策

「Paidy」のエクスチェンジコーポレーションがBusiness ByDesignを導入

 ECサイトなどに対し、クレジットカード不要で、電話番号とメールアドレスだけで利用できる決済サービス「Paidy」を提供するFinTechベンチャー、エクスチェンジコーポレーションは、SAPのBusiness ByDesignを導入し、経営に生かしているという。

エクスチェンジコーポレーション CFOの乾牧夫氏 エクスチェンジコーポレーション CFOの乾牧夫氏

 同社 CFOの乾牧夫氏は、ERP導入前は3つの課題があったと話す。1つ目は、監督官庁が経済産業省、金融庁など3つに渡り、それぞれ報告書式が違い、チェック用件や情報管理基準などもすべて異なること。これに対応する必要があり、将来のIPOなども見据えて、事業プロセスの透明性も確保しておく必要があった。2つ目は、取引先にとってのカウンターパートリスクの除去義務があること。お金のやり取りをする決済の領域は、顧客や提携先としっかりと信頼関係を築く必要があるからだ。そして3つ目は、KPIをリアルタイムで把握する必要性があること。不正使用のモニタリングや利用属性の変化などに敏感である必要がある。「だから、ERPの導入に踏み切った」と乾氏。

 特に戦略性の高いKPIの抽出に、Business ByDesignは有効だったという。

 「何を経営指標に設定すべきかを知るツールとしてとても役立った。経営指標の重要性は、経営者のある“予見”が、どれだけ特定の減少の説明力を持つかで決まる。例えばコスメの購入者は債務弁済が早いとか、ブランド品の購入者は書籍を購入する人より支払いが遅いといった特徴が予見としてあったとして、それが実際にどうなのかを確認するすべが必要だ。以前はパラメーターを合成し、数日かけてデータを集め、分析してもらった答えを待つ必要があった。こんなとき、予見が的を射ていればいいが、そうでなく、経営的にあまり相関性がない、ということが分かるまでに何日も費やす必要があるのはやりきれなかった。ERPがあれば、たちどころにそれを確認し、予見を修正して、KPIを再定義できる。よりよい経営指標の発見に役立てられる」(乾氏)

 乾氏はBusiness ByDesignを、「自社開発主義を貫いてきたことで、合理的な世界観がある」と評価する。エクスチェンジコーポレーションはオンプレミスのシステムは一切持っていないとのことで、すべてクラウドベースで構築しているが、パブリッククラウドでも十分使用に耐えるパフォーマンスが得られているという。「小さなベンチャーにも最適解を提供してくれた。小回りの利くSIと出会えたのもよかったと思う。有効なKPIフィードバックを経営に取り入れながらERPを役立てていきたい」と乾氏は話した。


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