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» 2001年03月24日 12時00分 公開

eマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(13):なぜ、メールはスパムで、DMはスパムではないのか

[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 最近とみに、スパムメールが増えているような気がする。実際会社の電子メールアドレス宛に送られてくるメールの数件に一件はスパムだし、件数もさることながら、毎日仕事で使うメールの中に、余計なものが入ってくるわずらわしさは、ストレスを加速させる。でも、まてよ。これってどうしてこんなに気になるのだろう。

 僕も実はかつてダイレクトマーケティングを生業としていたので、この業界に入ったとき、安易に「メールアドレスを収集して、告知をする」というプロモーションを考えた。問題はその収集の方法で、さまざまなキャンペーンや問い合わせで収集したものを活用してメールを送ろうとしたのだが、そのとき「それはスパムだから、やめなさい」と怒られてしまった。

 郵便を中心とした、かつてのダイレクトマーケティング業界では、メールプロモーションを行うときのリストの収集は、それ以前のキャンペーンの応募リストを活用したり、時にはリストブローカーから買って、行うことは半ば常識だった。

 つまり、その郵便の受けてから見れば、こうしたDMも「意図せざる案内」という意味ではスパムメールと同じといえなくない。では、なぜ電子メールほど、リアルメール(郵便)では気にならないのか。

 ワン・トゥー・ワンのコミュニケーション手段としては、電子メールとリアルメールの役割は同じようなものであるが、その成り立ちとシステムが大きく違っている。それはおのおののアドレスがもつ公共性の違いである。リアルメールのアドレスは「住所」であり、市民社会に帰属する個人の位置情報であり、故に「公開され得るもの」である。従って、不特定多数のだれからでも案内が送られてくる可能性を持っている。

 一方、電子メールのアドレスは、「符牒」でしかない。市民社会に生きている個人としての“実態属性”とは何のかかわりもなく設定される……どうやって? その「符牒」を認めるプライベートなコミュニティによって。

 従って、そこに送られてくる情報や案内は、そのコミュニティの敷居をきちんとくぐったものでなければいけないのである(これがいわゆる“パーミッション”である)。しかして、プライベートなコミュニケーション空間に土足で送りつけられる情報は「スパム」となるわけである。

 リアルメールの世界は、もともと公開性の高い空間だけに、物理的にもプライベートコミュニケーションを守る“仕掛け”がある。糊付けされた「封筒」、直接家に入ってこない「ポスト」、いかにもDM然としたデザイン形状やプリントされた宛名書きすらも、不必要であれば、「その時点で捨ててください」という“間”を与えてくれている。

 電子メールの場合、これらプライベートを守るべき手段は(擬制的に、シミュレートされているものの)ほとんど機能しない。転送、一斉同報や到着通知、開封に至るまでの簡便化された仕組みは、まさに本来プライベート、コミュニティのための通信手段として生まれたものならではのものである。

 ふと思うのは、この電子メールが中心となった通信手段は、もしかすると、社会的なコミュニケーション関係の根本を変えてしまうかもしれないという恐れである。これまでの社会は(電話も含め)公共通信手段が先にパブリックなコミュニケーション空間を形成し、その空間と巧みに距離や敷居を作ることでプライベート空間をこしらえていた。

 電子メールがデファクトになるということは、逆に、プライベートなコミュニケーション空間が先に社会を埋め尽くす……といったことでもある。さて、こうした雑然としたプライバシーのパッチワークの中で、新しい公共空間はどのように形成されていくのだろうか。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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