連載
» 2001年03月10日 12時00分 公開

eマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(11):eブランドと拘束力(1)〜オンライン・ブランディング症候群〜

[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 もう春なのだから、去年の話をするのはあまり気が進まないが、忘れないうちに「いったいあれはどういうことだったのか」、どうしても整理をつけておかなくてはならないテーマがある。それは「オンライン・サービスとブランドの関係」についてである。

 振り返れば、2000年という年には、「えっ、こんな会社も?」と思うようなところまでが、とり憑かれたようにテレビ・コマーシャルを中心に、マス広告へ大量の資金を投入した。が、年が明けてみると、どうしたことか……こうしたオンライン企業がコマーシャルからすっかり姿を消してしまっている。コマーシャルからだけではなく、会社そのもの(!)まで姿を消してしまったところもあるようだ。いまになって考えてみると、そう、まるであれは伝染病の流行のようだった。

 「おまえにそんなことを喋る資格があるのか」という声が聞こえてきそうである。逃げも隠れもしない──僕もその伝染病にかかった患者の1人だった(だから、忘れないうちにちゃんとあれは何だったのか、確認したいのだ)。その病気とはなんだったのか? いまになってみれば、僕にはなんとなく分かる。名付けるなら“オンライン・ブランド症候群”とでもいえるだろうか。

 2000年は、大量のインターネット初心者がマーケットに流れ込んだ年だった。そして、その段階でも2割に満たない日本の普及率、圧倒的に先行するアメリカの普及率、そしてすっかり巨大化したYahoo! や、成功者として次々と日本上陸を試みるWebサイトの名に、焦りを感じたそのとき、僕らは“ブランディングの必要性”という呪文をすっかり信じてしまったのである。

 「これからも、インターネットにあまり詳しくない新しいユーザーによって市場は膨らむ。こうした消費者に支持されなければ、シェアを維持するのは難しいだろう。だとするならば、オンラインだけじゃなく、普段の日常生活の中でも知られるような “ブランド”になるために、コマーシャルを流すのだ!」

 リアル・マーケティングにおける教科書といわれるアーカーの「ブランド・エクイティー」論では、ブランドとは<ブランド認知><知覚品質><ブランド連想><ブランド・ロイヤルティ>の4つの要素によって形成される“資産”である、とされている。この概念をオンラインに適用しようと考えたとき、なぜだれも足を止めて考えなかったのだろうか。

  アーカーのこれらのコンセプトは、実際の商品やサービスから、自律して存在しうる視覚・聴覚的な“イメージ”が支えるものである。ロゴや企業・サービス名、テレビ・コマーシャルで起用されるタレントやキャッチフレーズが一人歩きをして、ブランド・イメージを形成することは、オフラインでは日常茶飯事である。なぜだろうか。

 かつて、あるマーケターが僕に教えてくれた“笑い話”が思い出される。「水島君、トヨタの新車の認知に最も寄与したメディアは何だと思う? それはね、街を走っているトヨタの車自身なんだよ」

 それはそうだ。僕らは、1日24時間の日常生活で、数多くの商品やサービスに出合っている。オフラインのブランディングとは、その接触経験や、何気ない印象を“ちょっと企業に都合よく集めて誘導してやればいい”だけなのだ。

 オンライン・サービスのブランディングが、オフラインに比べて困難な理由は、日常生活でその「存在」を自然と刷り込まれるチャンスが極端に乏しいことにある。そうした分、オンラインでのブランディングは実際の利用経験というものに決定的に拘束されるのだ。しかも、モニタに向かっている固定された姿勢の中にある経験は、オフラインのそれに比べて、強烈なインパクトを持つ。

 「オンラインでは経験を伴わないブランディングは成り立たない」と仮にするならば、オフラインのように「利用経験に先立つブランド・イメージ」などは、かえってむなしいものかもしれない。まずは“良好な利用経験”の創造のために、「目の前にあるサービスの充実を考えるのが、地味ではあるがオンライン・ブランド構築の近道なのだ」と自分にいい聞かせつつ、襟を正そうとしている今日このごろである。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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