グローバリティとローカリティeマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(9)

» 2001年02月17日 12時00分 公開
[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 ネットワーク社会の特徴として、だれもがそのグローバリティに注目する。デジタル化された情報は確かに、地理的・時間的な隔たりを乗り越える合理性をもたらしてくれてはいる。しかし、それだけで僕たちは「グローバリティの土俵の上に乗った」と単純にいうことができるだろうか。

 グローバリティの思想は、インターネットの発祥の地が“たまたまアメリカであった”ということを切り離して考えることはできない。アメリカという国は、リアルワールドにおいても「グローバル」な社会なのである。

 これは単に「国家としての世界的な政治指導力」「経済力」「国際共通語としての英語文化圏である」などのアドバンテージをいっているにとどまらない。例えば、「人種的な複合性」にしても、目に見える事象よりも、“世界のさまざまな地域を出自に持つ人々が、アメリカを「世界市場」と認め、そこに集結してきたダイナミズムの歴史”の持つ意味が大きい。

 さらに、アメリカという国家自身も、“州と合衆国連邦の関係をして、もともと「部分と全体」の矛盾と対立を包含した「ミニ世界」をシミュレートしている”といえる。これらに共通していることは、ウチ「閉鎖系」とソト「公開系」のインタラクション=交流、つまり「運動」のことなのである。

 グローバリティとは、従って“ただ単純にオープンなこと”を指すのではない。例えば、「グローバリティに反する動き」との批判も大きい「日本語ドメイン問題」を考えてみよう。

 確かに、技術的な観点や、英語中心主義の発想からすると、日本の“オンライン鎖国”を加速させるものに見えよう。しかし半面、この施策が解決しようとしている問題=日本においてドメイン不足の原因の1つになっているのが漢字特有の同音異義語であることを見落としてはいけない。

 こうしたローカルな立場に身を置けば、「個別の利害を解決せずにおいて、なにがグローバリティだ」ということにもなる。ことに「閉鎖系」の問題は“個別の利害”にかかわるものだから慎重に扱わなければならない。

 1980年代に、フランスで「ミニテル」という情報サービスが始められた。インターネットのような物理的な拡張性を備えておらず、世界的な普及の動きにはならなかったが、そもそもの発想の違いとして、“情報による生活利便性の向上”という目的があった点が見逃せない。アメリカ産のビジネスに特有の「世界市場」を見据えた発想の対極にある、手の届く「生活圏」の発想がそこにはあるのだ。

 アメリカで生まれたインターネットではあるが、21世紀は、日本やフランスを含めた世界のそこここでの定着が図られる段階に向かう。「公開系」の発想は、この技術が世界規模に広がっていくプロセスにおいて、大きな推進力として働いたという事実は否めないが、実際に(日本に暮らすわれわれも含めて)世界中の津々浦々の人々に欠かせないものとして定着していくためには、この「生活圏」「利害」といった「閉鎖系」の発想といかに交わっていくかが重要なポイントを握っている。

 「科学技術によって、現実は増大する一方で、緻密化している」とは多摩美大助教授の港千尋氏の指摘だが、まさしくインターネットにおけるグローバリティの進展においても、拡大の動きだけでなく、より個別化していく動きにも目を凝らしておく必要がある。

 “アメリカ”とは、地理的に区切られたあの「土地」を指すのではなく、ローカルの集積として築かれた「新しい社会の枠組み」のことを指すのだということを忘れてはいけない。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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