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» 2001年04月28日 12時00分 公開

eマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(17):もう1つのブロードバンド論

[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 先日、韓国の(Yahoo!より巨大な)ポータルサイトの人の話を聞く機会があった。半分閉塞しつつ、インターネットの発展の出口を探しているような日本の状況とは違い、表情からして前途洋々というか、楽しそうであった。

 実際、そのポータルサイトを含め、日本のYahoo!クラスのアクセス規模を保持しているサイトが3つあるそうだ。確かに、最近の韓国におけるインターネットの普及状況には驚くべきものがある。

 韓国の人口は4500万人だから、日本の半分に満たないにもかかわらず、すでに1900万人のインターネット利用者がいるそうだ。しかも、本格的な普及期を迎えてわずか2年の間に……である。

 当然この規模になると、若者だけでなく、さまざまな世代に広がってきているようである。「これからはインターネット時代だ!」というかけ声だけは早かったが、一向に普及が進まない日本と比べると信じられない光景である。

 この普及の下支えをしたのがブロードバンドである。1999年の3月に立ち上がった「サイバーコリア21」構想に基づいて、政府主導で一気にインフラが築き上げられた。この高速・大容量の環境と、放送/通信の壁を取っ払った法整備の迅速さは、日本の遅々たる状況を振り返るにつけ、うらやましい限りである。

 実際のアクセス動向にも、その特徴が表れているのは面白い。つまり、日本と韓国では、1人当たりの接続量が圧倒的に違うのである。まあ、ある程度使わないと普及しない……というのも当たり前の話だが。

 この1人当たりの接続量を支えているのがコミュニティとゲームである。冒頭に触れた韓国ナンバーワンサイトも、どちらかといえばコミュニティサイトである。情報探索(検索)のツールとしてインターネットを活用する場合は、インターネット自体へのスティッキネスの度合いはさほど要求されないが、コミュニティの場合は、“そこに滞在しないと価値がない”。当然、つなぎっぱなしの環境が要求される。

 ゲームの場合、韓国で象徴的なのは「PC房(バン)」という名のインターネット・カフェ兼ゲームセンターの存在である。ゲームとブロードバンドの関係について語ると、ついつい「大容量」によるコンテンツのリッチさに関心が傾きがちだが、僕はここでも本質は“対戦”というコミュニティ特性(インタラクション)にあると考える。

 もちろん、大容量によってアクセス・ストレスがないことが前提ではあるが、ゲームや特にチャットなどのデジタル・アプリケーションへの心理的な「没入」傾向は、コンテンツの豊かさという社会的な商品価値ではなく、個人的な「快楽」と結びついていることにかぎがある。

 この「快楽」は、適度な刺激と、十分な主体性の充足感(自分で思うとおりにやれている)とのバランスで成り立っている。ゲームが与えてくれる刺激は、主体性を傷つけない程度に計算されたものだし、チャットや掲示板は最終的な匿名性がリアルな危険から身を守ってくれる。オンラインの世界は何よりも、“リアルの世界より、安全で、自己充足感が得られる”から、そこに「没入」するのである。

 とはいいつつ、日本でもようやく本格的にブロードバンド環境がやってきそうではある。しかし、韓国のようにそれが普及の後押しをしてくれるだろうか?

 幾つかの疑念がある。われわれは、大容量のブロードバンドだからといって、やみくもに“お仕着せのリッチ・コンテンツ”を用意することに躍起になってはいないだろうか。テレビのときと同じように、またもや一方通行のメディアにしてしまうのだろうか。テレビのように情報に対して距離を置くことが難しいこのモニタ・ディスプレイに、リアル環境と同じような「大容量」でストレスフルなイメージをまき散らせて、僕らを現実社会と同じような「不快な」気持ちにさせるのだろうか。

 それよりも根本的な疑念がある。日本では、パッケージ・ゲームが先に普及したがために、ネットワーク・ゲームが普及していない現状がある。これは単に「先」に普及したことが理由なのだろうか。

 大容量で内容が充実したら、日本人もネットワーク・ゲームにシフトするのだろうか。もしかしたら、日本人は本質的に、“1人で遊ぶ”パッケージ・ゲームが好きなのかもしれない。なぜなら、これはネットワーク・ゲームよりもなお一層、「不快な」ストレス、つまり「対人ストレス」から守られているから。

 この「引きこもりがち」の国民性にとって適度なインタラクションとは何か。いまの日本の国際社会におけるポジションもあわせて考えると、ブロードバンドは厳しい試金石になるように思えるのだが、いかがだろうか。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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