連載
» 2001年03月17日 12時00分 公開

eマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(12):eブランドと拘束力(2)〜ブランドの存在する場〜

[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 前回よりさらに古い話だが、1年以上前、日経が発表した「オンライン・ブランド調査」の結果で、なんとインフォシークは、Amazon.comに続いて第2位の栄冠に輝いたことがある。いまさらこんなことを持ち出すのは、何も過去の栄光を自慢したいからではなくて、そのとき、この結果に対して、とても不思議な気分になっていたことを思い出したからだ。

 確かに、インフォシークは日本のWebサービスでは老舗の1つでもあり、この結果はそれはそれで非常にありがたいものだった。が、そこまで評価されるほどユーザーを大量に集められていたわけではなく、サービス的にはまだまだ不十分であることを日々悩んでいたくらいである。

 その当時、まだ日本ではサービスを始めていなかったAmazon.comがトップになったことも大いに謎ではあったが、僕が理解していた「ブランド」という概念と、この調査結果には大きなギャップがあるように思われたのだ。

 よく調べてみると、実際そのとおり、この結果は一般の人を対象とした定量的なデータに基づくものではなく、プロフェッショナルな人々の評価によるものだった。

 ブランドとは一見、消費者の主体的な“選択眼”を前提にしているように思う。しかし、ブランドがまさに「ブランド」として機能するのは、情報に対して積極的な人々に対してではなく、もっとパッシブ(受動的)に情報を受容する人々に対してではないだろうか。

 市場における製品普及のプロセスを考えると、確かに導入期にはイノベーターやオピニオンリーダー(いわゆるアーリー・アダプター)たちの積極的な情報選択が市場を支えている。

 しかし、最もブランドが「ブランド」として機能するのは、パッシブな情報受容者が大量に待ち構えているテレビの前においてである。実際、そこでは、ブランドは“選択された結果”すなわちエスタブリッシュされた「権威」として存在する。

 ところが、テレビを媒介とすることで、そこに映し出される「権威」は“選ばれた権威”として意識されることなく、スムーズにフォロワーに伝達する、というプロセスが遂行されていく。実際は、テレビに映し出すこと自体、「権威」の象徴的機能であるにもかかわらず、だ。

 それはテレビという開かれたメディアが、先行者の経験を増幅させる機能を持つ=フォロワーに自分の体験であるかのようにイメージさせる力を持つからである。

 オンラインではどうだろうか。ここでは、必ずしも先行者の選択眼がスムーズにフォロワーに受け渡されてはいかない。古くからのユーザーがいくら支持しても、新しいインターネット・ユーザーになかなか広まっていかないサービスもあれば、突然、先行者の選択眼と無関係なところで人々に利用経験が広がっていくサービスもある。つまり、オンラインでは、先行者とフォロワーをつなぐメディア的な存在が希薄なのである。

 アメリカのポータル競争は、「Yahoo! 」「AOL」「MSN」の3社の勝ちということで決着がついてしまったが、そのカギを握っているのが利用経験にかかわる「物理的な拘束力」である。

 AOLは接続そのもの、MSNはブラウザでその拘束力を得た。Yahoo! はまさにビジネス的な成功という“権威”そのものとして、ブックマーク、スタートページ設定という拘束力を得ることができた。これら「(文字どおり)勝ち組」の枠の中で、新しい利用者は経験する(オンライン・サービスに慣れる)ことを強制されるのである。

 先の日本の調査でも、こういった勝ち組のサービス評価は必ずしも「非常に高い」わけではない。だからといって、この枠の中で育ったユーザーは、もっといいものを探しに出るわけでもない。これら「物理的な拘束力」の中では、主体的な選択意向はますます育っていかない。

 勝ち組がユーザーを拘束し、先行者とフォロワーをつなぐメディアもなく、お互いの価値観が断絶しているこうした状況を見るにつけ、オンラインでは人々の価値観をつないでくれるような“メディア”がまだ生まれていないことを実感する。

 オンライン自体がメディアに成長するためには、まずオンラインの中にブランドを育てる“メディア”が生まれなければならない。残念ながら「ポータル」とか「コミュニティ・サイト」は、まだ、大勢の人が集まる場所にすぎない、というのが現状である。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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