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» 2001年04月21日 12時00分 公開

eマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(16):バイラルの正体

[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 オンライン・ブランディングを考えるとき、マス媒体の伝達機能による「イメージ」の創造がいかに困難であるか、オンライン・サービスへのロイヤルティがいかにディスプレイ・モニタという限られた「経験」に拘束されているかをこれまで(11)(12)でつらつらとぼやいてみた。しかし、ブランディングは、「マーケティング」を標ぼうする以上、重要な課題であることには変わりはない。

 マス媒体によるeブランディング競争が収束しつつある時期にちょうど合わせたように、耳にするようになった言葉が「バイラル・マーケティング」である。この“時期”に、僕は妙に「意図」めいたものを感じるのだが、いかがだろうか。

 「バイラル」と同時期に、3大<新>マーケティング・コンセプトとして「パーミション・マーケティング」「ワン・トゥー・ワン・マーケティング」などがもてはやされたが、これらの概念に共通するのは“人的な伝播”である。つまり、マス媒体という“装置による伝播”が壁にぶち当たったら、装置を介さない方法にのりかえる、といった寸法である。

 元来、マーケティングとは操作性の概念である。平たくいえば、市場拡大を至上命題とする企業活動の中で、いかに計算可能的にこれを実現するか、との目的のために書かれる処方せんである。

 「バイラル・マーケティング」という言葉の不思議さは、そのいくつかの事例が、決して操作されたものではなく“自生的”な現象であったにもかかわらず、それを操作し得るものとして啓蒙しようとしているという矛盾にある。

 「バイラル・マーケティング」のバイブルといわれている、セス・ゴーディンの同名の著書では、「アイディア・バイルスがブレイクするのは、一見偶然に見えるが、実は人為的にその可能性を飛躍的に高められる」としている。

 よく読んでみると、その“人為的に操作するための条件”自体が、非常に限られたシチュエーションを要求することが分かる。しかも、その伝播の前提が“うまくいったよ”という成功事例の先取りから生まれるのがこのロジックのわなである。

 ゴーディンが「コントロールし得る」と標ぼうするこのコンセプトが、いかに厳しい前提条件に覆われているかは、それらを列挙すればすぐ分かる。まず、“成功”の魔力に取り付かれる多数の無節操なスニーサーの存在、数多くの失敗を覆い隠すだけの力がある「成功」の存在、そして何よりも「成功」の前提となるマーケットの「空白」である。

 細かいところはWeb( http://www.ideavirus-j.com/ )上で読めるので、ぜひ読んでいただきたいが、これだけの偶然にかこまれていて、よくもまあ「コントロールでき得る」といえるのが不思議である。

 ゴーディンのこの本は理論書ではなく、あくまで“啓発書”であるという指摘をする人もいる。この意見には「なるほど」という感じである。また、ゴーディンのいっていることは、マス媒体に対する疑問が頭をもたげたときに必ず出現する「口コミの組織化」と何ら変わらない、決して新しいコンセプトではないという指摘もあり、そのとおりだと思う。

 だけどもここで僕が問題にしたいのは、ゴーディンの是非ではなく、こうして繰り返し古い概念を持ち出してでも“新しげ”に見えるコンセプトを作り出していかなければならない、もはや悲哀にも似たマーケターたちの懲りない「仕掛け(=操作性の具現化)」へのこだわりである。

 最近発表されたある調査では、「バイラル・マーケティング」の一手法である「お友達紹介」に対する消費者の悪印象が報告された(「お友達紹介」ユーザーの半数は「悪印象」)。この報告を見ても、バイラルは結果論であり、一般市民には、操作されることに対する拒否感が根強いことがうかがえる。

 「仕掛け」をつくるのが仕事のマーケターにとって「仕掛けが意識されないこと」が秘訣というのは、いかにもハードルが高い課題である。「仕掛けが意識されずにバイラルが機能する」とは、“同じ興味・関心に支えられたコミュニティ内の伝達行為”と実は同義であることに気付く。こうしたコミュニティに出合うこと自体がかなりまた「偶然性」の高い出来事である。

 マーケターの悲しい性(サガ)を嘲笑うように、マルチプルなインタラクションを前提としたインターネット環境では「操作し得る」世界が、どんどん偶然性(計算不可能性)の力に覆われ、安住の地を失いつつあるようだ。いや、いままでも安住の地などなかったのに、ただ僕らは一方通行のマスメディアに慣らされて、それに気付かなかっただけなのかもしれない。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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