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» 2001年02月10日 12時00分 公開

eマーケティングの現場から技術者向けの、eマーケティングTIPS(8):「競争」と「普及」のダイナミズム(2)

[水島久光,株式会社 インフォシーク]

 “競争の前提となる普及”。……確かに、ある一定の市場規模が育たないと価値観の「違い」が生まれない。そして、その「違い」があるからこそ、その上に展開される競争は、さらに市場を大きくすることができる。だとしたら、競争なくして、いったい何の力によって、競争の前提となる市場規模を得るだけの普及を促進させることができるのだろうか。

 ここで頭に浮かぶのがXMLのことである。XMLは、Web表現の自由度を広げることに大いに貢献しつつあるが、その登場が騒がれた1999年のいまごろに比べると、現在の実用化状況は、なんというか、情報デリバリ手法の1つにまで格下げされているように思えて残念でならない。

 確かにBtoBの舞台においてのXMLの革新性は大きいが、僕の当時の印象では、HTMLのネクスト・ステップとして、もっと一般消費者に対して、公共性を持った情報サービス分野で生かされていくという展望があったように思う。

 現在の状況はそうした展望の途上である、という認識ももちろんできなくもないが、いまのところXMLのユーティリティがこうした「裏方」の技術という位置付けにとどまっている大きな理由の1つは、(当初から懸念されていたように)“文書型定義”を定めていくにあたってのイニシアティブの不在ではなかっただろうか。

 XMLは、これまでのHTMLが持っていた“ドキュメント表示”にかかわる定義から、“情報の意味内容”の領域に踏みだしたがゆえに、非常に画期的であった。この“情報の意味内容”を表すルールこそが文書型定義であるが、これを定める作業がこの2年余りの間、なかなか進んでこなかった。

 逆の見方をすれば、現在XMLがBtoBという領域で実用性を高めているのは、BtoB自体が「業種」で限定されているので、いやが応でも、XMLの文書型定義が共通な利害のもとで流通する情報の範囲で定義されてしまうからではないか。例えば、自動車業界ではEDI推進などのプロジェクトにおいて、容易に共通の「ルール」としての文書型定義が定められうるのである。

 一般に公開される“公共性の高いコミュニケーション・情報サービス”の場で、こうした「ルール」が普及しにくいのは、“仮にだれかが定めた”としても、皆が従わなければ本当の意味で「ルール」にならないからである。

 では、こうした場においては、だれがどのようにしてこのルールを定めるのだろうか。僕は、ルールを定めるのは“だれが”ではなく、「協調」と「参加」というプロセスそのものがその鍵を握っているのはではないかと思う。

 XML文書の文書型策定の場合、特に「協調」と「参加」の持つ意義が大きい。なぜならば、それが“情報の意味内容”にかかわっているからである。一般に“情報の意味内容”は、その情報に参加する人々の「合意」によって社会性を得る。

 これまで、情報技術の規格・仕様の決定プロセスに意味内容がかかわることは極めてまれだった。技術者たちは、処理の合理性に基づいて仕様を定め、その普及に関しては「合意」というよりは「競争の力学」に身を委ねていたといえよう。

 「競争の力学」に基づく普及においては、自社の仕様が限られた市場を席捲する「夢」は見られるが、競争以前に「協調」と「参加」によって多くの人たちに利用してもらう環境そのものを作り出そうとする努力は、われわれに、市場を拡大させるというもっと大きな夢を見させてくれる。

 「協調」と「参加」を支えるものとしてのマーケティングというものについて、僕はもう一度問い直してみたい。果たしてそれは、「差別性を際立たせ、競争を煽るだけのものなのだろうか」「多くの人が共有できる“意味内容”を見つけだし、競争に先立つ『普及環境』を整えるために、もっと努力できるのではなかろうか」と。

Profile

水島 久光(みずしま ひさみつ)

株式会社 インフォシーク 編成部長

mizu@infoseek.co.jp

1984年慶応義塾大学経済学部卒業後、旭通信社にて、ダイレクト・マーケティングを手がける。1996年にはインターネット広告レップ「デジタルアドバタイジングコンソーシアム」の設立に参加し、インターネット・マーケティングに関する多くのプロジェクトに携わる。そのうちの1つ、情報検索サービス「インフォシーク」の日本法人設立準備にあわせて旭通信社を1998年10月に退社し、「インフォシーク」を運営していたデジタルガレージに入社。1999年6月、インフォシークの設立後、現職に着任。現在、日本広告主協会傘下のWEB広告研究会広告調査部会幹事も務めている。日経BP社『ネット広告ソリューション』インプレス『企業ホームページハンドブック』(いずれも共著)。


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