連載
» 2005年08月10日 12時00分 公開

The Rational Edge:ソフトウェア開発の「いま」と「近未来」の話 (2/2)

[Grady Booch(IBM Fellow, Rational software),@IT]
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新しくIBM Software GroupのRationalソフトウェア担当ゼネラルマネージャに就任するDanny Sabbah氏へのインタビュー

Grady Booch(以下GB) 顧客やソフトウェア開発業界の同僚の多くと同様、私もMike Devlin氏も、あなたを何年も前から知っています。しかし、あなたの功績を余りよく知らない読者のために、ソフトウェア開発分野での経歴をお話しいただけますか。

Danny Sabbah(以下DS) 喜んで。1980年代半ばから後半にかけての調査事業部在籍時は、プログラミング言語と開発環境を重点的に扱う「ソフトウェアテクノロジ」というチームの責任者を務めていました。そのときにはすでに、コアソフトウェア技術とプログラマの生産性や、開発者の日常生活について理解することに深く揺るぎない関心を持っていました。IBM Software Group(SWG)のSteve Millsの下で働き始めた最初の3年間は、IBMのアプリケーション開発ビジネスだけに専念しました。アプリケーション開発で行っていたことを補完するため、1996年にはWebSphereを急きょ立ち上げました。もちろん、1990年代前半にはアプリケーション開発分野で(マイクロソフトの)Visual Basic、ボーランドの開発ツール群、およびそのほかのいくつかの製品の後塵を拝しました。しかし、われわれは当時もいまも、市場ではCOBOLやPL/1、そしていまのJavaのように言語環境として高い存在感を維持しています。従って、開発者の間で影響力やマインドシェアを再び高めることが、昔のWebSphere Studioや、やはり私のチームが送り出したEclipse構想など、WebSphereにおけるJava構想の重要な側面でした。

GB ソフトウェア開発ツールがIBMにとってこれほどまで重要なのはなぜですか。IBMのソフトウェアポートフォリオに知名度の高い別ブランドは本当に必要なのですか。

DS 私は、現代のビジネス環境で成功を目指す組織にとっては、ソフトウェア開発が非常に重要だという考えを常に持っていました。IBMがRational買収の決断を下した大きな理由の1つは、統合開発環境に関連して構築していたものを完成させ、補完するためでした。実は私もその判断を下すときのチームの一員で、それを誇りに思っています。われわれにはライフサイクル機能が必要でした。保守を含むソフトウェアのライフサイクル全体を通じて要件の収集と管理を行ったり、ソフトウェアのモデリングとコーディングを管理したり、コードのバージョンを管理したり、ライフサイクル全体を通じてテストを実施したりなど、すべてを理解したうえで個々のソフトウェアを管理する開発者はいません。これらはどれも非常に重要なことです。ライフサイクル管理とモデリングの成果物がなければ、IDE単体ではさほど便利ではありません。

Rationalは主力ブランドの1つとして、ソフトウェア開発分野や、大企業におけるソフトウェア資産の形成と管理の分野において、市場での認知度およびリーダーシップの確立および維持でわれわれを支援しています。だから、開発ツールの一部を昨年WebSphereからRationalブランドに持ってきたことも理にかなうのです。基本的に、RationalをIBMソフトウェアファミリーの中でもっとうまく統合するには、開発資産だけでなく開発チームもEclipseとWebSphere StudioからRationalブランドに移す必要がある、との決断をJohn Swainsonと私は意識的に下しました。

 つまり、私がRationalのGMになったことには、過去や、これまで一緒に仕事をしてきた部下との再会という要素もあると考えられるのではないでしょうか。Rationalツールセット全体を補完することは、私が長年楽しみにしてきたことなのです。

GB Rationalのソフトウェア開発ツールと最優良手法がIBMのソフトウェア構想にどのように役立っているのか例を挙げてください。

DS 素晴らしい例があります。Rationalは、Webサービスやサービス指向アーキテクチャに対するわれわれのこだわりにすでに良い影響を与えています。私は、戦略部門在籍時にSOA関連の伝道活動を始め、その活動の大半をRationalチームと一緒に過ごし、開発者が資産のライフサイクル管理を理解できるようにするツールを共同開発しました。これには、IBMだけでなくわれわれが直接取引する顧客も参加しました。もっと大ざっぱにいえば、カスタム開発を行う会社の平均的な開発者だけでなく、各地をカバーするシステムインテグレータの間でも認知度を高め、市場のリーダーシップを確立する意図があったのです。サービスベンダやSOAは、開発ツールをすべてそろえなければ成功できません。その中心となるのがRationalです。この市場では、Rationalが導き、リーダーシップを取る必要があることは明らかです。

 私は、SOAを成功に導くに当たってはRationalが重要な役割を演じていると見ています。それは、ランタイム環境のサポートでWebSphereが果たすのと同等以上に重要な役割です。開発者を獲得できなければランタイムも重要でなくなってしまうからです。

GB Rationalは、エンタープライズサービスバス(ESB)モデルの成長や普及にどのように貢献しているのでしょうか?

DS それ自体が終わりなのではなく、終わりに至るための手法だというのが、Software Groupにおけるエンタープライズサービスバスの概念です。自己定義インターフェイス同士の連携を弱めるための手法なのです。これらの自己定義インターフェイスは、モデリング分野から出てくるべき資産ライフサイクル管理モデルと、Rationalが提供する一連のツールで定義され、管理されています。方法論の要素はRUPの拡張部分なので、RUPとの合致性から採用してきた技術の多くは、Rationalのツールセットから直接出てくるものです。したがって、それがClearCaseの導入であれ、Rationalツールキットのポートレットビルダを組み込んだWebSphere Studio(Rational Application Developer)の採用であれ、これらはすべて内部で利用され、資産の形成と分離に役立っています。これが将来、製品開発で核となるコンポーネントになるのです。

 われわれの顧客には、オブジェクト指向デザインの統合表示に一部ツールを組み合わせるなど、RationalがこれまでRUPを中心に技術の移行を推進してきたように、SOAやサービス指向デザイン関連でも同じことが必要とされています。資産の形成と管理は、われわれの開発ツール、方法論、およびランタイムプラットフォームで進化するモジュール方式の次の段階にすぎません。従って、抽象的なエンタープライズサービスバスに組み込まれる抽象的で、プラグイン可能なインターフェイスを構築する、適切なインターフェイスセットを作成する、そしてこれらを管理するという概念は、Rationalの方法論や、あなたのような人の主導である必要があります。

GB 反復開発手法を推進するというRationalの大きな使命をどのように見ていますか? そして、今後どのような難問が出てくると思いますか?

DS かなりの数の難問がありますが、反復開発が複数の理由から極めて重要であることを理解させるのもその1つです。理由として最も明らかなのは、これまで利用されていたウォーターフォールプロセスとは異なり、途中のチェックポイントが増えるなど、こちらは反復テクニックが間違いの削減と進行状況に関するチームの正しい理解に役立つ点です。

 しかし、同様に重要な点として、今日のような企業投資環境では、われわれの顧客の多くがもっと段階的に機能強化できるアプローチを探しています。彼らは投資収益を早急に回収する必要があります。つまり、成長するビジネス指向モデルを定義する反復アプローチへの投資には彼らの方が積極的なのです。これがRationalブランドの目指す、事業目標のますますの洗練と、反復的でRUP指向の開発手法との強力な連携なのです。これで、われわれの顧客はツールの投資と事業目標を密接かつ早急に結び付けられるようになります。

GB IBM Global Services(IGS)は顧客との契約でどの程度Rationalのツールを利用しているのですか。

DS IGSがハードウェアや作業ベースのモデルから資産ベースのモデルへと移行する中、Rationalのツールと方法論はIGSの成功に大きく貢献することになります。IGSは、ソフトウェア資産の開発や管理、そして、これら資産の再利用を必要とするアプリケーションライフサイクルの理解など、ソフトウェア開発への依存がかつてないほど高まっていることに気付きつつあります。これらはIGSの移行における決定的な要素であり、IBM Software GroupがRationalツールで達成しようとしているものの核心となります。

 IGSとSWGは提携を拡大しつつあり、そこで重要になるのがRationalとの関係です。資産の形成と管理におけるスキル、方法論、組織的実践でわれわれが支援することにより、IGSはもっと成功するでしょう。これらはどれもビジネスモデルの進化に重要なのです。

GB リーダーが交替すると、いつも特別な注目を集める部分があります。ところで就任後最初の100日は何をしますか?

DS われわれは複数の分野に積極的に取り組みます。

 顧客の実際のランタイム環境に的を絞ることで、確実にRationalツールが顧客の事業目標と密接に結び付くようにします。つまり、現在持っているツールを今日のビジネス実行環境に合わせるのです。モデリングや方法論関連は非常に得意にしていますが、開発環境やテスト環境、そしてパフォーマンス管理環境を、顧客がビジネスでよく利用するリアルタイムのランタイムとさらに統合する必要があります。例えば、既製もしくはパッケージアプリケーションとの接続、そしてこれをほかのパッケージアプリケーションやレガシーアプリケーションとも接続する必要があります。SWGなどの各事業部にすでにある資産との統合を改善し、これらの機能と成功をRationalで活用する必要があるのです。

 われわれは、システム管理や運用管理ツールの統合を強化するため、TivoliでAl Zollarのチームが着手した作業を継続していきます。開発時に形成された資産を整理し、運用と製造/開発のギャップとを埋めるべく支援します。カスタム開発/システム統合の多数の現場では、開発者があまりに単純な仮定に基づくツール環境で作業をしているため、開発者と運用担当者が対立しています。ツール自体がシンプルなだけでなく、アプリケーションの開発環境も、これらが導入され、拡張されていく環境とは大きく異なるのが一般的です。Tivoliでは、開発者、運用担当者、およびシステム管理者など、チーム関係者すべての課題を深く理解しようと務めているのです。

 Eclipseとの統合はさらに進めます。この取り組みには、データアーキテクチャツールのほか、ビジネスプロセスモデリングツール、ビジネスプロセス管理ツール、それにポータル作成/管理ツールも含まれます。われわれは、これをWebSphereやLotusの両ブランドと協力して進め、これをTivoliブランドへと拡張していきます。基本的には、IBMのソフトウェア製品以外にRationalの価値があることを忘れることなく(これはほかのどのSWGブランドでも同じです)、個々のSWGブランドとの統合を一段と進めます。そのために、今後もさまざまな環境が混在する現場での機能性に重点を置いていきます。それが、顧客の実際の作業環境だからです。

 われわれは、ソフトウェア開発者コミュニティにおけるコラボレーションの進化に細心の注意を払っていきます。Rationalのツールは、アプリケーション開発チームのライフサイクル管理だけでなく、インターネットの周囲で確立されつつあるコミュニティの概念に合ったライフサイクル管理にも対応する必要があります。地理的に分散した開発の流れを見てください。ブログ、RSSフィード、インスタントメッセージング、ポータル、あるいは地理的に分散したソースコードライブラリツールであれ、インターネット全体で利用できるコミュニティのコラボレーション機能の強化は誰もが望んでいます。これらはすべて、すでにオープンソースコミュニティによって強化されており、これらをRationalの価値命題の一部にする必要があります。われわれは、インターネットで定義された協調コミュニティの概念を資産管理に取り組む開発チームの進化に利用したいと考えています。

 これは斬新なものでもありません。しかし、インターネットは新しい力を与え、活動範囲を拡大し、全世界に分散した開発などを可能にし、外注あるいは内製の方法と時期を判断するのを助け、知的財産や、それを生み出す人といった開発資産の管理の柔軟性を実現します。ニーズのグローバル化に伴い、顧客はこれらの機能を要求するようになるのです。

GB Rationalのこれまでの幹部は、大半がいまではIBM社員と交替しています。今後数年間でRationalのリーダーシップのスタイルは変わっていくのでしょうか。

DS IBMの経営陣も、Rational本体の指揮を執ってきた人々と実際にはさほど変わりません。Mike DevlinはRational創業当時から知っています(つまり、私は古いAdaの時代からRationalとかかわりがあったことになります)。現在は、SWGというもっと広い観点からRationalを先へと進めているのは事実ですが、そもそも、MikeがRationalの買収を称賛したのはそこが最大の理由でした。彼は、IBMのような大きな会社と提携することなく自分のビジネスを拡張できるか不安だったのです。

 基本的なRationalの使命が変わることはありません。ソフトウェアの開発と導入に依存する組織の成功を保証することが、いまも一番の目的です。われわれは、そのための方法を何としてでも探し続けます。Rationalがまだ設立されたばかりのころは、Ada開発環境を運用するためのオリジナルハードウェアの設計と構築がその方法だったのです。これは、自分自身のこだわりと一致しています。ほとんどの方はご存じないと思いますが、大学院修了後すぐにIBM Research事業部に入社した私は、Symbolics LISPマシンを本当に会社に持ち込んだのです。それは、これが当時われわれが実現しようとしていたことに最適なハードウェアだったからです。

 もっと深い部分で数年にわたりRationalの成功に最も貢献したのが顧客との密 接な協力でであり、私はこの点を長年評価していました。私は7年前から、年平均約150社のパートナーや顧客と連絡を取ってきました。IBMの事業価値が顧客のメリットになっていることを実感できるため、私はこの作業が大好きです。また、場合によっては、価値の提供に失敗した部分が分かることもあります。顧客からのさまざまな問い合わせに対応することで、かなり現実的な理解を深めることもできます。顧客とは可能な限り頻繁に連絡を取り、そこから得られるものをこれまで以上にRationalの企業文化に反映させるつもりです。

GB IBM Software Groupのこのソフトウェア開発ブランドを率いるに当たり、最も刺激になるのは何ですか。

DS 多くの理由から、IBMの成功にはIBM Softwareが重要です。IBMで最も利幅の大きい製品がソフトウェアであることは今後も変わりません。Rationalについては、これまでの25年間ですでに築き上げた価値を高める大きなチャンスがあります。進化するビジネスの成功に開発者がますます重要になりつつあること、そして彼らがビジネスに提供できる価値と深くかかわり、それを理解する必要があることは明白です。いまこそ、CIO、ソフトウェア開発者、そしてシステムインテグレータはビジネスモデルの進化や収益に深くかかわる機会なのです。Rationalが市場に価値を提供し、開発者を効率的にするだけでなく、ソフトウェア開発者とのかかわりでビジネスをも効率的にするという既存の価値命題を拡大できるのはこの部分だと思っています。

著者紹介

▼Grady Booch

ソフトウェアアーキテクチャ、モデリング、ソフトウェアエンジニアリングプロセスの革新的な取り組みで世界的に認知されており、どの研究も、世界中の開発者の効率を高めるものだった。Gradyは、Unified Modeling Language(UML)を開発した初期メンバーの1人で、業界トップのビジュアル開発ツールであるRational Roseなど、複数のRational製品の開発にも当初から携わった。Gradyはベストセラーを6冊執筆しており、ソフトウェアエンジニアリングに関する技術関連記事も数百本執筆しているほか、講演で世界中を飛び回ってきた。Gradyは、Rational Softwareでチーフサイエンティストを務めていた。



本記事は「The Rational Edge」に掲載された「Mike Devlin and Danny Sabbah: Rational leaders share their vision」をアットマーク・アイティが翻訳したものです。

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