明らかになる専務の陰謀、そして救世主現る目指せ!シスアドの達人−第2部 飛躍編(11)(4/4 ページ)

» 2007年09月25日 12時00分 公開
[森下裕史(シスアド達人倶楽部),@IT]
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そして、陰謀失敗

 名間瀬はそういうと、真っ青な顔をしながら部屋を出て行った。すると豊若は、坂口に小声で後を付けるよう指示した。坂口はけげんな顔をしたが、少し間を置いて名間瀬を追いかけた。すると、名間瀬は後ろも振り返らずに佐藤専務の部屋に飛び込んだ。

佐藤 「どうした! もうすぐ、セキュリティの専門家が来るはずだぞ。何か変わったことがあったのか?」

名間瀬 「はい、豊若さんというコンサルタントが来られて、八島主任と一緒にすでに対処を始められています」

佐藤 「豊若だと!? 何者だ。そいつは」

名間瀬 「詳しくは分かりませんが、お話から察するに、情報セキュリティの分かるコンサルタントのようです」

佐藤 「誰の差し金だ……」

名間瀬 「西田副社長の依頼だそうです」

佐藤 「何! 西田……副社長の依頼!?」

名間瀬 「はい。それより私がここに伺ったのは、私の使っていたプロジェクト管理ソフトが怪しいといわれたからなんです。佐藤専務に薦めていただいたあのソフトです」

 佐藤は、豊若というコンサルタントの登場によって策略が失敗したこと、すでに証拠を握られつつあることを素早く判断し、冷静に発言した。

佐藤 「何のことだ? プロジェクト管理を勧めたことはあるが、それ以上は知らないぞ」

名間瀬 「そんな!? 特別無料枠の話をしてくれたじゃありませんか!!」

佐藤 「そんな話は知らないといっているだろう。それより、こんなところにいつまでもいていいのか? 今回のセキュリティ問題の当事者として、君には責任を取ってもらうからな」

名間瀬 「えぇー!! そんなぁ……。佐藤専務。助けてください!」

 坂口には断片的な会話しか聞こえてこなかったが、どうやら佐藤専務が絡んでいるらしいことは分かった。坂口は名間瀬の懇願する声を後にして、IT企画推進室へと戻ると豊若に内容を報告した。その後、営業部の支援を引き続き行うために、松嶋のいる営業部分室へ戻った。

 豊若と八島の適切な処理と、松嶋が用意した危機管理用顧客対応マニュアルによる営業の迅速な対応で、騒ぎはそう時間もかからずに収束した。最終的な調査の結果、不審なメールは名間瀬室長のケース以外は見つからなかった。

 坂口は、営業部で松嶋の危機管理用顧客対応マニュアルによる処理を済ませ、一段落したところだった。そして、松嶋が坂口に声を掛けた。

松嶋 「坂口くん、一段落ついたね」

坂口 「松嶋さんのおかげです。このマニュアル素晴らしいですね。ありがとうございます!」

松嶋 「それはそうと、これから食事でもどう?」

坂口 「光栄です。ぜひお願いします」

松嶋 「それじゃ、30分後に1階玄関のところで待ち合わせでいい?」

坂口 「はい」

 そして松嶋は、坂口と別れると、携帯電話で谷田に電話した。

 1時間後、西新宿のレストランに松嶋と坂口が着いた。そこには、谷田が待っていた。驚きを隠せない坂口を横に、松嶋は急に鳴り出した携帯電話を取った。

松嶋 「うん、分かった。はいはい」

 そういって電話を切ると、松嶋は坂口にささやいた。

松嶋 「坂口くん、ごめんね。まりんが今日はすぐ帰ってきてほしいっていうの。だから、誘っておいて申し訳ないけど、谷田さんと上級シスアドの合格を祝って一緒に食事をしてくれる?」

 坂口は戸惑いながらもうなずいた。こんな機会でもなければ、谷田と会うことはしばらくできなかっただろう。心の準備ができていない坂口は、谷田に言葉を掛けられずにいた。少しの沈黙の後、谷田がきっかけを作った。

谷田 「坂口さん、上級シスアドに合格していたんですね……。おめでとうございます!」

坂口 「ありがとう。連絡遅くなってごめん……」

 2人の空気が落ち着くのを感じると、松嶋は安心した口調でいった。

松嶋 「それじゃ、申し訳ないけど後はよろしくね。それと、まりんがクリスマスパーティをしたいっていっていたから、坂口くんも来てね。もちろん、谷田さんも!」

谷田 「ありがとうございます」

坂口 「はい」

 残された坂口と谷田は、久しぶりの再会で戸惑いながらも、合格祝いの乾杯をしようとワインを注文した。

 豊若は一通りの対応が済むと、西田副社長に報告に向かった。副社長の部屋に入ると待ちかねたように西田が豊若の方に寄ってきた。

西田 「どうやら、騒ぎは収まったようだな」

豊若 「はい、副社長。しかし、これはかなり周到な準備の下で行われた、計画的なものですね」

西田 「どういうことかね」

豊若 「はい、八島主任に調べてもらいましたが、例のメール以外の漏えいは見当たりませんでした。もう少し時間をかけて調べる必要があるかもしれませんが、多分出てこないと思います」

西田 「なぜだね」

豊若 「発信元と思われるソフトが見つかったのですが、そのソフトの所有者は1人しかいません。IT企画推進室の名間瀬室長です。名間瀬室長がどうやらスパイウェアをつかまされたようなのです。八島主任に室長のPCからのアクセス記録を優先的に見てもらいましたが、ほかへのアクセスはありませんでした。どうやら、今回の事件は社内にセキュリティ強化が必要と思わせる雰囲気を作り出すために、意図的に行われたものではないでしょうか」

西田 「そんなことをして誰が得をするんだ?」

豊若 「それは分かりませんが、名間瀬室長がそのソフトのことで佐藤専務のところで何か話されていたようです」

西田 「佐藤専務のところだと? なるほど……。この件は、以後私があずかることにしよう」

豊若 「分かりました。よろしくお願いします」

 翌日、社内の内紛の可能性があることを察知した西田副社長は、名間瀬室長を長期休暇としてプロジェクトから外し、坂口を室長代行とした。

 さらに坂口のサポートとして正式に豊若をプロジェクトメンバーに参加させることを通知した。佐藤専務は自分の関与を完全に否定したうえで、今回の対応に関して西田副社長の指示に一切干渉しなかった。佐藤は曇り空を見ながらつぶやいていた。

佐藤 「豊若か。確か昔グループウェアシステム導入で、余計な口出しをしたやつがいたな。あいつか。どうやらじゃまなやつが、1人増えたようだな。このお礼はきっとするからな……」


◆次回予告◆

 次回、久しぶりの食事の席にもかかわらず、仕事の話しかしない坂口に谷田は軽く失望し、途中で席を立ってしまう。また、偶然谷田が好きな相手が坂口だと知ってしまった伊東は驚愕(きょうがく)するものの、せめて仕事で坂口に追い付くべく、現場での勉強を申し出る。

一方、坂口と谷田の関係が反比例するかのように、プロジェクトは順調に進んでいくのだった……。

「目指せ!シスアドの達人-第2部」の登場人物関係図

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IT企画推進室

室長 名間瀬 勝也(なませ かつや) 46歳


主任 坂口 啓二(さかぐち けいじ) 31歳


社員 伊東 敦史(いとう あつし) 24歳


今回登場メンバー
(注:SD=サンドラフト、SDS=サンドラフトサポート)

SD 副社長 西田 義行(にしだ よしゆき) 59歳


SD 専務取締役兼CIO IT企画部長 佐藤 光一(さとう こういち) 52歳


SD 営業企画部長 天海 有紀(あまみ ゆうき) 39歳


配送センター副センター長 岸谷 小五郎(きしたに こごろう) 42歳


製造部主任 藤木 直哉(ふじき なおや) 34歳


情報システム部主任 八島 秀樹(やしま ひでき) 36歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 豊若 越司(とよわか えつし) 39歳


マキシムアンドコンサルティング シニアコンサルタント 松嶋 七海(まつしま ななみ) 38歳


松嶋七海の娘 松嶋 真鈴(まつしま まりん) 10歳


ホテイドリンク 社長 布袋 泰博(ほてい やすひろ) 45歳


ホテイドリンク システムセンター長 園村 純(そのむら じゅん) 51歳


ホテイビール 社長 布袋 四郎(ほてい しろう) 70歳


筆者プロフィール

シスアド達人倶楽部

「シスアド達人倶楽部」は、経済産業省が実施する情報処理技術者試験の1つ、上級システムアドミニストレータ試験の合格者9名で構成される執筆チーム。本連載「目指せ! シスアドの達人」は、シスアドの日常を知り尽くしたメンバーが、シスアドの働く現場をリアルに描くWeb小説だ。

執筆メンバー9名は、上級システムアドミニストレータ試験合格者と試験合格を目指す人々で構成される任意団体:上級システムアドミニストレータ連絡会(JSDG)の正会員。


森下 裕史(もりした ひろし)

上級システムアドミニストレータ連絡会正会員・ミンツ代表


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