コロコロの誘惑――“私的”トラックボール論(1/2 ページ)

» 2004年09月21日 12時51分 公開
[小寺信良,ITmedia]

 ここのところPC関連デバイスの話では圧倒的にキーボードネタが多い筆者であるが、ほんの数年前まで主たる職業は3DCG制作だった関係で、マウスに対するコダワリもかなりあった。一時は5〜6個のマウスを、仕事の種類と気分に応じてつなぎ代えていたこともある。だが最近は、仕事の主体がモノカキに移ってきた関係で、マウスで微細な仕事をする機会が減ってしまった。

 私事で恐縮だが、2年ほど前にテニスにハマりだしたあたりから、どうもマウスを使う右手首に違和感を覚えるようになった。妙に手首がコキコキと凝って、マウス操作がおっくうになったのである。多少手首の負担を軽くした方がいいかと思い、久しぶりにトラックボールを購入することにした。

 当時購入したのは、ロジクールの「Cordless TrackMan FX」である。まるで未来のシャトルポッドのような、オーガニックなカタチが印象的なモデルだった。これを選んだ理由はいくつかあるが、まず一つは、手を前にぽーんと投げ出した形のままですっぽり手のひらに収まる、その独特のフィット感にあった。

近未来的なフォルムが印象的な「Cordless TrackMan FX」

 試しに何もないテーブルの上に、力を抜いて腕を乗せてみてほしい。手のひらは机に対して平行にならず、少し内側に向いているハズだ。この形の中にすっぽり収まるのである。これならおそらく手首の負担が一番少ないだろうと判断したのだ。

 もう一つの理由は、親指側にもボールが触れるような穴が空いており、ボール全体をつまむようにして回すこともできるところだった。久しぶりのトラックボールなので、微細な動作をするときには四指だけを使って動かすよりも、親指も含めてボールがつかめた方がいいだろう、という判断だった。だがこの考えは、すぐに間違っていたことがわかった。

 なぜならば、そんな微細な動作を行なうときというのは、大抵ドラッグ動作で何らかのオブジェクトをつかんでいる状態がほとんどだったからである。このトラックボールでは、左クリックを親指で行なう。すなわちドラッグ中にボールを親指も添えてつかむことが、機構的に無理だったのである。

衰退するトラックボール

 先ほど「久しぶりのトラックボール」と述べたが、筆者は以前、トラックボールを愛用していたことがある。あれはそう、1990年頃のことだろうか、筆者は音楽用のシーケンサーとして使うために、Macintosh SE/30を買った。

 むろんMacだから当時からマウスも標準で付属していたわけだが、ドラムマシンなど他の楽器を並べていた作業台には、マウスを操作するほどのスペースがなかった。そこでKensingtonのトラックボールを購入したのである。

 当時のモデル名などは記憶にないが、Macのキーボードに合わせたベージュ色で、本体部のカーブもキーボードの凹面に合わせてあって、となりに並べるとサイズなどもピッタリに作られていたものだった。当時光学式センサーなどはなく、ボールの下でローラーが回っていたわけだが、誤動作もなく、非常によくできたデバイスであったと記憶している。

 ただ難点は、手掌基部、というと何のことだかわかるまいが、以前筆者が「ててと」と命名した部分の置き場がなく、本体の手前の角に「ててと」がガッツリ当たって、使い終わったときにはいつもここに1本スジが付いてしまったことだ。今のアームレストという概念が、当時はさほど認知されていなかったのである。

 基本的にMacOSのようなGUIには、ポインティングデバイスは不可欠だ。今はどうなのか知らないが、昔のMacはキーボードはつながなくても起動したが、マウスはつながないと起動しなかったものである。そしてこのトラックボールというポインティングデバイスは、省スペースになることから、初期のノート型Macに積極的に採用されることになる。

 ポインティングデバイスにトラックボールを採用した最初のポータブルPCは、おそらく1989年に発売された「Macintosh Portable」ではないか。キーボードの横に埋め込まれたトラックボールは、キーボードと位置を入れ替えて、左側にも付けることもできた。

 以降歴代のPowerBookを始め、多くのノートPCに搭載された小型トラックボールは、IBMのスティックポイントと人気を二分したポインティングデバイスだった。筆者はどちらのタイプのPCも使っていたことがあるが、スティックポイントにはあまりなじめず、結局外付けのマウスを使っていた。一方でトラックボールは特に不便にも感じずに使っていたことから考えると、やはりポインティングデバイスとしては使い方が容易で、万人受けするものであったのだろう。

 一方デスクトップでは、シャープのX68000がマウスとトラックボール両方で使えるという、摩訶(まか)不思議なポインティングデバイスを標準装備していた。残念ながら筆者は触ったことがないが、「トラックボールはマウスをひっくり返したようなもの」という説明を具現化したものであったのかもしれない。

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