ちまたではロンドンオリンピックの話題で持ちきりだ。金メダル確実と期待された選手が緒戦敗退したり、メダルが生まれるとは思わなかった競技でメダル獲得のニュースが入ってきたりしているのを見ると、”4年に1度しか開催されないオリンピック”という場が、いまだ特別なものであることを再認識させられる。さて、そのロンドンを3週間前に訪問していた。ウィンブルドン取材のためだったが、そこでBBCに興味深いことを伺った。
BBCはNHKと共同で8K4Kのスーパーハイビジョン・パブリックビューイングを実施しており、日本では3カ所で楽しむことができる。超大画面でも観客ひとりひとりの顔が認識できる、圧倒的な情報量のスーパーハイビジョンは、確かに見る者を圧倒する。
もっとも、NHKは2020年の実現を目標に据えているが、実験放送はともかく、”実用化”といえる段階まで持っていくのは現実的ではないとの声もある。BBCでは将来像としてスーパーハイビジョンを見据えつつ、その間には3Dもあれば、4K2Kもあるだろうとのスタンスだ。ちなみにNHKは2030年を3D放送実用化のターゲットとしている(ただし実現の方式は今のものと異なるようだ)。
こうしたNHKとBBCのスポーツ放送、特にこれまで放送技術の節目となってきたオリンピック放送へのスタンスの違いを調べていると、なかなか興味深いことが分かってきた。以前、ウィンブルドンやロンドンオリンピックを3D生中継しない主要先進国は、実のところ日本ぐらいなものだと書いた(→関連記事)。では、なぜそんなことになっているのだろう?
ロンドンオリンピックに限らず、オリンピック中継はOBS(Olympic Broadcasting Service)が国際映像を作り、これを放映権を持つ各局に配信している。今回のオリンピックにおける放送技術のテーマは、3Dとインターネット向け映像フィードだ。OBSは3D映像を各局に配信するほか、インターネット向け映像フィードを行うことも許可している。
このうち、インターネット向けの映像フィードに関しては、日本でもNHKが主に放送でカバーしていない試合や競技をネットで無料配信しているほか、ピア・ツー・ピアでの高品位映像配信実験をWindows PC向けに行っているので、ご覧になった方も少なくないだろう。
実はこのインターネット配信の裏話も興味深いのだが、今回は3D配信について。日本でOBSが提供する3D映像を見るチャンスは、東京・有明と大阪・京橋にあるパナソニックセンターでの速報ダイジェスト版パブリックビューイングと、9月になってBS民放各局で放送される3D総集編しかチャンスがない。NHKがこれまで行っていた独自の3D撮影も、今回はスーパーハイビジョン用カメラに置き換わっているため収録されておらず、定番となっていたNHKスタジオパークでの3D上映もなくなった。
OBSが3D中継を配信し始めたのは、ミドルクラス以下のテレビの多くが3Dテレビ機能を有するようになってきたからだ。とくに欧州では3D映画をきっかけに映画館での3Dプロジェクター導入が進み、そこで音楽コンサートやオペラ、バレエなどの演劇、それにスポーツ中継を生中継して楽しむビジネスも立ち上がり始めるなどの環境が整いはじめている。サムスンなどは、ほとんどの新製品テレビが3D対応だ。
4年に1度しかないオリンピックの場合、将来に向けての実験的な取り組みも先行して行われる。3D中継に関しては、今回本格的にOBSが導入したのだが、そこには将来に向けた実証実験・ノウハウ収集といった意味合いもある。このため、OBSは3D映像配信に関して追加の放映権料を放送局には請求していない。
日本以外のほとんどの主要先進国(衛星放送も含めると先進国と言わず、新興国含むかなり広域でサービスが提供されている)で3D生中継が受信できるというのは、実は極端な言い方ではない。実際、無償での3D映像配信を断っているのは、日本とカナダぐらいだという。
日本の場合、NHKと民放キー局が共同でジャパン・コンソーシアムを組織し、OBSから放映権料を購入して放送を行っている。放映権料の負担はNHKが7割、残り3割を民放キー5局で負担する。とはいえ、無料なのだからBSでもCSでも、地上波以外なら放送できるんじゃないか? と思う人もいるだろう。
NHKは、民放が3D映像の配信を受けて放送するならば、それに干渉することはない、というスタンスを示している。しかし、一方で3Dを2Dの枠組みとは別に放送するならば、放映権料の負担割合については見直す必要があるとの意見も持っているという。
このあたりが、ロンドンオリンピックの3D映像配信権に追加料金が不要なのに、日本では3D生中継が行われない直接的な理由のようだが、さらに突っ込んで取材をしてみると、いろいろと複雑な面も見えてきた(続く)。
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