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» 2015年06月10日 17時38分 公開

魅惑のバランス駆動:DSD再生の強化にバランス対応――ティアック「UD-503」の進化に迫る! (4/4)

[山本敦,ITmedia]
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音楽の躍動感を伝えるエネルギッシュなバランス出力のサウンド

 続いてヘッドフォンのケーブルを交換して、バランス駆動できる環境で試聴した。ディスプレイに「BALANCED」の表示が出るまでリモコンの「HEADPHONE」ボタンを押し込む。

MDR-Z7に付属するバランスケーブルに付け替えて、3極ステレオ標準プラグへの変換アダプターを付けてUD-503によるバランス駆動ができる環境をセットアップする

 ジェーン・モンハイトのボーカルは、声の立体感が一段と鮮やかさを極める。輪郭の情報量が増え、瑞々しい声の張り具合のあたりにアンバランス接続との音の違いが表れる。ピアノやパーカッションの音色に精悍さが加わり、拍の頭がより正確に揃いはじめた。S/Nが良くなって、音場は高さ方向、あるいは奥行き方向に空間表現が高まる。それが最も分かりやすく伝わってきたソースはピアノコンチェルト。ホールのサイズが数段大きくなったように感じられた。音像の定位がよりいっそう安定して、楽器の音もますます躍動しはじめる。ピアノのダイナミックレンジが広がり、演奏者が音に込めた感情までもが伝わってくるようだ。弦楽器のハーモニーは解れがよく、弦が振動する様子も克明に描く。特にコントラバスの低域が激しくうねりを上げる迫力に息をのんだ。

 ジャズギターのセッションは、スチール弦の硬質な響きの質感までもが見えてきた。アンバランス接続のリスニングでも体験できたきめ細かな高域の階調表現はそのままに、全体が煌びやかな雰囲気に包まれる。ベースラインの音像がふくよかで、空気の押し出し感も力強い。特に生楽器の音はプレーヤーの熱気までも伝えてくるようだ。パーカッションの乾いた音色は定位感が鮮明で、空間を立体的に描き出すために重要な役割を担っている。

 マイケル・ジャクソンの楽曲では低域の付帯音がさらに取り除かれ、リズムの切れ味が鋭さを増す。ドラムスの低域は打ち込みがタイトで、エネルギーの押し出しに無駄がない。ボーカリストとバンドの楽器との位置関係が明瞭になって、広大なステージを描き出す。ギターのカッティングはビビッドでキラキラとした鳴りっぷり。ダフト・パンクもやはり透明な空気にすうっと溶けていく低域の清涼感が心地良い。曲を構成する楽器の音色がベストな位置関係のバランスを保ちながら縦横無尽にサウンドスケープを広げていく。

 DSD再生もバランス接続に変えて違いが表れた。ボーカルの声はさらに雑味が消えて、輪郭のフォーカスがビシッと定まってくる。口元のわずかな動きまで鮮明に捉える。ピアノのサスティーンは柔らかさを増して、柔らかく暖かみのある余韻が耳に心地良く残る。ウッドベースの低域も深々と響き、余韻の透明度が一段と磨かれた。

クールで精悍なアクティブ・グランド出力のサウンド

 最後にヘッドフォンをバランス接続にしたまま、リモコンの「HEADPHONE」ボタンを押して、ディスプレイの表示を「ACTIVE GND」に切り替える。

通常のバランス出力に加えて、アクティブ・グランド出力に対応。それぞれの音の違いを聴き比べることができるのも面白い

 ジェーン・モンハイトの楽曲が始まったとたんに、空気がパリッと張り詰めたような感覚をおぼえた。ボーカルは輪郭のシャープネスが上がって、ミッドレンジの重心が一段と下がる。通常のバランス出力では女性らしいふくよかで暖かみあふれるボーカルを味わったが、アクティブ・グランド出力のサウンドでは、クールでキリッとしたボーカリストの別の素顔に触れることができた。ボーカル系の楽曲は歌い手の声のキャラクターに合わせてモードを切り替えながら楽しめそうだ。アコースティックピアノの音も硬質感が増して、奥行き方向に音の伸びがわずかに深まる。ビル・エヴァンスの硬質なピアノの音色にとてもよくマッチした。今回のヘッドフォンとの組み合わせでは、2つのモードの違いは低域よりも高域の変化の幅に濃く表れるように感じた。

「ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 アレクシス・ワイセンベルク/ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリンフィル」

 ピアノコンチェルトでは弦楽器の音像がさらに前へと出てくる。ピアニッシモの旋律もくっきりと見えるようになるほど、全体のフォーカスが上がったような感触を得た。小沼ようすけのギターもバネの力強さが加わり、高域のサスティーンに粘り気が出てくるが、余韻は極めて涼し気で、ふわっと空気に溶け込む。奥行き方向に音場が深まる。空気がどことなくひんやりとしてくるような、不思議な聴感だ。

 マイケル・ジャクソンの楽曲は音のレスポンスが俊敏さを増してきた。細かな音まで曖昧な部分が全てそぎ落とされたようだ。ビートに緊張感がみなぎる。普段は優しげに歌うボーカルも、より引き締まった精悍な表情を垣間見せるようになる。熱くエネルギッシュなバランス出力のサウンドとの描き分けが面白い。

 アクティブ・グランドにモードを変えて、一番はまったのがダフト・パンクの楽曲だった。低域のコントロールが極めて精緻で、MDR-Z7のキャラクターを存分に引き出した。低域は量感をしっかりと出しながら正確にドライブする。広い音場感、整った帯域のバランスと明瞭なセパレーション。プログラミングによる細かなサウンドまで、一粒ずつ存在感が立っている。

 DSDの音源を聴いても情報の密度感が向上して、ディティールが鮮明に浮かび上がってくる感触だ。クールで緻密なアクティブ・グランド出力の音に対して、自然な音楽の暖かみに引き込まれる通常のバランス出力、それぞれに異なるキャラクターをリモコンのボタン1つで即座に切り替て聴き比べられる楽しさに、時間の経過を忘れるほど没頭してしまった。

 銘機UD-501からまた着実なステップアップを遂げたことを感じさせる出色の出来映えだ。UD-501を世に送り出して以後、ティアックのエンジニアは次のステップアップの目標を明確に定めながら、目指す頂を着実に踏破した。A4サイズのコンパクトな筐体にはHi-Fiのエソテリック、プロフェッショナルオーディオのタスカムがそれぞれに築き上げてきたオーディオの資産が惜しみなく継承されている。PCオーディオやポータブルプレーヤーとの連携、あるいはヘッドフォンからスピーカーリスニングへの発展性も含めて、音楽再生の魅力を存分に味わい尽くせるコンポーネントが誕生した。

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