“実測100Mbps以上”で世界観が変わる――UQ野坂社長に聞く「WiMAX 2」の展望(2/2 ページ)
UQコミュニケーションズが2013年の商用化を目指して開発中のWiMAXの次世代規格「WiMAX 2」は、20MHzで下り最大165Mbpsもの速度を実現する。同社はどんなロードマップでWiMAX 2を実現していくのか。端末、料金、インフラを中心に聞いた。
WiMAX 2の対応端末はルーターから
―― WiMAX 2対応端末のチップセット(米GCT製)はUSBタイプが2つ、フルミニカードが1つありますが、いずれも仕様は同じものなのでしょうか。
野坂氏 サイズが違うだけで仕様は同じです。すでにエンジニアリングサンプルが出来上がってきていて、2012年の量産に向けて開発を進めています。
―― やはりコストは上がるのでしょうか。
野坂氏 いくぶんか上がる要素は強いでしょう。先日韓国に行ってGCTと打ち合わせをしてきましたが、WiMAXと同じかそれ以下にしてくれるよう頼んではいます。
―― マルチデバイスをうたっているので、さまざまな機器がWiMAX 2に対応することも期待されます。
野坂氏 “大きい製品”から対応するのがいいと思っています。まずはルーターからになるかと。大きなバッテリーを積むなど、今のルーターよりはサイズが大きくなるでしょう。
―― WiMAX 2で消費電力がどれだけ上がるのかも気になります。
要海氏 データレートが上がるので、プロセッシングに使うパワーは当然増えます。それを補うためにプロセスを遅くする必要があります。バッテリーを持続させるためのスリープモードやアイドルモードをさらに高度化すれば、省電力の効果が見えてくるのではないでしょうか。
―― 高度化とは具体的にどうするのでしょうか。
要海氏 例えばスリープモードの場合、Webブラウジングでページを閲覧しているときはモジュールを動かしていても仕方ないので止め、データを送受信するときだけ動かすという具合です。このオンとオフを短時間で行います。アイドルモードは、例えばPCをデスクに置いて1分以上使わなければ、より深いところで動作を止めてバッテリーの消費を抑えるような感じで、これをもっと高度化して頻繁にできるようにしたいです。例えば、現在のWiMAXでは起動していたところを(WiMAX 2では)オフにする、何段階か低減の深さを作る、ハーフオフにする、というイメージです。
「公称何Mbps」では意味がない
―― 料金体系についてもおうかがいします。今後はデバイス別の従量課金も検討されるとのことですが、具体的にどう変わるのでしょうか。
野坂氏 100Mbpsのサービスをいっせいに使うと、電波が足りなくなってしまう恐れがありますし、1人が大量のデータを使いっぱなしだと公平ではありません。ある一定までは定額で、例えばハイビジョンカメラで動画をアップロードするといくら、DVDレコーダーで映画1本をダウンロードするといくらというような従量課金制を考えています。高速を享受してほしいけれど「電波の利用は効率的に」というのを訴えていきたいですね。
―― WiMAX 2になると、やはり上限は上がるのでしょうか。
野坂氏 まあそこは……直感的には数千円上がるような気はしますが、まだ勝手なことは言えないので(笑)。
―― 2012年度にデータがオーバーフローする恐れがあるということですが、大量の通信をするユーザーに対して通信制限を行う考えはありますか?
野坂氏 「今のところ考えていません」と言い切っています。WiMAX 2の電波がもらえなかったら、いずれそういうことをせざるを得ないかもしれませんが、やはり私たちの正論は「ちゃんと技術を出すので、ユーザーに負担をかけない」と言いたい。期待されているのはそこだと思いますから。(通信制限をすると)速くて安くて便利だというWiMAXの利点を損なってしまうので、(制限なしは)ある種のポリシーにしたいです。
―― WiMAX 2のエリアカバー率はどのくらいを目指していますか?
野坂氏 エリアはこれから詰めていくところですが、当面は東名阪などの大都市圏に限られてくるでしょう。東京都もすべてカバーするわけではありません。トラフィックを吐かせないといけない場所から展開していきます。WiMAX 2に対してはカバー率という感覚はないですね。(WiMAX)の1から2に変わっていくという言い方も少し違います。1と2を合わせて「1/2」のシステムに変えていく感覚です。
―― ドコモの「Xi」をはじめ、携帯各社も高速なモバイルブロードバンドに力を入れていますが、あらためて、WiMAXの優位性を教えてください。
野坂氏 他社さんのデータ通信もこれから速度が上がっていくところだと思いますが、「公称何Mbps」では意味がないんです。実測値を比べると、WiMAXの方が十数Mbps速い。我々は2年進んでいるという言い方をしていますが、WiMAX 2は実測で100Mbps以上出るのがポイントです。ドコモのXiが実測で75Mbps出すのは当分ないのではと思います。WiMAX 2はこれまで広げてきたWiMAXの上に展開するので、極めて現実的でしょう。
震災の津波に遭っても基地局が破損せず
―― 東日本大震災で通信各社は大きな損害を被りましたが、UQ WiMAXの被害はどの程度だったのでしょうか。
野坂氏 東北には1万5000局中2000局があり、ほぼすべてが影響を受けましたが、障害局は1週間ほどで40局に減りました。多賀城の基地局は津波の被害に遭いましたが、水が引いてからは再び電波を吹いていて……「奇跡的だ」と言われましたね。
―― 津波に遭って破損しなかったのはすごいですね。
要海氏 WiMAXの基地局装置は1人で持てるくらいに小型化しており、20キロほどしかありません。防水性能もありますし、完全に壊れた装置はほとんどありません。(津波に遭っても破損しなかったことを)メーカーに話したら、「保証できる話ではないので実験しましょう」となり、装置をプールに1時間ほど浸けて試験したら、ちゃんと動きました。
―― 基地局装置はいわゆる「IPX」の取得は……。
要海氏 してないです。台風などの雨水には耐えられるよう、通気口を作って空気を通して水分は通さないようにはしていますが、まさか津波で飲まれて圧力がかかっても持つとは思いませんでした。建物が壊れて破損したのは3局ほど。流されしまった局も1局ありましたが、拾ってくれば装置は動くのではと信じています。
野坂氏 単純に装置の体積が小さいので、圧力がかかりにくいというのもあったんでしょうね。UQでは震災による損害はほとんどありませんでした。
要海氏 それは私も感動しました。海外から、「何でWiMAXがそんなに強いのか?」「WiMAXの装置が地震に強い理由を教えてほしい」といった問い合わせがずいぶんありました。
WORLD WiMAXの対応端末拡大も「時間の問題」
―― WiMAX搭載PCを海外でそのまま利用できる「WORLD WiMAX」も魅力的なサービスです。
要海氏 私も出張で使うことがありますが、海外でそのままWiMAXを使えると本当に感動します。Wi-Fiスポットは限られた場所でしか使えないですから。
―― 現在、WORLD WiMAXに対応しているのはインテルの通信モジュールを搭載したPCだけです。ルーターやWiMAX搭載スマートフォンもローミングできればいいのですが。やはり専用のチップセットを搭載しないと難しいのでしょうか。
野坂氏 というよりは仕組みの問題です。方法は分かっていて今話を進めているところなので、時間の問題でしょう。
―― 今後はどのあたりのエリアを拡大していくのでしょうか。
野坂氏 台湾やマレーシアなど、アジア圏を中心に拡大していきたいですね。
―― 田中前社長が「ノンPCの時代が作れる」とコメントしていたこともありますが、WiMAX 2が実現すれば、まさにそれが現実のものになりそうです。
野坂氏 世界観が全然違ってきますよね。電波の利権争いという感覚ではないと思っています。とは言ってもWiMAX 2の実現は総務省あってのことなので、皆さんの声援をもらって、総務省にも理解いただきたいと思います。今の日本はシュリンクしがちですが、面白い技術もあるし、アジア各国も注目しているので、みんなで育てていけないかと。そういう応援歌をいただけるとうれしいですね。
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