スマートフォン5000万台に耐えうるネットワークを――ドコモが対策を説明
昨年から発生したspモード障害とパケット交換機障害を受けて、ドコモがその対策について説明した。同社は“スマートフォン5000万台にも耐えうる”ネットワーク基盤の高度化を目指す。
NTTドコモが1月27日、2011年8月からたびたび発生したネットワーク障害への対策についての記者会見を開催。同社代表取締役社長の山田隆持氏、代表取締役副社長の辻村清行氏、取締役常務執行役員の加藤薫氏、取締役常務執行役員の岩崎文夫氏が詳細を説明した。山田氏は会見の冒頭で「一連のネットワーク障害が発生し、お客様に多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げる」と謝罪した。
通信障害を受けて約500億円を追加投資
一連の通信障害は、「spモード障害」と「パケット交換機障害」に大別される。前者のspモード障害については、まず2011年8月16日に、spモード経由でのインターネット接続がしにくくなる事象が起きた(影響ユーザー数は約110万人)。続いて12月20日には、spモードメールで他ユーザーのメールアドレスが誤って設定される不具合が発生し、通信の秘密が破られ、個人情報漏えいという事態を招いた(影響ユーザー数は約2万人)。年明けの1月1日にはspモードメールが利用しにくい障害が起きたことに加え、メールが届かなかった旨を伝える不達メッセージが届かない場合もあった(影響ユーザー数は前者が約260万人、後者が約20万人)。いずれの通信障害も、「MAPS(Multi Access Platform System)」と呼ばれるspモードシステム上で起きたもの。8月16日の障害はその中の「ネットワーク認証サーバ」の輻輳、12月20日の障害は「ユーザー管理サーバ」の輻輳、1月1日の障害はメールの送受信を司る「メール情報サーバ」の故障、輻輳によって起きた。
そして1月25日に発生した、東京都の一部地域でFOMAの音声通話とパケット通信が利用しにくい事象は、パケット交換機障害によるもの。ドコモはスマートフォンの急増に対応するため、1月24日に現行パケット交換機(7台)から新型パケット交換機(3台)に切り替えた。新型では同時接続数を高めた一方で、(端末と通信設備との間でやりとする)制御信号の処理能力を必要以上に下げてしまったため輻輳が生じ、通信しにくい状態となった。「スマートフォンはある意味でPCに近い。PCは有線だが、無線は周波数を有効利用するため、こまめに切り、必要に応じて制御信号を流さないといけない。インターネットのアプリを適用するという意味では相当環境が違う」(辻村氏)
ドコモは12月20日のspモード障害を受け、山田氏を本部長とする「ネットワーク基盤高度化対策本部」を12月25日に設置した。一連の障害に対する当面の対策費として、2011~2012年度に40億円を投資する。さらに、スマートフォンが5000万台普及しても十分なネットワーク基盤を構築すべく、MAPSには2011~2014年度に400億円、パケット交換機には2011~2014年に1200億円投資する。ドコモは2015年度までに4000万のスマートフォン契約を目標にしているが、「1年後の状況を見て設備を作っている」(山田氏)ので、ネットワーク構築においては1000万ほど余裕を持たせた格好だ。
なお、パケット交換機の1200億円の投資のうち、約900億円がもともと見込んでいた額で、約300億円が今回の障害を受けた追加分。うち3分の2ほどがXi、残り3分の1ほどが3G回線への投資となる。1月25日の障害はXi端末では起こらなかったが、「3GよりはXi(の交換機)の方が信号の処理能力は大きいと認識している」(山田氏)とのこと。spモード障害については、400億のうち約150億円が新たな投資額。これに先述した当面の対策費40億円とパケット交換機の約300億円をプラスした、計500億円ほどが追加投資となる。投資額がさらに増える可能性については、「今の予測はこれでかなり行けると思う。増えたとしてもあと10~20%で行けるのでは」と山田氏はみる。
spモード障害とパケット交換機障害の対策
では、具体的にどのような対策を講じるのか。spモードメール障害については、2月20日までに接続シーケンスを変更し、電話番号とIPアドレスのアンマッチ(不符合)が発生しないようにする。パケット交換機から端末へのIPアドレス通知を、spモードシステムでのIPアドレス登録完了後に実施する(完全な同期方式にする)ことで、IPアドレスのアンマッチが発生しなくなるという。あわせて、バーストトラフィック対策も行う。伝送路の故障によってパケット交換機とspモードシステムの接続ルートが切断されると、Android端末は一斉に再接続しようとする。この再接続処理を、通信中の端末のみに行うよう4月下旬までに変更する。通信していない端末については、28分の間にランダムで再接続するようになるほか、「お客様が通信をすると再接続するので、お客様に迷惑はかからない」(山田氏)。1月1日の障害については、信頼性と保守性の高い新規メールサーバに2月20日までに切り替えることで対応する。
スマートフォン5000万台に耐えうるMAPSのスケーラビリティ(拡張性)向上も目指す。「当初はスマートフォン5000万台という数字は考えていなかった。まず基礎をしっかり作り、通信処理などを再点検する。スケーラビリティを上げ、スマートフォンの台数が増えるに従って設備を増やしていく」と山田氏は説明した。
パケット交換機障害の対策については、2月中旬までに交換機に信号量を測定する機能を新たに備えるほか、全国約200ユニットの交換機の処理能力を一斉点検する。8月中旬までには制御信号の処理能力を向上させる。交換機は当面は旧型と新型を並列で運用し、十分な設備容量を確保する。2014年度末までには、スマートフォン5000万台に耐えうる交換機を増設する予定だ。
アプリ開発者やGoogleとも連携して制御信号を抑える
1月25日の障害は、VoIPアプリなど、制御信号量の多い一部のスマートフォン(Android)向けアプリが主要因とされており、アプリの信号を抑えることも解決策の1つと言える。辻村氏は「アプリプロバイダーに、信号を不用意に流すことを控えてほしいというお願いをしたい。ドコモだけができることではないので、世界の主要なオペレーターと連携し、無線環境に適したアプリを開発するというメッセージを出していきたい」と話した。あわせて、Android OSを提供するGoogleとの連携も進め、「すでにOS開発者とは話を始めている。アプリの制御信号を抑える、複数のアプリでまとめて信号を出すなど、OS側で何ができるかを検討している」(辻村氏)とのこと。なお、VoIPアプリの使用を制限するといった措置は、「お客様のサービスへの要望や、技術の進歩は止められないので、その方向にはならないと考えている」(山田氏)とした。
1月25日には8時26分ごろから通信障害が発生したが、ドコモのWebサイトに情報が掲載されたのは11時30分のことで、告知までに3時間ほどかかった。今後も同様の障害が発生した場合、Webサイト、サポート窓口(ドコモショップ、インフォメーションセンター、法人部門など)、関係機関(総務省や報道機関など)に、障害発生から30分ほどで情報を提供するよう努める。
一連のネットワーク障害と、通信の秘密と個人情報漏えいの責任を明確にすべく、山田氏の月額報酬を20%×3カ月、辻村氏、代表取締役副社長の鈴木正俊氏、代表取締役副社長の松井浩氏、岩崎氏、執行役員の澤田寛氏の月額報酬を10%×3カ月間返上する。
「早い段階で予知をして全力を上げたいと思う。Plan、Do、Check、Actionを徹底し、技術者の動向を把握する仕組みも作りたい。全力で信頼回復に取り組んでいきたい」と山田氏は力を込めた。
1月25日夜の“不具合”の詳細は調査中
1月25日夜に、ドコモが都内で(ユーザーの位置登録を司る)加入者交換機のソフトウェア入れ替え工事を実施した際に、同ソフトウェアに不具合が確認されたことも説明した。岩崎氏によると、事前チェックで20時過ぎにエラーメッセージが出たが、サービスへの影響が考えられたため、プログラムを修正したという。不具合は23時ごろに解消したが、その間に「確率的には少ないが、都内で区切った3エリアの境目を移動した際に、圏外表示になった場合がある」という。影響を受けた詳細な時間や人数、この事象が通信障害に該当するのかは現在も調査中とのこと。「パケット交換機とは別の装置を使っているため、25日午前に発生した通信障害とは無関係。そう多くのお客様にご迷惑をおかけしたとは考えていない」と岩崎氏は説明した。
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