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» 2006年08月07日 23時19分 公開

ケータイインターネット開放へ向けた取り組み──韓国「網開放」の今韓国携帯事情

韓国の携帯電話のインターネット接続機能は、基本的に「閉じた世界」で、キャリアによるサービスが中心だ。これを一般のCPにも開放すべく、政府主導の取り組みが行われている。

[佐々木朋美,ITmedia]

 最近、韓国では「網開放」という言葉をよく耳にするようになった。これは携帯電話でのインターネット接続に関する制限をなくし、もっと自由に使えるようにしようというネットワーク開放政策を指す。全面的な網開放はまだ先の見通しだが、それでも今から網開放時代に合わせたWebサイトを開設する企業も増えてきた。網開放の今を取材した。

韓国の「網開放」とは

 韓国の携帯電話には、インターネット接続用のボタンがあり、それを押すと、SK Telecom(以下、SKT)は「NATE」、KTFは「magic n」、LG Telecom(以下、LGT)は「ez-i」といったキャリアが独自に行うインターネットサービスに接続する。

 一般的なインターネット接続サービスのように、ブラウザでURLを入力すれば好きなWebサイトが閲覧できるという状態にはなっていない。また、最初に表示されたポータルサイトのメニューからたどって行けるところは、基本的にキャリアによるサービスだけとなっている。

Photo 例えばポータルサイト「Paran」のWINCは「8080」だ。これを入力後、インターネット接続ボタン(写真の場合は「NATE OK」ボタン)を押せば、ParanのWebサイトが表示される

 キャリアが用意しているサービスとは別に、「Naver」や「Yahoo! Korea」のようなポータルサイトもあるが、それらを表示するためには“WINC”(Wireless Internet Number for Contents)と呼ばれる、サイトにあらかじめ割り振られた数字の組み合わせを入力するのが一般的な手段となっている。

 しかしWINCは、WINCを発行している機関に番号を割り当ててもらう必要があったり、インターネット接続ボタンを押す前に番号を入力する必要があったりするため、キャリアのインターネットサービスと比べて不利な部分がある。韓国政府は、これではコンテンツプロバイダー(CP)がモバイルインターネット事業に進出しにくく、良いコンテンツを生み出す環境がなかなかできないこと、またこのままでは韓国のモバイルインターネットが活性化しないことを憂慮し、自らが主体となって網開放を推進している。

 キャリア以外のWebサイトへ直接アクセスできるWINCも、ある意味網開放の一部ではあるが、今後さらに開放が進めば、キャリアに縛られない共通サービスを提供するWebサイトが増えると予想される。またインターネット接続キーを押したたときに表示される“ホームページ”を、キャリアが用意したものではないサイトに設定することも可能になる予定だ。

網開放ビジネスに取り組む韓Onse Telecom

 情報通信部による網開放の議論は昨日今日に起こったのではなく、2001年ころから始まり今に至る。この5年ほどの間に、こうした動向をいち早くキャッチし、網開放に備えて新しいサービスを開発する企業も出てきた。

Photo Onse Telecomのマーケティング本部課長、ヤン・ドギュ氏。「網開放はまだ初期段階。完全に公平な環境になるまでは、長い時間がかかるのではないか」と話す

 韓Onse Telecom(以下Onse)は、2003年から網開放用サイトの準備をしてきた企業の1つ。Onseは市内・国際電話、ブロードバンド、インターネットデータセンター(IDC)などの事業を行っている「基幹通信事業者(電気通信関連の設備を有し、電話やインターネットなどの電気通信サービスを提供できる事業者)」だ。

 同社は2005年6月に“網開放型”モバイルインターネットポータル「So1」を正式オープンした。これはOnseがキャリアのネットワークに接続できるIWF(InterWorking Function:ネットワーク連動機能)契約を結び、独自にコンテンツを提供できるようにしたもので、キャリアを問わず同一のサービスを提供できるのが最大の特徴だ。

 So1の具体的なサービス内容は、コミュニティの提供やニュース、ゲーム・着信メロディの配信なのどオーソドックスなものから、「So1ファイル転送」のようなユニークなサービスまで幅広い。So1ファイル転送は、携帯電話からSo1に接続することにより、PCにあるファイルをコピー/削除したり、ほかの人へメールで送ったりといった遠隔操作が可能なサービスだ。1カ月の利用料は1万5000ウォン(約1790円)となっている。

 また最近では10代の若者にしか聴こえないという、7000MHz帯の音を利用した着信メロディ“ティンベル”(Teenage-Bell)を配信したことでも大きな注目を集めた。

 キャリアを選ばず使えるということは、それだけ多くの会員を獲得できることにつながる。その点が収益モデルに直結しているのだろうか。Onseのマーケティング本部課長、ヤン・ドギュ氏は「確かにそれもあり、約25万人の会員を活用したマーケティング事業も進めています。ただしOnseが基幹通信事業者である点にも、収益のポイントがあります」と話す。

 基幹通信事業者はモバイルサービスにおいて、ユーザーに直接課金ができるという利点がある。逆にこれ以外の事業者がモバイルコンテンツを提供する際は、課金プラットフォームを構築・提供する会社などと契約したうえでサービスを行う必要がある。そのためOnseは課金プラットフォームを貸与するビジネスも行おうとしている。

 また同社は今年6月にWINC発行の代行サービスを開始しているが、この付加サービスとしてASPサービスなどを行うことで、多くのビジネスパートナーを確保しようとしている。

 こうしたビジネスを展開するOnseの長期的な目標は、MVNO(仮想移動体通信事業者)事業だという。それには「豊富な加入者と強力なプラットフォームが必要」(ヤン氏)ということで、優れたCPやコンテンツ、ビジネスパートナーの発掘に力を注いでいる。

Photo PC版のSo1。ここでも着信メロディなどのコンテンツをダウンロードできる。現在、会員数は約25万人で、モバイル版は1日あたり2万5000人程度の訪問者数があるという

まだまだ課題の多い網開放

 So1の構築に際して苦労した点をヤン氏は「当初は技術的なことよりも、キャリア3社との調整が大変でした」と振り返る。会員確保のために自社のサービスを優先したいキャリアが、So1の登場により会員が流出しないか憂慮したからだという。

 時勢は少しずつ網開放へ向かっているものの、それでもキャリア以外の事業者が携帯向けのインターネットサービスを行うにあたって直面する壁がまだ残っている。その1つが収益モデルだ。

 「現在So1の収益はコンテンツ料金のみで、パケット料金に関しては100%キャリアの収益となっています。我々はこのコンテンツ料金を、さらにコンテンツを作ったCPと分配するので、収益率はそれほど良いとはいえません」とヤン氏は話す。「私たちのコンテンツから発生したパケット料金に関しても、キャリアと分配できればいいのですが、現状はそうなっていないのです」

 またSo1はキャリアからプラットフォームを借りて運営する「mASP」(mobile Application Service Provider)形態でサービスを行っているため「プラットフォーム利用料なども負担になっている」(ヤン氏)という。

 さらに同氏は「(キャリアは)パケット料金の引き下げを行うべき」とも話し、パケット料金に対して韓国ユーザーは「負担感が大きい」とヤン氏は分析した。携帯で高く遅いインターネットを利用するなら、安くかつ高速な固定回線でインターネットに接続した方がましだと考える向きがあるようだ。

 そして最も大きな障壁なのが、なんといってもインターネット接続キーだ。「まずはこれに対する公平な競争環境が整わなければ」(ヤン氏)、キャリアのWebサイトと対等に戦うことは難しいという。

 こうしたOnseの悩みは、網開放によるモバイルインターネット事業に進出している、すべてのCPに共通しているものと考えることができるだろう。Onseには基幹通信事業者であるがゆえの利点もあるが、そうでないCPにとっては、網開放による事業進出はリスクも伴うことになりそうだ。そうなると、知名度の高いキャリアを通じてコンテンツを提供するのが手っ取り早いということにもなり、網開放の流れが逆戻りすることになりかねない。

 ブランド力の差は資金でしか埋められないというわけではないが、公平なインターネット環境になってもなお、CPにとっては自社のサービスを普及させるため、さまざまな投資が必要になると思われる。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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