FMCに暗雲?──携帯を固定電話代わりに使える「気分ゾーン」事情韓国携帯事情

» 2006年10月06日 23時59分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 携帯電話を自宅の固定電話のように利用できる韓LG Telecom(以下、LGT)のサービス「気分ゾーン」が人気だ。固定電話よりも割安に利用でき、ひとたび外に持ち出せば携帯電話として利用できるとのふれこみで話題となり、多くの加入者を獲得しているが、競合相手となる固定電話業者は内心穏やかではない。

固定電話をしのぐ料金の安さを強力にアピール

 LGTの「気分ゾーン」サービス(6月9日の記事参照)は、Bluetoothのベースステーションを利用することで、手持ちの携帯電話を家庭内では固定電話として利用できるサービスだ。「固定電話よりも安く利用できる」というふれこみで、一躍LGTの人気サービスとなったが、韓KTを始めとした固定電話会社がこのサービスに反対の姿勢を示したため、その後の動きに注目が集まっている。

 争点となっているのは気分ゾーンの通話料だ。通常、携帯電話で固定電話と通話した場合の料金は18ウォン(約2.2円)/10秒となっている。これが気分ゾーンの場合、Bluetoothの電波が届く範囲(気分ゾーン)内であれば市内・市外電話が39ウォン(約4.9円)/3分、対携帯電話の場合は14.5ウォン(約1.8円)/10秒となる。一方KTでは市内通話が39ウォン/3分であり、市外電話と対携帯電話の通話は14.5ウォン/10秒となる。

 結果、気分ゾーンを利用して市内外へ電話した場合、39ウォン/3分、携帯電話の場合は261ウォン(約32.5円)/3分となるが、KTの場合は市内通話のみが39ウォン/3分となり、市外および携帯電話では261ウォン/3分となるのだ。気分ゾーンを利用すれば、KTと比べて格安で市外電話がかけられる。

 KTなど固定電話事業者にとっては脅威となるものの、ユーザーにとっては好都合なこのサービス。加入者は順調に増え、現在は約7万人ほどが気分ゾーンを利用している。

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気分ゾーンを廃止に追い込みたい固定電話事業者

 KT、韓Hanaro Telecom、韓Onse Telecomなどの固定電話事業者は「携帯電話で固定電話にかける時だけ料金を安くするのは非加入者に対する差別行為で、電気通信事業法に違反する」と訴え、これを是正するよう通信委員会に提訴した。つまり気分ゾーン会員のみが安い料金で通話できるということは、そうした恩恵を受けられない非加入者がいるため不公平だ、というのだ。

 通信委員会はこの提訴に対して9月11日、気分ゾーンの改正を命令するという方向で結論を下した。同委員会では、とくに携帯電話から固定電話への通話料が過度に安く設定されているため、非加入者が気分ゾーンの損失分を補填しなくてはならなくなることが憂慮されると説明している。

 これを踏まえて通信委員会は、LGTに対して3つの命令を下した。1つは、気分ゾーン内で携帯電話から固定電話および固定電話から携帯電話へ電話をする際の料金差を再調整すること。2つめは過度な割り引きによる顧客差別を減らすため、気分ゾーン外の地域でも、携帯電話から固定電話への通話料が割り引きになる料金を用意すること。3つめは、利用者が固定電話だと誤認してしまうような、固定電話との料金比較広告など、公正な競争を阻害する行為をやめることだ。

 とくに携帯電話の場合は、本来通話料に市内・市外という区分がないのにも関わらず、気分ゾーン内の通話料を市内・市外で区分することで、利用者に固定電話として誤解される余地がある、と注意を促している。LGTはこの判断に従い、1カ月以内に措置を取らなければならなくなった。

市民団体は気分ゾーンの廃止に反対

 ところが事態はこれで収まらなかった。市民団体の「緑色消費者連帯全国協議会」は、通信委員会の決定に対して「固定と無線の事業者間競争により高められるはずの消費者利益を実質的に低める措置」であり「消費者の恩恵を受ける権利を侵害するもの」と通信委員会の措置に抗議した。同団体はこれを公正取引委員会に提訴する計画だ。

 思いがけないところから反対の声が挙がったことで、いっそう混乱することになった気分ゾーン論議。固定電話事業者は、気分ゾーンのようなシステムが広まれば、固定電話をおびやかすサービスがLGT以外のキャリアからも続々と登場することを不安視しているのかもしれないが、それは「VoIP」論議のように、気分ゾーンでなくとも起こり得ることだ。

Photo 韓Samsungの「SPH-V9000(KTF)/SPH-V9050(LGT)」。Bluetoothに対応しており、LGT用は気分ゾーン、KTF用はOne Phoneに対応している

 例えばSkypeの韓国進出が本格化し、格安の国際電話事業を行えば、固定電話事業者はどうするのかと憂慮する声は、以前から少しずつあがり始めている。実はKTでもBluetoothを利用し、自宅では固定電話、外出先では携帯電話として利用できる「One Phone」というサービスを行っている。またKTのWiBroサービスは音声チャットなどができるソフトウェアを提供する。

 さらに固定電話事業者のHanaro Telecomでは、ブロードバンドと電話を同時に契約した場合、毎日1時間の市内通話と毎月1時間の対携帯電話の通話料が無料となるサービスを提供する。このほかKTの「U2」メッセンジャーでは、登録された仲間と、KTの電話回線を利用しての通話やSMS送信、相手のオンライン/オフライン状態に左右されないファイル転送などが可能だ。

 従来のスタイルや料金に縛られない、無線やブロードバンドと固定電話を連動させたさまざまな形のサービスは、固定電話事業者自らによって開発されてきたものだ。それだけ必要に迫られているということだろう。

 LGTの気分ゾーンだけが特異なサービスではないのかもしれないが、通信委員会の命令で早急な料金の見直しを迫られた以上、LGTが今後どう出るのか、さらにこれに対して固定電話事業者がどう対応するのか注目が集まる。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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