番号ポータビリティ制度導入でどう変わった?──韓国の場合韓国携帯事情

» 2006年10月13日 22時50分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 日本では10月24日から開始される番号ポータビリティ(MNP)だが、韓国では2004年に始まっている。導入から1年半以上が経過した訳だが、番号ポータビリティ制度の導入とその後の各キャリア間の競争は、韓国の携帯市場にどのような影響を与えたのだろうか。韓国の携帯電話事情に詳しい記者にも話を聞きながらお伝えしよう。

数値で見る韓国の番号ポータビリティ

 韓国のMNPは、日本のように3キャリア一斉ではなく、2004年1月から段階的に開始された。現在ではすべての携帯電話キャリアが対象になっている(2005年2月1日の記事参照)。段階的にスタートした理由は、韓国におけるMNPの狙いの1つに、当時圧倒的な市場占有率を誇っていたSK Telecom(以下SKT)の市場独占状況を改善することがあったからだ。

 韓国政府の情報通信部の資料によると、MNP開始直前の2003年12月末時点ではSKTの市場占有率は54.5%。一方第2位のKTFのシェアは31.1%、第3位のLG Telecom(以下LGT)は14.4%だった(ちなみに2006年9月末時点での日本の携帯電話市場では、NTTドコモが55.5%、KDDIグループが28.1%、ソフトバンクが16.3%)。

 MNPが導入された2004年1月から6月までは、SKTから他キャリアへの移動のみが可能という状況だったため、2004年6月末時点ではSKTが51.3%と加入者を減らし、逆にKTFは33%、LGTは15.7%とシェアを伸ばした。

 SKTに加え、KTFから他キャリアへの移動が可能になったのは2004年7月から。そしてLGTから他キャリアへの移動が解禁されたのはさらに半年後の2005年1月のことだ。この結果、2004年12月末時点での市場占有率は、SKTが51.3%と横ばいで、KTFは32.1%に低下、一方LGTは16.6%に上昇した。そして2006年8月末の各社の市場シェアはSKTが50.5%、KTFは32.2%、LGTは17.3%となっている。

 2003年末時点から比べると、SKTが占有率を4%程度減らした反面、LGTが4%程度占有率を上げていることが分かる。これを大きな数値と見るかどうかは人それぞれだ。しかし基本的には市場の約半分を占めるSKTと、30%台を占めるKTF、そして10%台に留まるLGTと、大枠での構造には大差がないようにも見え、MNPの実効性が問われるところである。

Graph 2004年12月末から2006年8月末までの、3キャリアの加入者数と市場占有率の変化
Graph 2004年1月から2006年8月末までの、番号ポータビリティを利用してキャリアを変更した人数

 これに対してインターネットのITニュースサイト「inews24」のチョ・ジヨン記者は「それでもMNPの本質を考えれば、ある程度の効果はあったのではないか」と話す。

 「キャリアを変えても番号が変わらないという便利さがMNP最大の目的で、韓国でも多くのユーザーがこれによる恩恵を受けた。それに(もっとも市場占有率が低い)LGTも、2006年8月末時点で680万人程度の加入者を獲得することに成功しているほか、KTFも市場占有率を伸ばした」(チョ氏)

 それでは今後もMNPによって市場占有率は大きく変わりうるのだろうか。これに対してチョ氏は「MNPの効果は、制度が開始された直後がピークだったといえるので、今後の市場占有率がこれまで以上に大きく変わるというのは難しいかもしれない」との見通しを話した。

 その理由は「番号を変える必要なくキャリアを変えられるという便利さから、最初は多くの人が積極的にMNPを利用したが、一方で大部分のユーザーは一旦変えたキャリアをそれほど頻繁に変えたりはしないため」(チョ氏)である。結局、MNPは最初の一歩がもっとも肝心なようだ。

重要だったのはプラスアルファのサービス

 2003年12月以来、市場占有率を落とし続けてはいるものの、いまだ50%台をキープするSKTは、9月に入り同社の加入者数が2000万人を突破したと発表した。MNPの後もなお多くのユーザーを維持し続ける理由は何だろうか。チョ氏は「1.8GHz帯を利用しているKTFやLGTに対して、800MHz帯を利用するSKTは“通話品質が高く、都市部だけでなく地方でもよく通じる”というイメージが、ユーザーの間で根強い」ことを挙げている。

 またSKTは端末ラインアップが3社中もっとも多彩であるという強みを持つ。豊富な資金力により巧みなマーケティング展開を行うことで、通話品質の高さとともにSKTそのものを価値あるブランドとして認識してもらうことにも成功しているようだ。

 それではKTFやLGTが、これから市場占有率を大きく伸ばすにはどのようにしたらいいのだろうか。チョ氏は「SKTに対抗できるだけの通話品質の改善が必要」だと指摘する。

 ただし、800MHz帯の周波数については、LGT前社長のナム・ジュンス氏が「SKTは他のキャリアと共有すべき」と主張し続けてきたものの、結局実現しないまま現在に至っており、この先も共有の可否については不透明な状態だ。

 だからこそ大事なのがサービス面といえる。「通話品質が良い反面、料金体系が高めなことでも有名なSKTだが、それでも多くのユーザーを確保できるのは、SKTだけの特別なサービスが提供されているから」(チョ氏)

 例えばSMSサービスが代表的なものとして挙げられる。SKTはSK Communications(SKC)と提携し、SKCによるメッセンジャー「NATE ON」からのSMS送信を、SKT会員ならば月100件まで無料送信可能というサービスを行っている。このサービスは韓国のユーザーに好評で、このサービスのおかげでMSN Messengerは韓国市場におけるシェアトップの座をNATE ONに明け渡したほどだ。

 このほか端末では世界90カ国で通じるという「SCH-V920」(Samsung電子)を販売するなど「高くても使いたい」端末やサービスを提供し、差をつけている。

 また同社は7月から携帯サービスのブランド名を「T」に変え、キャリアショップも高級感あふれる「T World」に統一するなど、一貫したイメージ管理も忘れない。サービスや端末面で必ず付加価値をつけるSKTの総合力が、そのままブランド力となっているようだ。

Photo SK Telecomの新店舗「T World」。店内ではSKTのサービスを実際に体験できる。ゆったりとしたインテリアや白で統一されたシンプルな内装となっており、高級感が溢れる
Photo 「リアルワールドフォン」こと「SCH-V920」(Samsung電子)。CDMA2000およびGSMのほか、日本を含む世界90カ国以上で通話可能な携帯端末だ

 結局はMNPの力だけでなく、プラスアルファとなるサービスや端末、ブランド力に優れたSKTの奮闘が、市場の占有率構造を守り続けている要因でもあるようだ。

 しかし識別番号が010に統一されるMNPで、いわゆる“011”ブランドはだいぶ薄れている。キャリアの裁量で金額を決められる、補助金の条件付許可など他キャリアにも追い風となる材料は多い。

 実際、衛星DMBの運営会社を子会社とするSKTが提供を渋る地上波DMBを、KTFやLGTが積極推進したり、LGTによる独自のサービス「気分ゾーン」(10月6日の記事参照)の提供などで、少しずつではあるが2社の占有率は継続して上昇する傾向にある。今度はいったん維持した加入者をどう引き止めていくのかが、大きな課題となっていきそうだ。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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