韓国で増える“無料ケータイ”――覆った「WIPI」搭載義務韓国携帯事情

» 2007年04月16日 17時17分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 韓国の携帯業界は今、統一プラットフォーム「WIPI」(Wireless Internet Platform for Interoperability)の搭載をめぐり大きく揺れている。

 韓国情報通信部は当初、2005年以降に発売するインターネット機能付き携帯電話について、WIPIの搭載を義務づけていた。しかし、ネット接続機能を搭載しないHSDPA端末の存在が明らかになると(4月3日の記事参照)、“インターネット機能のない携帯電話に限りWIPI搭載義務を課さない”という方針を発表し、さらに大きな波紋を呼んでいる(4月9日の記事参照)

海外メーカーの韓国参入はあるのか

 WIPI搭載義務が一部緩和されたことによって、さまざまな方面に影響が出始めている。真っ先に話題に上ったのが、海外メーカーの韓国市場参入だ。

 海外メーカーにとってWIPIの搭載義務は、韓国進出を妨げる1つの大きなハードルだった。特に米国は「WIPIが技術選択の自由を奪っている」として以前から義務化には強く反対しており、貿易摩擦へと発展するに至った。

 SK Telecom(以下、SKT)やKTFは3G規格としてW-CDMAを採用しており、海外メーカーと韓国キャリアが接触しているという話題は、WIPI義務化を見直す前からあるものだ。しかし、条件付きとはいえ現実にWIPIの搭載義務がなくなった今、海外から進出しやすい環境が整ったといえるだろう。最近ではキャリアも、海外メーカーの関与を認める発言をしている。

 しかしWIPI搭載義務が緩和されたからといって、韓国への参入が容易になるわけではない。キャリアありきという韓国市場の構造上、キャリアとの合意がなければ市場進出も難しい。

 ソフトウェアやメニュー画面などのインタフェースのローカライズだけでなく、キャリアごとに異なるコンテンツサービスと著作権保護機能に対応させ、端末の販売時期や供給量に関する条件にも折り合いをつけなければならない。韓国市場にマッチさせるための細かい調整が数多くあり、お互いの意見がかみ合わないことも多い。

 そのため、現在のところは「海外メーカーが今すぐ韓国に進出するのは難しいだろう」という意見が主流だ。“WIPIの搭載義務がない”ということが海外メーカーにどう影響するかは、キャリアとの交渉次第といったところだ。

街にあふれる「無料携帯」の文字

photo 店頭に張り出された「タダ」の文字。このように最近では、無料を前面に出した広告を行う店が多くなっている

 WIPI搭載の是非を問うきっかけとなった、KTFのLG Electronics製端末「LG-KH1200」。3G規格でありながらネット非対応となった理由は、端末を低コストで作り、より安く販売するためだ。WIPIを巡るニュースでもう一つ注目を浴びているのが、安い携帯電話の登場だ。

 LG-KH1200の価格破壊力はすさまじく、インセンティブを使うことで「無料携帯」と言っても良い価格で売られている。店頭には「無料」という文字が目立つようになった。さらに“安い3G携帯”と話題が先行したことも功を奏し、1日約2000台を超す契約数を記録しているという。

 こうしたKTFの低価格攻勢に対し、ライバルのSKTがすぐに低価格な3G携帯を開発・販売できるわけではない。同社は“3G以前”の端末を安く設定し反撃している。「インターネットができずとも3G端末」と「3Gでなくともインターネットができる端末」との勝負だが、HSDPAの全国サービスを始めようというSKTにとっては、本意ではないだろう。

 こうした低価携帯は、5月以降にさらに増えると見られている。というのも、情報通信部が補助金の緩和政策をさらに進めているからだ。その緩和政策は「補助金バンド制度」という。

 これは、機械的に金額が決まる現行制度(2006年4月の記事参照)に加え、キャリアの裁量で補助金を上乗せできるものだ。例えば、従来制度で8万ウォン(約1万円)の補助金が受けられたとして、さらにキャリアが設定した「5万ウォン(約6500円)以内」の補助金を加算し、加入者は計13万ウォン(約1万6500円)の補助金を受けられる。

 こうした条件緩和により、携帯電話ショップの店頭には「無料携帯」の文字が乱舞するようになった。あまりの加熱ぶりと、市場秩序の乱れを憂慮した韓国通信委員会が、実態調査の検討に乗り出すほどだ。

 WIPIの搭載義務がなくなったことで、市場はさまざまな変化を起こしている。きっかけとなったKTFのLG-KH1200は、政府が発売を認め、低価格3G携帯としてユーザーからも支持を得るなど、追い風が吹いている状況だ。

 さらに海外メーカーが入り込んでくれば、市場にある端末も多様化し、より多くの3G低価携帯が登場してくるだろう。WIPIが韓国に根付くかどうかという問題は棚上げになっているが、少なくとも3G携帯の普及には大きく貢献するだろう。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年