厚さ9.4ミリのウォークマンケータイ──ソニエリ「W880」が生まれた理由(前編)開発陣に聞くウォークマンケータイ「W880」(1/2 ページ)

» 2007年04月20日 23時59分 公開
[青山祐介,ITmedia]

 ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズといえば、国内でも人気の端末メーカーの1つだ。ソニーはスウェーデンのEricssonとの合弁企業を設立する前から、NTTドコモ向けの端末や、au向け端末などを開発・供給しており、国内には古くからのファンも多い。一方で、同社はEricssonから受け継いだワールドワイド向け端末の開発・販売も行っており、Sony Ericsson製端末は海外でも高い人気を誇る。日本ではあまり目にする機会はないものの、世界市場で展開しているウォークマンケータイシリーズやサイバーショットケータイシリーズなど、ソニーのブランドとEricssonの通信技術を生かした端末作りを行っている。

 2007年2月に発表された、厚さ9.4ミリのストレート型端末「W880」も、ウォークマンケータイの1つとして開発されたワールドワイド向け端末だ。ウォークマンブランドを冠した端末の牽引役として投入された、ヘアライン仕上げのクールなステンレスボディが特徴のW880は、実は日本で開発され、発売と同時に世界中に展開された一大プロジェクトだった。

PhotoPhoto 厚さ9.4ミリのウォークマンケータイ「W880」。左がFlame Black、右がSteel Silver。開発コードネームで「Ai」と呼ばれていた端末で、東京の開発チームが生み出した

 そんなW880のプロジェクトについて、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのGU部門(GMS UMTS部門)でプロダクトマネジメントを担当した瀬尾氏と、R&D担当の青木氏、そしてRTL(Ready to Launch)を担当した片山氏に話を聞いた。

Photo 左からソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズのGU部門(GMS UMTS部門)でRTL(Ready to Launch)を担当した片山氏、プロダクトマネジメントを担当した瀬尾氏と、R&D担当の青木氏

4つのジャンルを持つSony Ericssonの「ポートフォリオ戦略」

 「ウォークマンケータイ」というブランドは日本向けの端末にもあるが、最初に“ウォークマン”のブランドを冠したのは海外向けのモデルだった。現在では、ソニーのデジタルカメラのブランド“サイバーショット”とともに、Sony Ericsson製端末のブランド戦略の重要な要素となっている。

 「ビジネスの構造で言いますと、日本国内はどちらかというとキャリア主導で、メーカーは1機種を1事業者に対して納入します。仕様を決める場合も、基本的にはメーカーとしてさまざまな提案をしますが、最終的にはそれが事業者のブランドとして統合されていきます。端末とサービスは密接に関わっており、キャリア提案型の商品展開を行っているわけです。一方、グローバル向けの端末開発は完全にメーカー主導になります。“メーカー提案型”とでも言いましょうか」(瀬尾氏)

 Sony Ericssonのグローバルモデルには、何十というバリエーションがあるが、すべての端末は大きく4つの分野にカテゴライズされた「ポートフォリオ戦略」をとっている。4つの分野とは、ミュージックジャンルの“ウォークマン”、イメージングジャンルの“サイバーショット”、デザインジャンルの“エモーション”、そして“ウェブコミュニケーション”だ。

 Sony Ericssonはスウェーデンのルンド、中国の北京、米国のノースカロライナ、そして日本の東京の4カ所に開発拠点を持っており、毎年このポートフォリオにのっとって、ルンドにある商品企画部門が各モデルを4カ所の拠点に割り振っていく。中でも東京は、日本の市場性を意識して、ハイエンド、高機能、高価格帯のモデルを多く担当している。また、各拠点はポートフォリオに従って担当機種を割り振られる一方、拠点側からも新しい企画をポートフォリオに対して提案している。

 「最初に商品企画部門がポートフォリオのたたき台を作り、それに対して各拠点からフィードバックを行ってポートフォリオを最適化し、それぞれのサイトの能力を有効に使いながら効率よく端末を開発していきます。ただ、東京から“こういうのができるよ”という形で、これまでにもいろいろな機種を提案して来ました。その1つがW880だったわけです」(瀬尾氏)

前作の悔しい思いから始まったW880のプロジェクト

 当初Sony Ericssonのポートフォリオには存在していなかったW880の開発を東京から提案したのは、瀬尾氏や青木氏をはじめとした開発スタッフの熱い思いからだった。

 「我々は2005年に『W900』というグローバル向けのウォークマンケータイの開発を担当しました。本体の構造には、これまでにも何度か採用したことがある回転(リボルバー)タイプを採用しました。当時、日本市場では比較的サイズの大きな機種も受け入れられていたので、世界市場でも機能さえいっぱい入っていれば大きな端末でも受け入れられると思っていました。ですが、世界市場では写真の画質が世界一きれいだとか、ストリーミング映像の再生がスムーズだといったことをウリにしても、結局重い、大きい、と敬遠されてしまい、ビジネスとしてはあまり成功しませんでした」(瀬尾氏)

 確かにW900はウォークマンケータイとしては初の3Gモデルで、回転型のボディにショートメッセージサービス(SMS)、マルチメディアメッセージサービス(MMS)、インスタントメッセージング(IM)、プッシュ型メール、テレビ電話、FMラジオ、HTMLブラウザなどの機能を備え、Bluetoothや赤外線通信機能を搭載するなど、当時としては超が付くほどのハイエンド機種だった。しかし、グローバルモデルの中では、3G対応という点を考慮しても、比較的大きいサイズだった。

 「W900の出荷直前には、すでに開発当初に想定したほどの成功は期待できないことが分かっていました。そのため、相当悔しい思いをしましたね。というのも開発作業が本当に困難で、ソフト・ハード両面において死に物狂いでやってきて、それを日程通りに実行したにも関わらず、ビジネス的な結果が期待通り出ないということでしたから」(瀬尾氏)

 そこで、端末の出荷判定会議があった日の夕方にはW900のキーメンバーが集まって、「どういう端末を作ったら我々もユーザーもハッピーなんだろう」という議論をしたのだという。そこで出した結論はやはり“サイズ”だった。その場で、「W900の上キャビネット(本体のディスプレイ側)部分だけで同じ機能のモノを作れたらそれはすごい」という話が出たことから、W880の企画が始まった。「“これをやったらすごいんじゃないか”という発想から生まれたのがこのW880なんです」(瀬尾氏)

 W880の厚さは約9.4ミリ。W900の上キャビネットの厚さは約9.1ミリで、0.3ミリ厚くはなっているが、W900全体の要素が(一部の特殊な機能は非搭載となっているとはいえ)わずか1年でその上キャビネットに収まったのだから驚きだ。青木氏によると「この上キャビネットよりも小さいものを作ろう」という大きさに対する目標があったため、プロジェクトのメンバー全員が最終製品をイメージしやすかったという。

PhotoPhoto 手前がW880、奥にあるのがウォークマンケータイとして初めて3Gに対応したW900。あまりの大きさの違いに驚かされる
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