イー・モバイル、音声サービスの実力と課題神尾寿の時事日想(2/2 ページ)

» 2008年02月29日 10時30分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
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「販売・サポート拠点の構築」と「端末戦略」が今後の課題

 音声サービスを投入すると、ユーザーの裾野は広がり、キャリアとして求められる要素も増えてくる。ドコモやau、ソフトバンクモバイルのようなフルライン体制は取れないにしても、携帯電話キャリアとしての最低限の対応ができるかが、イー・モバイルにとって当面の試金石になる。

 なかでも重要なのは、「販売・サポート拠点の構築」と、将来に向けた「端末戦略」だ。

 まず、販売・サポート拠点の整備では、当面はこれまでどおり家電量販店が主力の販売チャネルであり、サポート拠点も兼ねることが明かされている。イー・モバイルの営業戦略が「しばらくは都市部中心になる」(イー・モバイル代表取締役社長兼COOのエリック・ガン氏)ことを鑑みれば家電量販店中心の対応でも十分に見えるが、販売する商品が携帯電話であることを考えれば、主に“サポート”と“ブランディング”の場としてキャリアショップの整備は急務だ。販売チャネルの機能だけ見れば家電量販店の効率はいいが、ユーザーの安心感と信頼感を得て、さらにキャリアのブランドを高めるツールとして、キャリアショップの果たす役割は大きい。そのことは、ドコモやauだけでなく、ソフトバンクモバイルもキャリアショップの積極展開やクオリティ向上を重視していることからも分かるだろう。

 キャリアショップの重要性について、イー・モバイルの認識や理解が薄いように感じられるのは残念なところだ。

 一方、端末戦略についてだが、千本氏は記者会見において「オープンでグローバルなものを導入していきたい」と繰り返し主張していた。確かに今後の端末市場のトレンドで見れば、“オープンでグローバルなプラットフォーム(開発基盤)”を構築・採用していくのは重要なことだろう。しかし、その一方で、日本市場のニーズをきちんと汲み取れなければ、イー・モバイルはいつまでたっても主流市場に入り込めない。グローバルであることが重要なのは供給者側の都合であって、多くの一般ユーザーにとって大切なのは「今の自分にとって使いやすいか」である。重要なのは、グローバルな仕組みの上で技術革新やコスト削減のメリットを生み出しつつ、地域市場にあわせた適切なローカライズをすることだ。

 特に筆者がイー・モバイルの端末戦略で不安を感じたのが、質疑応答において千本氏がおサイフケータイ(モバイルFeliCa)を「日本ローカルな機能だから搭載しない。あんなものはお菓子のおまけだ」と強く否定したことである。

 確かにおサイフケータイ(モバイルFeliCa)の仕組みは日本が先行する分野だが、FeliCaという視点で見れば香港(参照記事)やシンガポールはもちろん、「FeliCaハワイプロジェクト」(参照記事)で米国の一部地域でも評価を受け始めている。FeliCaを発展させた非接触IC規格「NFC」は、Nokiaを始め海外の携帯電話メーカーが対応端末を開発している。また、余談ではあるが、筆者は欧米の多くのキャリアや端末メーカー、交通事業者や金融会社の幹部と意見交換など交流の機会を持っているが、そこでよく質問されるのが、まさに「FeliCaとおサイフケータイ」である。特にJR東日本の「モバイルSuica」(参照記事)と、FeliCaクレジット/電子マネーに対する注目度は年々高まっている。

 これらのことを総合すれば、FeliCaにグローバル性がなく今後の携帯電話に不要だと全否定する姿勢は、まったくの不見識だと言わざるを得ない。世界の流れはむしろ逆で、ケータイを通じてネットとリアルが連携・融合しようとしており、そこでGPSと並んで重要な役割を果たすのが非接触IC (NFC)という見方だ。おサイフケータイを「日本ローカルのおまけ機能」(千本氏)と切って捨てるのは簡単だが、あまりに頑迷かつ狭量な姿勢では未来は見られない。もう少し広い視野に立ち、“非接触ICの将来性”から現在の日本市場のニーズに向き合うことも必要なのではないだろうか。

 イー・モバイルは今回、おサイフケータイを日本ローカルなものと切り捨てる一方で、「H11T」(参照記事)にはFeliCa以上にローカルなはずの「ワンセグ」を搭載した。こと端末ラインアップにおいては、市場にあわせた臨機応変や柔軟さが大切だ。端末戦略が頑なにならず、まずは日本のユーザーにとって魅力的なラインアップが構築できるかが同社の課題である。

東芝製端末の「H11T」。ワンセグ、HSDPA、3.2MのAFカメラ、Bluetooth、GPSを搭載した“普通のケータイ”だ

まずは信頼の獲得と、新たな顧客と向き合う体制を

 いろいろと厳しい意見を述べたが、それはイー・モバイルを「新しい携帯電話キャリア」と見るがゆえである。ひとたび音声サービスに乗り出せば、データ通信専業キャリアとはまったく違う姿勢でユーザーと向き合わなければならない。たとえ2台目市場からの出発であっても、キャリアとして求められる責任は他社と変わらない。サポート体制を中心に、ユーザーが安心してイー・モバイルを選択できる環境作りは急務だ。

 イー・モバイルは昨年、データ通信市場に「モバイルブロードバンド」の旋風を巻き起こし、この分野の発展に大きく貢献した。だが、音声サービスではキャリアとしての総合力が問われることになる。同社の前には課題が山積しており、データ通信ほど急速な成長は難しいだろう。少なくとも音声サービス開始後の1年は、音声サービスの拡販よりも、ユーザーの信頼を獲得し積み上げられるかが重要になる。

 イー・モバイルが多くの一般ユーザーにとって“魅力的な選択肢”になり得るか。同社の取り組みを期待を持って見守りたい。

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