会話を重ねるごとに、ケータイの中の分身が進化する――。こんなコミュニケーションサービスとして4月2日に登場したのがCLON Labの「CLON」だ。
CLONはケータイサイト内に生成した自分の分身となる「クロン」を通じて情報を発信したり、他のクロンとのコミュニケーションを楽しめるサービス。クロンをより身近に感じさせるための技術として、名前の音が持つ響きから利用者のサブリミナル・インプレッションに基づくクロンを生成する「語感分析」を採用するなど、ユニークな取り組みで注目を集めている。
CLONとは誰に向けたどんなサービスで、どのようなビジネスモデルで展開する計画なのか。CLON Lab代表取締役の中山小百合氏に聞いた。
「受け身でアクセスしても、サービス自体の機能でさまざまな情報が集まってきたり、コミュニティの輪が広がったり、出会いが楽しめたり。ユーザーの関わり方が最小限でも楽しめるサイトを目指したのがCLONです」――。中山氏はCLONを立ち上げた経緯を、こう説明する。
インターネットの世界には、すでにさまざまなコミュニケーションサービスがあるものの、ユーザーがアクティブに働きかけないと楽しめないサイトも多い。一方で、忙しいビジネスパーソンたちは、こうしたサービスを楽しむ時間が限られていることから、ちょっとした空き時間にアクセスしてもさまざまな情報を得られ、コミュニケーションを楽しめるサイトの立ち上げを目指したというわけだ。
実際、CLONにアクセスしてサイトを一通り楽しむのにかかる時間は、5分から10分程度だ。クロンが繰り出す質問(質問は「理想の上司は誰?」という簡単なものから、「知り合いと同じ人を好きになったら?」といった答えにつまるものまで幅広い)に答えると、クロンがRSS経由で集めてきた4〜5本のトレンドニュースを紹介。当日の質問にほかの人がどう答えたかを知りたければ「ひとことBBS」をチェックし、前の日の質問に対する答えが、ほかの人にとってどうだったのかを知りたいなら「クロン日記」にアクセスする――といった具合だ。気に入った回答にはコメントを残すことができ、もう少し深くつっこみたい場合はミニメールを使ったやりとりも行える。
「CLONがコアターゲットとする20代から30代の人たちには、目的別にいろいろな人との出会いを楽しみたいというニーズがあると見ており、分身であるクロンで匿名性を保ちながら、安全なマッチングを実現したい。ユーザーが使えば使うほど、自動的に情報や出会いやいろいろなものとのマッチングを楽しめる――。そんなサービスを目指しています」(中山氏)
このサービスの特徴ともいえるのが、クロンの生成やクロンとユーザーとのコミュニケーションに「語感分析」「自然発話エンジン」といった技術を採用している点だ。
語感分析技術は、言葉の持つ音の響きが与える印象を論理的に体系化したもの。CLONではそれを“名前”というアプローチで変換してシステムに組み込み、ユーザーがクロンを生成する際に利用している。中山氏は、この技術を採用することで初めから利用者のイメージに近いクロンを生成できるという。
「自分の分身を生成する際に、利用者にさまざまな情報を入力してもらって学ばせるのでは時間がかかってしまいます。そこで分かりやすくタイプ分けをしようと思ったときに、そのロジックとして面白いと思ったのが語感分析でした」(中山氏)
中山氏はまた、導入の際に行ったリサーチでは、この技術で生成したクロンのタイプが本人のイメージと著しくかけ離れることはほとんどなかったと振り返る。
「知り合いの会社の社長さんに試してもらったときのことですが、ご本人は生成されたクロンのタイプを見て『本当にそうか?』という反応だったのですが、秘書は『ぴったりですね』と言ったのが面白かったですね。“自分が気がついていない自分を発見できる”というのは、このサービスのテーマである“自己の再発見”にもつながるところで、楽しめるのではないでしょうか」(中山氏)
自然発話エンジンは、ユーザーとクロンのコミュニケーションを支える技術だ。クロンはユーザーとの会話を日記に書いたり、RSS経由で取得したニュースをユーザーに伝える機能を備え、その内容はカジュアルな口語で表記される。自然発話エンジンは、ユーザーが入力したテキストの内容やニュースなどの情報から必要な情報を抜き出し、それを語り口調の文章として自動で生成する。
「エンジン自体がユーザーが話したことを受け取って自然な文章を自動で生成し、学習エンジンでその内容(ユーザーの趣味嗜好)を学ぶという仕組みです。短い文書を生成する仕組みならほかにもあるのですが、長い文章に仕上げるのはなかなか実現できておらず、今回採用したブログウォッチャーの自然発話エンジンは、技術力が高くユニークなものと言えるのではないでしょうか。今はまだ、“言いまわしがへんかな”と思うところもありますが、バージョンアップで対応していく予定です」(中山氏)
CLONは4月2日にスタートしたばかりで、現状はα版という位置づけだが、今後はどのようなサービスを目指すのだろうか。中山氏は、CLONを単なるコミュニティツールで終わらせるつもりはないという。
「予想しなかった自分の興味を喚起し、再発見があるようなサイトを目指しています。方向性としては、自分のエージェント(クロン)が自律的に行動して、自分の対話相手として存在するかのように成長させたいですね」(中山氏)
エージェントとしての分身を作るには、その時々で変化するユーザーの好みや興味を把握する必要がある。日々のクロンとの会話は、他のユーザーとのコミュニケーションをサポートするとともに、情報収集の役割も担っている。ここで収集した情報は、そのユーザーに最適化した情報を配信するためのパラメータ的な存在になるが、中山氏は“ユーザーが自分で探しにいくような情報を提供するのでは、面白くない”とも話す。
「ユーザーが必要とする情報は、私たちが提供しなくてもユーザー自身がアクションを起こして取りに行きます。CLONでは、ユーザーの好みに関連するものでありながら気づかなかった情報や、昔興味があったことに関連する情報を持ってきたりするような、再発見や意外性を提案できるような存在になると面白いのかなと思っています」(中山氏)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.