黒船どころではない、津波だ――iPhone、驚異のビジネスモデル神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

» 2008年06月13日 13時44分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]
7月11日、世界の22カ国で発売される「iPhone 3G」。ブラックとホワイトの2つのボディカラーが用意される

 6月9日(現地時間)、AppleがiPhone 3Gを発表した。日本も含めた世界70カ国に展開され、そのうちの22カ国では7月11日に発売される。日本での発売も7月11日。ローンチカスタマーとして、ソフトバンクモバイルが選ばれた(参照記事)

 今日の時事日想は特別編として、日本市場におけるiPhone 3Gの影響と可能性について考えていきたい。

 →HSDPA対応の「iPhone 3G」、7月11日発売

 →携帯電話からコンテンツプレーヤーへ脱皮した「iPhone」

 →ソフトバンクモバイル、年内に「iPhone」を発売

予想以上に早い発売日はなぜ実現したか

 「予想以上に発売が早い。早すぎる……」

 iPhone 3Gの発表以降、筆者は多くの通信キャリアやメーカー幹部に取材を行ったが、多くの関係者が口を揃えたのが、まさに「発売日」についてである。特に日本メーカーと、iPhone 3Gのローンチカスタマーに“なり損ねた”NTTドコモとKDDI関係者の驚きは大きく(参照記事)、「夏商戦への影響は大きい。(販売やマーケティング)戦略の見直しが必要」(通信キャリア幹部)と危惧する声が多かった。一方で、「日本の携帯電話市場は特殊だし、(日本の)メール文化にiPhoneのようなフルタッチパネルはなじまない。影響は限定的だ」(メーカー幹部)と、あえて目を背けるようにiPhoneの影響を過小評価しようという向きもあったが、どう考えてもそれは楽観的すぎる見通しだろう。iPhone 3Gの話題性は十分であり、そのうえ日本は世界の先行発売グループに入った。今年の夏商戦が、iPhoneの話題で一色になるのは間違いない。

 これまでもAppleは多くの製品で、「発表直後の発売」という手法をとってきた。今回のiPhone 3Gの場合、各国の電波法による認証が必要な電波機器であることや、同時発売国が多いことなどもあって発表直後からの発売はかなわなかったが、それでも発表から1カ月での発売は異例の早さと言える。なぜ、これが実現したのか。

 その理由の1つとしてあげられるのが、iPhone 3Gの“熟成度”だ。周知のとおり、iPhone 3Gは画期的なユーザー体験を約束するプロダクトだが、基本的なハードウェアとソフトウェアの構成は、実際のところ先代iPhoneの“確実な進化”に留まっている。3G対応による通信部分の変更やGPSの搭載など、変更や改良が加えられた点は多々あるものの、その中身は今どきのケータイとして見れば“枯れた技術”で構成されている。また、今回新たに投入された新機能・新サービスの布石になる仕組みは、先代のiPhoneやiPod touchの時代から「ソフトウェアアップデート」という形で部分的に提供されてきた。先代iPhoneの優れた設計思想と、そこから連続性のある進化を行ったことにより、iPhone 3Gは登場時点から完成度の高いものになっている。この熟成度の高さがあったからこそ、多くの国ですばやくiPhone 3Gが展開できるのだ。

なぜドコモではなく、ソフトバンクモバイルを選んだのか

 さらにもう1つ筆者が注目したのが、ローンチ時の「キャリア選定」の部分だ。

 今回のiPhone 3Gの発売にあたり、筆者を含む多くのアナリストや業界関係者が、日本での取り扱い通信キャリアはNTTドコモが有望と予想していた。ドコモが世界的に採用国の多い3G通信方式「W-CDMA」を採用し、日本での獲得シェアが高いことから、Appleの過去の販売戦略を鑑みても“最もマーケットにリーチしやすいドコモ”が選ばれる可能性が高いという見方だった。しかしこの予想は見事に外れ、日本でのローンチカスタマーはソフトバンクモバイルになった。

 さて、ここで改めてドコモとソフトバンクモバイルの現況を見比べると、1つの“相違点”が見えてくる。それは周波数の利用状況だ。

 ドコモのFOMA(W-CDMA)では2GHz帯を基本として使いながらも、地方や郊外のエリア展開では積極的に800MHz帯の「FOMAプラスエリア」を用いており、東名阪では1.7GHz帯も使用している。日本メーカー製の現行モデルの大半はこの3つの周波数帯に対応しており、ノキアやLG電子製のドコモ向けモデルでも、現行機種は2GHz帯と800MHz帯のデュアル対応だ。ドコモは地方のエリア拡大においてプラスエリアを積極的に活用したため、「プラスエリアに対応していないと、FOMAのエリアは(ユーザーにとって)不満の多いものになってしまう」(ドコモ幹部)。

 一方、ソフトバンクモバイルは3Gのサービスにおいて2GHz帯しか使っていない。これは同社がエリアカバーにおいて有利な800MHz帯を所有していないためだが、いずれにせよ全国エリアを2GHz帯のみで構築している。

 この背景を踏まえた上で、改めてiPhone 3Gを見てみよう。同機の3G通信部分は800MHz帯/1.9GHz帯/2GHz帯の3つの周波数に対応するトライバンド構成になっている。ハードウェア的に見れば、2GHz帯と800MHz帯を組み合わせて使うドコモのネットワークにも対応できる。しかしこのトライバンド構成は「(トライバンドに関しては)世界中を一つの設計で済ませるというAppleの方針から来るもので、ドコモ(のネットワーク構成)を考慮してではない」(Apple関係者)。

 実際に携帯電話を発売する際は、各国ごとに無線部の調整や実地での検証が必要になってくる。その際に2つの周波数を組み合わせなければならないドコモよりも、2GHz帯の1つの周波数対応のみで端末が発売できるソフトバンクモバイルの方が手間と時間を短縮できる。こうした状況を考え合わせると、Appleは早いタイミングで日本市場にiPhone 3Gを投入するために、ソフトバンクモバイルを選んだという見方もできる。

 なお、Appleでは今回のiPhone 3Gから「1国1キャリアの排他的な販売契約」は撤廃しており、ドコモからもiPhone 3Gが発売される可能性は残されている。しかし、ドコモ向けではプラスエリア対応が必須であり、その対応でソフトバンクモバイルよりも発売時期が大幅に遅れる可能性が高ければ、ドコモでの発売が“時機を逸する”ことも考えられるだろう。

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