進化した「T9」がケータイUIを変える――「XT9」「T9NAV」とは何か文字入力システムからケータイUIの世界へ(1/2 ページ)

» 2008年07月02日 07時00分 公開
[田中聡(至楽社),ITmedia]

 「あはやあ」と入力して「おはよう」、「だかま」と入力して「ドコモ」など、1文字につき1回のキータッチで最適な単語に変換できるNuance Communicationsの文字入力システム「T9」。日本ではNECや富士通製端末に搭載される文字入力システムとしておなじみだ。国内向けケータイにおけるシェアは低いものの、世界規模では採用デバイスが約40億台にのぼり、マーケットシェアは70%を超える。2008年度には80言語に対応するなど、世界で通用する入力方式として、大きな存在感を示している。

 このT9が、より快適な文字入力や端末の使い勝手を実現すべく、新たなプラットフォームへと進化しようとしている。この進化は日本のモバイル端末、そしてケータイ市場にどのような影響を及ぼすのか。文字入力、音声・画像認識のアプリケーションを手がけるNuance Communicationsの企画・開発陣に話を聞いた。

Photo 「T9」シリーズの企画開発陣。左からNuance Communicationsの製品開発部門で副社長を務めるのブラッド・バーゲン氏、T9/XT9 プロダクトマネージャーのクリスタル・ジェンキンス氏、同テジック製品担当ディレクターのテレサ・ブライト氏

T9が世界から日本に広がるまで

 T9の誕生は、1990年代の半ばまでさかのぼる。当時はTegic CommunicationsがT9のベースとなる技術を開発しており、そもそもの出発点は「障害を持つ人向けのタイプ入力だった」と、Nuance Communicationsの製品開発部門で副社長を務めるのブラッド・バーゲン氏は振り返る。

 その後、少ない手順で文字を入力できる点が評価され、「携帯電話など、キー入力が必須となるデバイスに技術を活用できないか」という機運が高まったことから、本格的な技術開発を開始。こうして完成した初期のT9は1996年から市場に導入され、まずはNokiaの携帯電話に搭載された。ブラッド氏は「第1世代のT9は、12キーでデータ入力をする環境において最適化できる技術が大きなメリットでした」と話す。

 日本向けには2002年、「JT9」としてNECの携帯電話に初めて搭載された。ほかにも、中国語や韓国語、さらにはアフリカやインドをはじめとする新興国でも活用できる技術へと進化し、2008年には80言語に対応するまでに至った。今やT9を搭載しているデバイス総数は40億台にのぼり、1000種類以上のケータイに対応している。

 T9が世界中に広まった背景にあるのは「携帯電話の機能が単に電話をかけることにとどまらず、キー入力の技術をフレキシブルに活用できるようになったから」だとバーゲン氏。「T9はタッチペン、手書き、音声認識、QWERTYキーボードを使った入力にも対応しており、汎用性を持たせています」(同)

 日本国内では、NECが自社端末にT9を採用し続けているが、NECはどのような経緯でT9を選んだのだろうか。Nuance Communications プロダクトマネージメント・ディレクターのテレサ・ブライト氏は、「市場のOEM先のメーカーとは定期的に連絡を取っており、先方のロードマップと当社の新たな技術がかみ合えば、その段階で搭載することが決まってくる」と話す。

 「日本の場合、端末メーカーだけでなく通信キャリアが関係していることもあり、キャリアとメーカーを交えて意思決定がなされていることもあります」(ブラッド氏)

T9の入力機能がさらに進化――「XT9」

 世界的には入力ソフトにおいて大きなシェアを持つT9だが、日本のメーカーではNECと富士通が採用するのみで、「ATOK」や「Wnn」などに比べると、搭載デバイスのシェアは低い。しかし、T9の新たな2つのバージョンは、T9の世界シェア拡大はもちろん、日本の文字入力ソフトの勢力図を変え、さらにはユーザーインタフェース(UI)のあり方を変える可能性を秘めている。それが「XT9」と「T9NAV」だ。

 「T9はどちらかというと、ケータイ向けの技術という色合いが強いですが、XT9とT9NAVは、ケータイのみならず、あらゆるデバイスに対応するプラットフォームになっています。パーソナルナビゲーションシステムや、オフィスのプリンタでも使うことができます」(ブライト氏)

 「T9の元来の技術は12キー入力ですが、XT9はハードキー、(タッチパネル上の)ソフトキー、音声入力、手書きなど、あらゆる入力方式に対応するのが大きな特徴です。将来進化するあらゆるデバイスに対応できる応用力を持っています」と、Nuance Communications T9/XT9プロダクトマネジャーのクリスタル・ジェンキンス氏は説明する。

 日本のケータイに搭載されたT9は、ワンタッチで文字変換できるシステムだが、T9とXT9は何が違うのだろうか。

 「XT9は、あくまでもT9の進化型です。12キーや10キーであれば1つのキーを押して文字を変換できますが、PCベース(QWERTYキーボード)になると、例えば「おはよう」という言葉をミスタイプするとそれを訂正し、正しい「おはよう」という言葉として予測する機能が提供されています。これが『Spell Correction(スペル訂正)』機能で、T9では提供されていない、XT9ならではの機能です」(ジェンキンス氏)

Photo 「タンタン麺」は「tantanmen」と入力して変換するが、これを誤って「mantanten」と入力してしまっても「タンタン麺」と変換できるので、打ち直す必要はない。また、「メキシコ」を「mekshko」と入力しても正しく変換できる

 もう1つ、XT9には「SloppyType」(あいまい入力)という新機能が搭載されている。これは、本来打つべきキーの隣のキーを押してしまっても、正しい言葉に変換する機能だ。例えばQWERTYキーボードを使って、「食べたい」を変換するには「tabetai」と入力する必要があるが、間違えて「rsbeyai」などと入力しても、「食べたい」と変換できる。

Photo あいまい入力機能により、「rsbeyai」で「食べたい(tabetai)」、「nssleledp」で「んだけど(ndakedo)」を変換できる。「K」と打って「今日」を変換できるなど、一般的な予測変換にも対応しており、あいまい入力と予測変換を併用することも可能だ(左)。「おはよう(ohayou)」を「khayou」とミスタイプしても、「おはよう」と変換できる(右)

 XT9が画期的なのは、「正しいキーを打たなくても意図したとおりの文字変換ができること」で、この機能がケータイに実装されれば、文字入力の効率が向上することは間違いない。対応端末には、12キーを備える一般的な音声端末はもちろん、QWERTYキーボードを備えるスマートフォンも含まれる。日本語版のXT9は、2008年末をめどにキャリアに提案できるレベルに仕上げたいとジェンキンズ氏。なお、アルファベット版と中国語版はすでに提供されており、Nokiaや東芝、Samsung電子、HTCなどのメーカーが導入している。

 ジェンキンス氏が先述したとおり、XT9はキーボードや音声認識など、さまざまなデバイスに対応するが、複数の入力インタフェースでXT9を利用できることは、どのようなメリットをユーザーにもたらすのだろうか。

 「ほかのメーカーでは個別にエンジンを搭載しないと対応できないところを、XT9では1つのコアエンジンでさまざまな入力インタフェースに柔軟に対応できます。また、XT9が搭載された端末は、メニューのオプション設定から入力方法を選択できるので、ユーザーにとっては好みの入力方法を選べるのがメリットといえます。もちろん、手書き用のデバイスがあるかどうかなど、各端末のUIによって選択できる入力方法は異なります」(ジェンキンス氏)

 「アプリケーションの柔軟性は、OEMメーカーにとって使い勝手がいいものとなるでしょう。OEMはいろいろな製品群のデバイスを持っていますが、XT9でプラットフォームを統合すれば、どんなアプリケーションやデバイスでも選んでもらえます。どの入力モードを選ぶかは、端末の訴求対象が誰であるかが1つの基準になるでしょう。また、一貫した技術を複数の機種に採用することで、例えばNokiaから違うメーカーの端末に切り替えても、同じXT9が搭載された機種なら入力時のインタフェースが同じなので、なじんだ操作でそのまま文字入力ができるわけです」(ブライト氏)

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年