“青山のデニーズ”で思いついた技術が“夏モデル18機種”に搭載されるまで――モルフォ(前編)ケータイの未来を創る“裏方”列伝(2/2 ページ)

» 2008年07月04日 13時43分 公開
[荻窪圭,ITmedia]
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ITmedia 縦横の動きに加えて、前後の動きと、それぞれの方向の回転も含めて6軸ということですね。なぜここまで増えたのでしょう?

平賀氏 最初は縦横だけだったのですが、純粋にエンジニアとして性能を上げたいという気持ちがあったんです。もっといけそうだよね、という。東大工学部の真面目な研究室に依頼して測定してもらったところ、意外に縦横より前後方向のブレが多かったんです。ケータイを縦で持って親指で決定キーを押す(シャッターを切る)と、撮る瞬間にケータイが少し回転するんですね。

ITmedia 縦横なら少しずらして合成するというイメージがわきやすいのですが、前後や回転となると、1枚の絵を動かして重ねるだけじゃ、すまないですよね。微妙な処理が必要になる。いったいケータイの限られたパワーの中でどうやってるんでしょう?

平賀氏 それは、頑張ってるからです(笑)。普通にやるとむちゃくちゃ大変です。実は割と統計的な処理を入れてます。画像の部分部分で見て、そうして最終的に統計処理でずれを判断してます。分かりました?

ITmedia 分かりません(笑)

平賀氏 例えば、左上と右下を見て、回転しているかを判断するとか、そういうロジックを入れてます。前後のずれは大きさを見てますね。

ITmedia 3〜4枚連写している最中に被写体が動いた場合はどうするのでしょう? 手ブレじゃなくて被写体ブレになるケースですよね。

平賀氏 以前はそういうシーンだと判断したら、合成ではなく1枚の写真をゲインアップして対処してたんです。でもそれだと画質が落ちてしまう。そこで今は、被写体が動いていると判断したときは特別な処理をしてます。W補正という最新の処理が入ってます。例えば走ってる車があるとしたら、動いている被写体部分だけを抽出して、そこだけ別の処理をしているわけです。

Photo 被写体ブレ補正前(左)と補正後(右)の写真

西谷氏 最初にその処理を入れたのは「N905i」ですね。N903iで動画手ブレ補正が採用され“スーパーデジタル手ブレ補正”から“ウルトラデジタル手ブレ補正”になって、「その次はどうするんだろう」と思っていたら、“Wブレ補正”という名前になりましたね。

平賀氏 ソフトウェアの手ブレ補正でここまでやっているのは、ほかにはありません。

ITmedia 普通に考えて、これだけの処理をケータイのチップでやるのはすごく大変なことだと思うのです。“200万画素以上の画像を4枚撮って、処理して合成する”というのは、かなり重い処理ですよね。それをどう実現したのでしょう?

平賀氏 最初はPCで試作して、10秒以上かかっていました。ケータイだと1分以上です。“こんなに時間がかかるのは、まずいな”ということで、高速化のための手法をいれて、高速化しました。

 本当にアルゴリズムレベルから変えないといけないことがあるんです。うちが強いのは、実際に最初のアルゴリズムを考えた人が、コンパクト化やスピードアップもやっているところですね。“アルゴリズムを考えてコーディングして、効率化して小さく速くする”というところを、すべてやっているのが強みです。

平賀氏 手ブレの効果を見るために、最初は男たちだけでディズニーランドにも行きました(笑)。手ブレ補正の利用シーンで多いのはどこだろう、と考えたら「やはり夜景だろう」と。シンデレラ城とかエレクトリカルパレードを撮影しました。

 当時を思うと、NECさんはすごい決断をしてくれましたね。エンジニア2人で作ったものがケータイに入って、店頭に並んだわけですから。テストなどにも、すごく協力していただきました。

西谷氏 ケータイの手ブレは何ら基準があるわけではなかったので、自分たちで基準を見つけていかなければならなかった。きちんと数値化して定量的な実験もしましたね。そのための手ブレの実験装置も自作です。

  • ↓モルフォが自作した手ブレ実験装置

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ITmedia 静止画手ブレ補正の次に開発したのは?

平賀氏 静止画手ブレ補正の次は動画ですね。QVGAサイズでリアルタイムで補正できます。動画だと6軸の補正は不要なんです。逆に6軸で判断しちゃうと、誤差がたまりやすい。そのため4軸にしています。

西谷氏 最初にこの「ウルトラデジタル手ブレ補正」が搭載されたのは「N903i」で、今はカシオ計算機製端末など、自社でムービーカメラを持っていないメーカーの端末にも採用されつつあります。


 以上、モルフォの生い立ちから(まさかタモリ倶楽部に出てたあの会社とは思わなかった。実はその回を見てて……その上録画までしてて、ちゃんと覚えていたのである)、同社の技術が花開いた「6軸手ブレ補正」までを細かく見てみた。

 一番感心したのは、実装の技術。アイデアがどれだけ優れていても、それが目的の機器にちゃんと実装できなければ製品として意味がないわけで、高度な処理をケータイという極めて限られた資源しか使えないデバイスに、限られた開発期間できちんと埋め込むのはさすがだと思う。

 大学の研究室出身というと、どうしても“実装より理論先行”というイメージがあったのだけれども、これは見事にくつがえされた。

 後編は2008年モデルから搭載されはじめた「顔検出」とワンセグ動画の動きを滑らかにする「フレーム補間」の話になる予定である。

Photo 入り口で出迎えるのは「モルフォ蝶」。会社には仮眠室やちゃぶ台もある

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