モバHO!終了も韓国モバイル衛星放送は健在――しかし課題は山積み韓国携帯事情

» 2008年08月26日 15時04分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 日本の移動体向け衛星デジタル放送サービス「モバイル放送」(モバHO!)が、2009年3月末で終了する(7月29日の関連記事参照)というニュースは、韓国でも報道された。というのも、モバHO!が使っている衛星は、韓国と共同で打ち上げられたものだからだ。

 韓国の移動体向け衛星デジタル放送サービス「衛星DMB」も、地上波DMB(日本のワンセグに相当するモバイル向け放送)と比べると加入者数が伸びていないといわれる。韓国の衛星DMBは今、どうなっているのだろうか。

SK Telecom加入者増に大きく貢献

 韓国ではまだ、衛星DMBサービス「TU」が健在だ。だが衛星DMBの加入者は、2008年7月末時点で約140万人を超えた程度。地上波DMBの専用端末台数が1000万台を超えたことと比べると、非常に少ない。もっとも衛星DMBは有料サービスであり、番組も地上波テレビ放送とは違ったものであることを考慮すれば、いたしかたない結果ともいえる。

photophoto CYONブランドのLG電子製「SB130」(写真=左)は、初期の衛星DMB対応端末。日本では結局、モバイル衛星放送を受信できる携帯電話はNTTドコモの三菱電機製端末「MUSIC PORTER X」(写真=右)しか発売されなかった

 TUの利用料金は主に、TUの全チャンネルを楽しめる月額1万1000ウォン(約1100円)の「TU Basic」と、オーディオチャンネルと一部人気ビデオチャンネルのみ楽しめる月額6000ウォン(約610円)の「TU Slim」の2コースがあり、このほか契約時に加入料2万ウォン(約2000円)が必要になる。

 またクレジットカード会社と提携した割引サービスや、成人用チャンネルなど年齢制限のあるオプションサービスなども用意されている。さらに、衛星DMB機能付きのSK Telecom(以下、SKT)携帯電話であれば加入料が免除されるほか、月額6000ウォンまでの利用料が無料になる。TU Basicコースならば月額5000ウォン、TU Slimコースなら実質無料で視聴できる。SKTユーザーに限れば、実は端末さえあれば無料で放送が視聴ができ、条件的には地上波DMBとそれほど大きな違いはない。

 衛星DMBは、映像と音声の2つのサービスを提供している。複数チャンネルのテレビとラジオを同時に配信しているわけだ。ビデオチャンネルではドラマやニュース、バラエティなど、多様な19チャンネルを用意する一方、オーディオチャンネルもポップス、クラシック、バラード、演歌など18チャンネルをラインアップ。このほか韓国では衛星/地上波DMBの放送信号を利用して、道路交通情報を提供するサービス「TPEG」が提供されており、TUもこの事業者となっている。

 またTUサイトでは、対応端末を安めに購入できるショッピングモールや、ユーザー同士が情報交換したり、TU主催の試写会に参加できるコミュニティを用意したりと、さまざまなサービスをそろえる。ユーザーが少ないなりに多彩なサービスを提供し、投資を行うなどして会員確保に努めている印象だ。

 しかし加入者数は低迷しており、TUを運営するTU Mediaの経営は決して順調ではない。

低迷し続ける経営

 TU Mediaは2008年前半、社員の約30%をリストラしたが、損失額が資本金を上回るという非常に危険な状態に陥った。親会社のSKTが550億ウォンを出資し、株式を32.7%から44.15%まで買い増すことで立て直したが、TU MediaがSKTに救われるのはこれで6度目。増資のたびにTU Mediaは息を吹き返すが、起死回生までは至らない――ということの繰り返しだ。

 経営が安定しない原因としては、“実質無料”が前提となってしまった料金体系などが挙げられるが、サイマル放送への対応が遅れていることも指摘されている。地上波テレビをリアルタイムに衛星DMBで見ることへのニーズは高いが、TU Mediaでは1つのチャンネル(MBC)でしか実現していない。ユーザーがもっとも望んでいるサービスがないことが、加入者の確保に影響しているというのだ。

 また、衛星DMBに対する法的規制が厳しい点も見逃せない。例えば衛星DMBのチャンネル数は4つ以上とし、うち半分をビデオチャンネル(テレビ)にしなければならないチャンネル規制や、大企業や外国人・個人などが衛星DMB業者に大きな影響力を持たないよう、株主の資本比率が厳密に決められている。

 TU Mediaはこれまで、こうした規制の緩和を再三にわたって主張している。一方で、番組のサイマル放送に協力しないKBSやSBSといった主要テレビ局に対し、規制によりサイマル放送を義務化するべきとも述べている。

 実情に沿って適切な法整備がなされれば、運営資金やコンテンツの確保、サービスの質的向上の一助になることは確実だ。ただし、法整備のみで衛星DMBの人気が上昇する保障はない。自前のコンテンツや放送網を持つ地上波テレビ局の地上波DMBと、再配信のみを行う衛星DMB業者が、同じモバイル放送市場で共存していくことの難しさがここにある。

追い風に乗り、起死回生となるか

 そんな衛星DMBにも最近、追い風が吹いている。

 その理由の1つが北京五輪だ。注目のスポーツ競技が毎日行われる中、どこでも好きな時にテレビを見られる衛星/地上波DMBは人気を博した。SKTが、北京五輪に出場するスター選手を使ったプロモーションを展開したことや、前述のSlim料金制などが功を奏し、五輪前に約10万人の加入増を記録したという。それまで加入者実績から見ると、一時的とはいえ大きな躍進である。

 そして、韓国政府の放送通信委員会による規制緩和も行われた。同委員会では衛星DMB活性化のため無線設備規則を改正し、衛星DMBのラジオ信号に補助映像信号を乗せて送信する「ビジュアルラジオ」サービスが可能となった。例えば、音楽番組の音声とともに、歌手の写真や音楽ランキングなども同時に端末で見られるようになるのだ。このサービスはすでに地上波DMBで行われていたため、規制緩和によって衛星DMB業者との公平性が図られたといえるだろう。

 また放送通信委員会は、放送法の施行令改正案も発表した。衛星DMBのビデオチャンネル(テレビ)に関する規定が、現在の4チャンネル以上かつ“半分まで”から、4チャンネル以上かつ“3分の2まで”となるのだ。つまり、これまでは全チャンネルの半分までしかテレビ配信ができなかったが、将来的には全体の3分の2までテレビチャンネルに割り当てることが可能になる。

 もちろん、SKTとTU Mediaも動き出している。ソリューション分野で両社と提携関係にあるCipher Castingが、地上波DMB特別委員会とともに次世代DMBサービスの開発協力で合意した。地上波DMB事業者6社と、衛星DMB事業者のTU Media、その親会社であるSKTが足並みをそろえて次世代DMBサービスの技術開発を進めるわけだ。

 中でも注目されるのが、衛星/地上波DMBで共用できるDRMソリューションの開発だ。DRMはSKTが開発するもので、録画した番組を内蔵/外部メモリに自由に移動できるようになるという。

 また双方向サービスも視野に入っている。テレビ番組に対して意見を送る、番組を見ながらインターネットに接続し、検索を行うといったことも可能になる。こうしたサービスのために、携帯キャリア3社(SKT/TKF/LGT)が共同でオープンプラットフォームを用意。従来は地上波/衛星DMBごと、またキャリア別にインフラを用意したためコストとリソースが非常にかかっていたが、今後はより効率的にサービスを拡大できるだろう。

 以前SKTでは、衛星DMBの新規加入者に対して3カ月間の加入期間を義務付けていた。しかし3カ月後に契約を解除する人が多く、長期ユーザーが根付きにくかった。有料サービスにとっては、新規契約はもちろん、長期的に料金を支払ってくれる固定ユーザーをいかに確保するかが収益を得るカギとなる。

 だがTUは、多くのSKTユーザーを対象に実質無料の料金制度を適用しており、利用者から満足に運営費を調達できない体質だ。結局、広告収入に頼らざるを得ないが、“本職”の地上波DMBも広告収入の不足にあえいでいる。衛星DMBに求められる新作映画の放映や海外サッカーリーグの生中継といった優良コンテンツには莫大(ばくだい)な投資が必要で、衛星DMBの行く据えに不安がないわけではない。

 規制緩和や親会社からの助け舟、視聴機会を増やす世界的なスポーツイベントと、かつてない追い風が吹いたTU Media。この機会に経営体質の改善を図り、今度こそ順風満帆な経営ができるのかどうか、注目が集まっている。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。弊誌「韓国携帯事情」だけでなく、IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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