2016年6月、とあるゲームアプリの画像がTwitterで話題となった。アプリ名は「ひとりぼっち惑星」。ユーザーがTwitterに投稿したアプリの画像のリツイートや「いいね!」をきっかけに多くのTwitterユーザーがそのアプリ名を知ることになる。
結果、大量のアクセスによって、サーバがダウンするという非常事態に見舞われ、課金アイテムの販売も停止になるほどの盛り上がりを見せた。
実際にアプリを遊んでみると、ユーザー間でメッセージをやりとりするのが特徴のアプリなのに、返信ができないという不思議な仕様になっているらしい。いつでも連絡とれるのが当たり前の時代に、なぜこんなにもひとりぼっち惑星が流行しているのだろうか。
ひとりぼっち惑星の特徴は、その独自の世界観にある。内容は惑星に“ひとりぼっち”となったプレイヤーが、人工知能の「部品」を拾って「あんてな」を作り、宇宙から届く「こえ」を探すゲームである。と書いてもなかなか伝わりづらいだろうが、ストーリーを進めるとその他のユーザーとコミュニケーションが取れるようになる要素を持っている。
ゲームのあらすじをざっくり紹介すると、最初のうちは、アプリ内であらかじめ決まった固定のメッセージを受信し、それによってストーリーが進んでいく。しかし、それ以降はゲームで用意されたメッセージではなく、このアプリを遊んでいる他のユーザーからのメッセージが届くようになる。つまり、ゲームの前半と後半で性質が変わるのだ。後半は、いわば「ボトルメール」のような機能を持ったゲームだといえる。
アクション要素もなく、部品を集めるなどの簡単な操作が基本で、「ジンコウチノウ」「戦争」「宇宙」をはじめとしたSFを思わせるような言葉が多く出てくる。
また、アプリ内で流れる音楽がさらにその世界観を引き立てており、アプリ内で“こえ”を受信したユーザーがTwitterに続々と投稿するなど、SNSとの親和性も高い。誰とコミュニケーションできるか分からない、魅力あるメッセージが届いても返信できない……そんなもどかしさがヒットした理由なのだろうか。
冒頭の疑問に戻るが、なぜこんなにもひとりぼっち惑星が流行したのだろう。届いたメッセージに返信ができないシステムは常識的に考えると不満を呼びそうだが、そこにはどんな意味がこめられているのだろうか。
編集部からアプリを制作したところにょり氏にアクションを取ったところ、「メールならば」とインタビューに応えてくれた。
―― なぜ「ひとりぼっち惑星」を思い付いたのか、アイデアの発想となったものや影響を受けたものなどをおうかがいできますと幸いです。
ところにょり この手の質問は本当にいつも何時間も悩んでしまうのですが、数えきれない程たくさんのものからの影響が複雑に入り交じっているので、自分でもなんの影響でこれを作っているのかというのは把握できません(笑)。ただ、しいて挙げるとすれば、一人旅をして、人がまったくいないようなところで何もせず、じっとしているのが好きなので、そういった趣味嗜好が色濃く反映されているのは確かだと思います。
―― なぜ「ひとりぼっち惑星」がこんなにも流行したのでしょうか?
ところにょり やっぱり「みんな寂しいんだな」と思いました。どれだけSNSが乱立してコミュニケーション過多な時代になっても、常にいろいろな形のコミュニケーションを貪欲に求め続けていると言いますか、ひとりぼっち惑星では少なくともここ最近にはなかったコミュニケーションの形を提示できたと思うので、そういうのが時代に偶然合致したのかなと思います。
筆者は、ところにょり氏の中でアプリのもとになった特定の作品や過去の経験があるのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。
確かに、SNSが乱立している今では、常にネット上で誰かに見られているような感覚がある。スマホの普及で、ネット上の付き合いがさらに増え、SNS疲れやスマホ依存症に悩むユーザーもいるだろう。
度合いは人それぞれかもしれないが「誰でもいいから匿名で悩みを聞いて欲しい」「適度な距離のあるコミュニケーションが欲しい」など今までとは違う形で付き合いを構築したい人種は少なからず存在するように思った。
―― 「メッセージに返信できないシステム」にしたのはなぜですか?
ところにょり 基本的に、僕は自分の好みと合致する人だけに向けてゲームを作っています。なので、僕のゲームの全ての要素は「そういうのが好きだから」で説明することができるのですが、「返信できないシステム」のどこが好きなのかというと、それが最もシンプルで気兼ねないコミュニケーションだと思うからです。
受け取っても返信できず、送っても反応を期待できない場所なら、変な人に絡まれることもないですし、楽しくない人と楽しげに話す必要もなく、ずっと静かにひとりぼっちでいられます。ただ静かに誰かのこえに耳をすませて、こっそり泣いたり笑ったり、たまには怒ったりしながら、気が向いたら誰かに向けて「こえ」を送る。その「こえ」に頼んでもいない批評が返信されてくることもなく、ただ静かにどこかへと漂っていく。僕はこれだけでも十分なコミュニケーションだと思いますし、個人的にこれ以上のものは相手にもよりますが、だんだんと辛くなってくるので、そういった価値観が「返信できないシステム」につながっているのだと思います。
ところにょり氏はひとりぼっち惑星の「返信できない」「送っても反応を期待できない」この2つのシステムがあるからこそ「ずっとひとりぼっちでいられる」という。
リアルな場であれば、何かを話したら相手の反応が欲しいはずだが、アプリ内ではこれとはまったく逆のアプローチをアプリ内で行っている。このあたりに、筆者はところにょり氏の価値観が強くアプリ内で反映されているように感じた。
―― 課金システムについて、ご制作したゲームの中でどのように捉えていますか?
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