平昌五輪で「5G」をプレビュー そこで見えた課題と、東京五輪への要望(1/2 ページ)

» 2018年02月21日 12時21分 公開
[占部雅一ITmedia]

 韓国・平昌(ピョンチャン)で冬季オリンピックが始まった。スポーツイベントにもかかわらず、今回の大会は、別名「5Gオリンピック」と言われるテック大会で、5Gの実証実験が行われていた。私は2月8日に急きょ韓国に飛び、平昌、江陵(カンヌン)の各会場、そしてソウル市街で設置されている5Gパビリオンの様子を見てきた。

平昌オリンピック

5Gは何がすごいのか?

 5Gとは、第5世の代移動通信であり、現在中心の4Gに続く新しい規格だ。日本では2019年〜2020年からの商用化を目指している。最大スピードが20Gbpsで、4Gや固定回線よりも速い。1GB容量の映画1本なら10秒以内にダウンロードできるスペックだ。

 レイテンシ(遅延)は1000分の1秒以下となり、ほぼ遅延はゼロという特徴も持つ。これにより、遠隔地からスピーディーに通信をして、事故を防いだり進むべき道を提案してくれたりする「自動運転」が可能になるといわれている。また多数の端末と「同時接続」できることも特徴だ。

平昌オリンピック

 こうした5Gの性能は、現在のITの要素である、AI、クラウド、VR、GPS、IoT、クルマの自動運転などの実用化を進め、機能拡張していく基本要素になる。ドイツは2011年に「インダストリー4.0(第4次産業革命)」を発表し、現在世界各国で新しい産業プラットフォームが研究・推進されているが、その土台になる技術が5G通信といわれている。そのためその利便性を求めて5Gは、統一規格を目指している段階だ。

 2017年5月に韓国の大統領となったムン・ジェイン氏は、この「第4次産業革命委員会」を政府が後押し、IoTや自動運転に必要なインフラを国の主導で整備し、韓国が再びITの分野で世界をリードする構想を発表。科学技術の研究投資も2020年までに倍増するとした。こうした背景があり、韓国は今回の実証実験サービスに踏み切ったわけだ。

3つの新しい映像手法にチャレンジ

 今回の試合中継でチャレンジするのは、以下に紹介する3つの映像手法だ。

 「タイムスライス」は、江陵のアイスアリーナで利用される。フィギュアとショートトラック競技が行われるリンクの壁面には、カメラ100台が一定の間隔で設置されている。決定的シーンを100台のカメラで撮影した後、複数の方向から分割して多角的に見ることができる。映画「マトリックス」で見たような立体映像だ。

 「オムニビュー」では、いろいろな視点のポイントから、ストリーミングで競技中に視聴者が望む視点のリアルタイム映像と各種情報を見ることができる。バイアスロンなどでは、GPSと組み合わせて、位置情報を得ながら、実際にライブのシーンを見られる。

 「シンクビュー」では、POV(ポイントオブビュー)として、選手視点での映像を見せる。ボブスレーの正面にカメラを設置して、高速で迫力ある映像をライブで見られる。

 注目したいのは、今回のオリンピックスポンサーであるKT(旧コリアンテレコム)が、オリンピック会場以外でも、江陵駅前のICTプラザやソウル市街のパビリオンでなどで、5G映像体験を楽しめるようにしている点だ。

会場内外で展開される5G体験コーナー

 テックイベントの装いを強く感じられた今回のオリンピック。江陵の会場パピリオンでは、VRやARを使ったゲーム感覚の体験イベントが行われていた。同会場には、KTをはじめ、SamsungやアリババなどのIT企業も名を連ねている。また、これらのデモが行われているのは、平昌と江陵のオリンピック会場内だけではなかった。

 江陵駅前では、物産展の横にKT主体によるICTプラザが用意され、実際にAR、VRなどの5Gと関連する疑似体験コーナーにて、韓国ITベンチャー企業が提供しているサービスのデモが行われていた。同じように、ソウルの光化門(クアンファンモン)広場ではKTのパビリオン、近くのシティーセンターには、競合であるSK Telecomの5G体験コーナーがあった。また農業地帯のカンウォンドのウイヤジ村には5Gビジレッジが、ソウル駅やインチョン空港にもICT体験コーナーが用意され、どこにいっても5Gというキーワードが自己主張をしていた(下記の表を参照)。

オリンピック会場内外で行われていたサービスデモ
地域 場所 デモ内容
江陵 オリンピックパーク KTパビリオン、5Gコネクテッド(VR、AR、タイムスライス体験)、Samsung、アリババ、KIA自動車のパビリオン
月火通り  IoT、VR、動作認識メディアアートにより最先端ICTの体験機会を提供
駅前広場 ICTスクエアを設置
平昌 オリンピックパーク ヒュンダイパビリオン、自動運転、パナソニック
江陵・平昌共通 Play IoT Service Desk 音声翻訳アプリ(ジニートーク)、ARによる会場案内アプリ
コネクティッドバス(ホログラム映像通話)UHD映像のストリーミング
ロボットヘルパー85台
プレスセンター 飲料サービングロボット4台
駐車場 IoTセンサーの設置で、駐車場利用可能車両台数のお知らせ
アパレルショップ バーチャル試着体験、VISAスマート決済&手袋
江原道横城ウエルリヒーリーパーク スキーロボット競技大会開催
ウイヤジ村 平昌5Gビレッジ AR VR ホログラムを通じて観光案内、ドローンによる映像案内、電気自動車、充電設備を用意
ソウル クアンファンモン KTパビリオン、5G Live Site
シティーセンター SK Telecomイベント館
ソウル駅 ICTプラザ
仁川空港(第1ターミナル) ICTプラザ
テレビ 韓国地上波放送 UHD(4K)で生放送

平昌オリンピック 韓国政府に評判がいいというARを使った産地直販。道の駅でガイドが取れたての野菜を動画で案内し、そのまま購入できるというイメージだ
平昌オリンピック VRを使ったスキージャンプの疑似体験コーナー。台が傾き、下から風が送られる
平昌オリンピック 85台用意されたというロボットヘルパー。オリンピックのマスコットであるホワイトタイガーがモデル
平昌オリンピック
平昌オリンピック ソウル・シティセンターでのSK Telecomのパビリオン。豪快な5G体験を楽しめる
4Gと5Gの回線で再生した動画。左の5Gで再生した動画の方が、スムーズに流れている

圧巻だった1218台のドローン飛行

 開会式のIntelによる1218台のドローン飛行は圧巻だった。今までの最大500台から、一気に2倍以上のドローン編隊を実現した。今回はまだ従来の技術を使ったものだが、5Gを使ったコントロールにすればもっと台数を増やせるという。

平昌オリンピック Intelのドローン1218台で作られたショー。PM2.5 などの除去に使う構想がある。詳細な動画をIntelのWebサイトから視聴できる

 実際の競技では、平昌オリンピック15の競技種目のうち、ショートトラック、フィギアスケート、ハープパイプ、クロスカントリー、ボブスレーの5種目で利用されるという。このあたりの制限も実証実験サービスのゆえんである。

 映像技術で5Gを生かすには、映像制作の送り出す側の撮影手法と、ユーザーとして利用する受信手法が必要だ。既存の技術でプロフェッショナルな映像は制作できるが、問題は受け手側だ。

 受け手側は5Gの専用端末を持つ必要がある。これがなければ、リアルタイム映像のやりとりは不可能で、録画コンテンツを見る形になる。今回、KTはSamsung電子と共同開発した5G専用タブレット1100台を用意し、パビリオンを中心にデモを公開していた。しかし、来訪者にこの5G端末を貸し出すサービスがないと、観戦しながら5Gを体験することはできない。

平昌オリンピック
平昌オリンピック Samsungの5Gタブレット。まだデモ機であり厚みがある
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