2019年に登場する5Gスマートフォン 「高速通信」だけでなく「低消費電力」もメリットにQualcomm 4G/5G Summit

» 2017年10月30日 16時47分 公開

 前回のレポートでも述べたように、2019年からの商用サービスが見込まれている5G通信では、高速通信を可能とする高周波数帯域の果たす役割が大きくなる。特に30GHz超の「mmWave(ミリ波)」と呼ばれる帯域では、電波は従来の周波数とは異なる性質を持っており、これを見越したデバイスの設計が重要となる。米Qualcomm Technologiesでマーケティング担当シニアディレクターのPeter Carson氏が、5G時代の高速通信とアンテナ設計の概要について解説した。

Qualcomm 米Qualcomm Technologiesでマーケティング担当シニアディレクターのPeter Carson氏

5Gスマホのカギを握る「レファレンスデザイン」と「モデム」

 5G世代では、数10Gbps通信を想定したミリ波、数Gpbs通信を想定した6GHz以下の周波数帯(Sub-6GHz)、そして現在利用されているギガビットLTEの3種類のネットワークを組み合わせ、さまざまな用途での無線通信需要をカバーすることが想定されている。

 一方で、最大数10Gpbsに達する高速通信を実現するにあたって主力となるミリ波では、従来と比較しても直進性が強いという理由から到達距離が限られるという性質があり、これがカバレージ拡大における課題となる。Carson氏によれば、こうした帯域では特にビームフォーミングが重要となり、カバレージにおける問題をある程度解消できるという。

 現在、ミリ波を使う高速通信は、60GHz帯を用いたIEEE 802.11adのWi-Fiが挙げられる。802.11adのルーターなどでは24のアンテナが同時にビームフォーミングを行うことで最大7Gpbsの高速通信を実現する。実質的には5G NRでも同様の仕組みを実装することで高速通信が可能になり、技術的な共通点があるようだ。

Qualcomm 5Gにおける主役となる「mmWave(ミリ波)」の世界。従来とは異なる性質を持っている

 現在のところ、Qualcommでは2種類のラインで5G向けスマートフォンの開発を進めている。1つは4G/5G Summitの基調講演でCristiano Amon氏が見せた5Gスマートフォンのレファレンスデザインで、この開発は1年半前から行われているという。もう1つは今回のタイミングで発表されたSnapdragon X50 5G Modemで、こちらは商用製品への搭載を目指してプロセッサの開発が進められているものだ。

 最終的に、5G対応製品には既存のギガビットLTEに加え、ミリ波対応モジュールを搭載する形となり、これに合わせたアンテナ設計が必要となる。

 ソニーモバイルコミュニケーションズの製品開発担当バイスプレジデントの村田和雄氏は、現在のスマートフォンでは既に複数の無線技術に対応するためにさまざまな種類のアンテナを複数本体に搭載する形態を取っており、これが5G世代になってより複雑化することで、設計におけるノウハウがより重要になることを指摘している。Qualcommが提供するレファレンスデザインやアンテナアレイの仕組みは、この手間を低減する役割を果たすことになる。

Qualcomm 5Gのアンテナ設計は802.11adのWi-Fi技術のノウハウを引き継いでいる
Qualcomm スマートフォンにおけるミリ波対応では、カバレージ、サイズ、バッテリー消費の3つの課題を同時に解決する必要がある

 5G対応スマートフォンにおけるアンテナ実装では、必要なアンテナゲインを確保しつつ、実装サイズや過度なバッテリー消費を抑えるバランスが重要となる。もちろん、アンテナ数を増やすことでアンテナゲインは増加するが、同時に実装面積や消費電力の問題があるため、スマートフォンにおける実装では4アンテナ構成のアレイを採用している。

Qualcomm アンテナゲインを得るためのテクニック。アンテナ配置とビームフォーミングの組み合わせで最終的な出力を得る
Qualcomm バランスを取って4アンテナ構成とした場合に、目標とする30-35 dBm EIRPを得ることができる

高周波数帯域は消費電力の面でもメリットがある

 もう1つ、ミリ波のような高周波数帯域における通信では、一定の消費電力を超えると、同じ消費電力でより高いスループットが得られるという興味深い性質がある。一般に、ユーザーは高速通信の実現を好むが、スマートフォン利用において最も重視するのは「バッテリー消費」の部分であり、単一のデバイスでより長い時間通信できる環境を望んでいる。

 その意味で、最も電力消費あたりの通信容量が大きい5G世代の通信技術は、よりユーザーのニーズにマッチしたものといえるかもしれない。通信速度では現状のLTEと比較して6GHz以下の周波数帯(Sub-6GHz)で5倍、ミリ波で最低でも10倍程度への高速化が見込まれており、ユーザーが得られるメリットは非常に大きいものとなりそうだ。

Qualcomm 高周波数帯域ほど消費電力あたりの通信速度が高いという性質がある

2019年に5Gスマートフォンが登場する

 そして今回の5Gで重要なのが、2019年に最初に登場する5Gデバイスというのが「スマートフォン」という点にある。LTEではタイミングの問題もありモバイルルーターが先行する形となったが、5Gでは最初からスマートフォンをターゲットに開発が進められており、今回のQualcommが提供するソリューションもそれを前提に動いている。

 ゆえにアンテナのサイズや端末設計の面でもスマートフォン向けに最適化が行われている。Snapdragon X50 5G Modemやレファレンスデザインの発表は、このタイミングでメーカー各社の5G対応端末の開発がスタートしたことを意味しており、1年半から2年後には順次市場投入されることになる。

 2018年は、これらチップを搭載したプロトタイプを用いて携帯キャリア各社での5Gトライアルが始まり、翌2019年には対応スマートフォン製品が市場投入され、その他IoT関連など5G対応デバイスもそれに続く形で発表されることになるはずだ。

Qualcomm アンテナ小型化とそのデザインにより、端末設計における自由度が上がっているという
Qualcomm 5Gへのロードマップ。FPGAをベースにプロトタイピングが行われており、今回のX50モデム登場で本格的に製品開発がスタートすることになる。それと並行して2018年には携帯キャリア各社での5Gトライアルが始まり、2019年のサービスインを見込む

取材協力:クアルコムジャパン

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