「通信の最適化」とは何か? MVNOにとって福音となるのか?:MVNOの深イイ話(2/3 ページ)

» 2018年06月30日 06時00分 公開
[佐々木太志,ITmedia]

SSL化が阻む「通信の最適化」

 しかし、ここまで述べた「通信の最適化」は、最近、当初企図された通りに導入することが困難になってきています。その最大の課題はSSLです。昨今、セキュリティ意識の高まりにより、SSLによる暗号化を採用したWebサービスが増加しています。なぜ、SSLによる暗号化が「通信の最適化」の課題となるのでしょうか?

 特に1の「ペーシング」、2の「コンテンツ改変」は、共に通信されているファイルを通信経路上に置かれたネットワーク装置が認識し、制御する必要があります。コンテンツ改変をするためにオリジナルのテキストファイル、画像ファイルや動画ファイルが必要なのは当然ですし、動画のペーシングでは、転送されているものが動画ファイルであるか否か、動画だとすればそのビットレートは何Mbpsであるかが分からなければ正しく制御ができません。

 しかし、SSLで暗号化されたWebサービスでは、通信されているファイルは、その途中のネットワーク装置では意味不明のビット列にすぎないのです。

 このため、徐々に少なくなってきている非SSLなWebサービスでのみ、「通信の最適化」は正しく機能するという状況となります。ペーシングに関しては、SSLで行われている継続的な通信は全て動画であると見なして、一律に決められたビットレートでペーシングすることは可能ですが、その場合は、例えばWebサイトからのバイナリデータのダウンロードがその巻き添えとなって通信速度が制御されるなど、本来意図しない影響が出ることが考えられます。

「通信の最適化」と法律の関係

 今度は法的な観点から通信の最適化を見てみましょう。前回のこの連載でも触れましたが、電気通信事業者の事業は電気通信事業法が義務付ける「通信の秘密」を守りつつ、最小限の範囲でその秘密を(合法的に)暴くことで成立しています。それでは、「通信の最適化」は電気通信事業法的にいえばセーフでしょうか?

 「通信の最適化」が、他の電気通信事業者の業務(トラフィックの伝送や通信ログの取得等)と同様に「通信の秘密」を侵害していることは間違いありません。そのため、電気通信事業者は、以下の3類型で示される違法性阻却のいずれかを満たす必要があります(でなければ法律違反となってしまう)。

  1. 正当業務行為(刑法35条)
  2. 正当防衛(刑法36条)
  3. 緊急避難(刑法37条)
通信の最適化 通信の最適化を行うには、ユーザーの同意を取るか、「正当業務行為」「正当防衛」「緊急避難」に該当する必要がある。図版は「帯域制御ガイドラインのポイント※PDF」から
通信の最適化 こちらは「帯域制御の運用基準に関するガイドライン(改定)」から引用。7ページ目に、違法性阻却の詳細が記されている

 これら3類型に合致しない場合でも、利用者の個別かつ明確な同意があれば問題はありません。これらのうち、2と3は、いずれも緊急時に限り使えるものですから、一般的に恒常的に行われる通信の最適化を正当化することはできません。そのため、1の正当業務行為に該当するか、利用者の個別かつ明確な同意があるか――を考える必要があります。

 「通信の最適化」が(顧客の個別かつ明確な同意なく適用して問題ない)正当業務行為に該当するかは、最終的な個別の事案に対する判断となりますが、業界のガイドラインはP2Pアプリケーションへの帯域制御の時代のものしか存在せず、一般的にいえば現時点では白黒どちらとも判断することができません。ただ、個別かつ明確な同意までは仮に取得し得ないとしても、電気通信事業者として利用者にメリット・デメリットについて説明を行う必要は求められるでしょう。

 別の観点では、コンテンツの改変が著作権法に基づく同一性保持権を侵害するという指摘もあります。同一性保持権とは、著作者の意に反する改変を禁止することができる著作者の権利です。電気通信事業者が画像や動画を不可逆に圧縮すること(劣化させること)をその画像や動画の著作者が同一性保持権の侵害として訴え、勝訴すれば、利用者の同意等の条件に関わらず、電気通信事業者は当該画像や動画を不可逆的に圧縮することはできなくなります。ただ、これも過去に判例があるわけではなく、そういう観点からも法的リスクがある、というのが現在の状況ではないでしょうか。

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