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» 2018年09月15日 06時00分 公開

MVNOの深イイ話:「端末価格と通信料金の分離」 MVNOが果たした役割は? (2/2)

[佐々木太志,ITmedia]
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SIMロックフリー端末が実現した「端末価格と通信料金の分離」

 2012年に筆者が開発に関わったIIJmioのLTEサービスが開始されたのを皮切りに、数多くのMVNOが参入しましたが、今のようにSIMロックフリー端末は販売されておらず、この頃に事業参入したMVNOにとって端末に関わる問題は当初から大きいものでした。

 利用者ゼロからスタートしたMVNOには、MNOのように自ら端末を企画し在庫を持つことは不可能です。そのため、利用者は、手持ちか中古のドコモブランドのAndroid端末を使うか、海外から個人輸入したiPhoneやAndroid端末を利用するかしかMVNOのSIMカードを利用するための選択肢がない状態でした。

 しかし、この端末の問題をものともせずMVNOは成長していきます。これは、潤沢に中古市場に供給され続けていたドコモブランドの端末のおかげといえます。皮肉にも、MVNO市場の最初のハードルは、キャッシュバック目当てで販売され、場合によっては一度も使われることのないまま「新古品」となったMNOブランドの端末が突破させたと思っています。

 一度弾みがついた後は、良いスパイラルがMVNOの成長を加速します。国内のMVNO利用者が増えたため、世界中でSIMロックフリー端末を販売していた海外メーカー(LG、ASUS、Huaweiなど)が日本市場に続々と上陸し、ようやく、携帯電話が固定電話のように家電販売店で契約なしで買えるようになりました。

 Appleでさえ、2013年には直営店(Apple Store)でSIMロックフリー版iPhoneの販売を始めます。新しい販売方法に積極的にチャレンジすることができる新規参入事業者(MVNO)、潤沢に中古市場に供給され続けたキャリアブランドの端末に加え、オープンマーケットで買えるSIMロックフリー端末が加わることで、モバイルビジネス研究会の目指した「端末価格と通信料金の分離」という課題がクリアされたのだと思います。

iPhone 5s 2013年に発売されたiPhone 5sと5cから、Apple直販のSIMロックフリーモデルが登場した

 その後、MNOの「実質0円」「一括0円」は共に規制され、一部のMVNOは端末価格と通信料金が混然一体となったプランを提供するなど、端末価格と通信料金の分離は一進一退の状況です。これは、「端末価格と通信料金の分離」という理念が、利用者にとって自らの支払いが透明化するというメリットと、別々にコストを考えなければならなくなり面倒であるというデメリットの両方を持っているからではないでしょうか。

 つまり、端末価格と通信料金の分離が金科玉条であるというより、事業者がさまざまなメリット・デメリットを勘案したさまざまな販売方法を実現し、それを利用者が選択していくという、多様性こそが重要であるのだと思います。

4年縛りの是非とは

 さて、昨今、メディアで「4年縛り」と呼ばれる新しいスマートフォンの販売方法が採り上げられるようになりました。これはソフトバンクが「半額サポート」、KDDIが「アップグレードプログラムEX」という名称で提供している販売方法です。新規にスマホを契約する際に48回払い(4年払い)の割賦で契約し、2年経過後に再び同販売方法により48回払いの割賦契約で新しいスマホを買い、最初に買ったスマホを返却すると、その最初に買ったスマホの残債(半額)がゼロとなる、という販売方法です(細かい適用条件は各社のWebサイト等をご覧ください)。

ソフトバンクとKDDIは、48回払いで端末代を実質半額にする施策を実施している

 これは、利用者から見ればスマートフォンを半額で購入できるという魅力的な販売方法である反面、2年経過後に他社に転出すると、残債免除の特典が失われ、端末代金の半額を支払わなくてはならなくなるというデメリットがあります。つまり、利用者が容易に他社に離脱できない(ロックイン)という特徴を持つ販売方法でした。

 似通った販売方法として、車の残価設定型ローンが挙げられます。これは、車のローンを組んで購入した後、一定の期間(車検に合わせ3年であることが多いようです)経過後にその車を返却することで、その時点で残っているローンの残債がゼロになるプログラムとなります。この場合、車を返却しなくとも、引き続き完済までローンを支払い続けることもできますし、その時点で残債を一括で完済することも選べます。

 このような車の新しい買い方は、頻繁に車を買い替えても負担が比較的軽く済むというメリットがあり、多くの消費者が利用し社会的に受け入れられています。

 携帯電話と車の違いは明らかです。携帯電話の「4年縛り」は2年後に残債をゼロにする条件として、次の4年間の期間契約を求めるのに対し、車の残価設定型ローンは3年後に同じメーカーの車を買うことまでは求めていない(3年時点で他メーカーの車を買っても問題ない)ところにあります。そして、ここがまさに公正取引委員会が2018年6月の報告書で指摘した問題点となります。

 筆者は、長らく携帯電話のスタンダードであり続けてきた2年縛りというプランは、直ちに問題だとは思っていません。利用者が割引を受ける代償として2年間の長期契約を約束すること自体は、利用者がそれを望むのであれば決して不当な条件ではなく、またその離脱に関する条件についても徐々に緩和されてきており、ロックインにより他社の事業遂行を直ちに困難にするほどの問題ではないと考えられるからです。

 しかし、「4年縛り」については端末販売と通信料金が複雑に入り組んでいるだけでなく、利用者の他社への乗り換えを心理的に制約する効果が非常に高く、一度でも契約してしまった顧客の以後の流動性を阻害し、他社の事業に大きな困難を与えかねない懸念があると考えます。

 「4年縛り」を導入した2社(KDDI、ソフトバンク)は、公正取引委員会の指摘を受け、これらの販売方法の改善を行う方針を明らかにしています。高騰するハイエンドスマートフォンの端末価格を考えれば、通信料金から端末価格へ補填(ほてん)する選択が利用者により一層望まれることもあるでしょう。

 しかし、利用者がハイエンドスマートフォンを利用しやすいプランを考えていくことは、利用者を心理的に過度に縛ってよいという意味ではないことを、MNO、MVNOを問わず携帯電話事業者は肝に銘じる必要があるのではないでしょうか。

著者プロフィール

佐々木太志

佐々木 太志

株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) ネットワーク本部 技術企画室 担当課長

 2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。


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