動画撮影に目を向けると、HDRビデオの撮影が可能になったのは大きな違いだ。
通常、HDRビデオはRAWやlogで撮影しておき、後から編集でトーンを割り付ける(グレーディング作業という)。A14 Bionicはこのグレーディング処理を自動的に行うようで、製品発表会では「Dolby Vision」に対応しているとアナウンスされた。
ただしテストを通じて、どこがDolby Vision対応なのかは、実は判然としていない。というのも、記録される映像フォーマットはDolby Visionではなく、HLG(ハイブリッドログガンマ)だからだ。
iPhone 12・12 Proが記録するHDR映像は、HEVC圧縮されたBt.2020カラーの10bit HLGストリームだ。最も標準的な映像であるため、対応する編集アプリを用いれば、簡単にHDRビデオを扱うことができる。
試しに3種類ほどの動画をミックスしたサンプル動画を掲載しておく。iPhone 12・12 Proで撮影した映像をそのままYouTubeにアップロードすれば、問題なくHDRビデオとして認識されるが、別の編集アプリからYouTubeプラグインを使う場合はHDR情報が落ちてしまうので気を付けたい。編集アプリを用いる場合は、Apple ProResなどのHDR対応フォーマットに出力してからYouTubeに直接アップロードする必要がある。
動画冒頭、女性のトークはiPhone 12 Proの内蔵マイクを用いたものだ。それ以外の動画では音声をミュートにしている。カフェのシーンは点光源の輝き感、屋外シーンは空の青さと明るさ、それに日陰の建物とのコントラスト。クラブDJのシーンでは、暗所ノイズとイルミネーションの色ノリやHDRらしいコントラストの高さを確認できる。
さてカメラ機能を中心に紹介してきたが、今回試用できたiPhone 12と12 Proの違いについておさらいをしておきたい。もちろんシャシーの素材やカラーは異なるが、6.1型ディスプレイを搭載した外観の形状は全く同じで、同じケースを共用できる。
ディスプレイ輝度が625nits対800nitsと異なるが、これは通常時の最大輝度だ。屋外での視認性にやや違いはあるものの、625nitsも一般的なスマートフォンの基準からするとかなりの高輝度で、日常的なシーンではその違いを意識することはない。いずれもHDR動画を表示する際には1200nitsが最大輝度となる。
つまり、両者の違いはほぼカメラと搭載するメモリ(RAM)容量の違いだと考えていいだろう。
今回の作例は、ほとんどをiPhone 12 Proで撮影したが、iPhone12との違いは望遠カメラとLiDARスキャナが搭載されている点のみだ。これが6.7型のiPhone 12 Pro Maxになると、広角カメラのセンサーサイズが拡大し、さらにセンサーシフト式の手ブレ補正が追加されるなどの違いがあるが、iPhone 12と12 Proの違いは少ない。
ただし、これはハードウェアの話で、iPhone 12の写真におけるメイントピックであるコンピュテーショナルフォトグラフィーの領域には違いがある。
iPhone 12は4GB、iPhone 12 Proには6GBのメモリが搭載されており、その分だけメモリ上にカメラからの情報およびA14 Bionicで処理した分析レイヤーをバッファできる。
現時点で静止画カメラの機能に制約はないが、iPhone 12では4K・60PのHDR撮影が行えない(30Pまで)という制約がある。これはセンサーからの情報を取り出し、HDRで適切に切り出す処理を行えるだけのバッファが取れないからと推察される。
また、年末までに追加予定の「Apple ProRAW」フォーマットもiPhone 12 Pro(と12 Pro Max)のみの対応だ。このフォーマットはカメラRAWに加え、A14 Bionicが分析したコンピュテーショナルフォトグラフィー処理結果をレイヤー情報として付加したものになる。
RAWデータと分析レイヤーを両方ともバッファしてファイルにまとめて保存するには大量のメモリが必要と想定される。この機能差もまた、搭載メモリによるものと想像できる。
ただし、この搭載メモリの差は(常にカメラ機能が動作する可能性を考えれば)通常のアプリ使用時には影響しない、あるいはほとんど感じないはずだ。なぜならカメラのためにある程度、利用するメモリが予約されている必要があるからだ。
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